坂本侑那さん
2024/04/00 UPDATE
坂本侑那さん
2期生(2022年卒)
鹿児島大学出身
福岡市立小学校(2年担任)

楽しみながら学べる
「絵本の読み聞かせ」に力を入れています
 地元・福岡市で小学校の教員をしている坂本侑那さん。教員生活の2年目を迎え、自分が子どもたちのためにやりたいこと、教師として身に付けたいことに果敢に挑戦しています。インタビューに応える語り口はやさしく穏やかですが、胸の奥にある教育に対する情熱が伝わってきます。
- ご協力ありがとうございます。近況を教えてください。
 2022年の4月から福岡市立小田部小学校に就職し、現在2年目です。小田部小学校は1学年3~4クラスの中規模校で、1年目の昨年は3年3組の担任、2年目の今年は2年1組の担任をしています。係等は音楽委員会とダンスクラブ、校務分掌は職員会計、芸術鑑賞、情報(副リーダー)、音楽、備品、人権部を担当しています。
 私は福岡出身で、たまたま実家から自転車で10分程度の距離の学校に赴任になりました。地域としては校区全体が閑静な住宅地で、小学校と地域とのとつながりも深いです。全国で最初に地域の方々による見守りのパトロールカーを始めたのが、この小学校ということです。朝の登校時間にも見守りの車が回っていますし、毎朝雨の日でも路地に立って「おはよう」と声をかけてくださる方々がいます。また小田部大根という特色のある大根が有名で、2年生の生活科の時間に地域の大根農家さんが指導に来てくださり、大根の植え方や収穫法を指導してくださいました。ほかにも地域の方が指導者として授業に関わってくださることもよくあります。温かい地域の雰囲気のなかで、子どもたちも素直で元気いっぱいです。私のクラスの子どもたちも、発表一つでも全力という感じで、授業中も休み時間も変わらないくらい活発に過ごしています。
- 子どもとの関係づくりで意識していることは?
 力を入れているのは、絵本の読み聞かせです。基本は朝の会が終わった後から1時間目の授業が始まるまでに隙間時間があるので、そこで読むことが多いです。特に月曜日は朝から気持ちが落ちている子もいるので、ちょっと元気になってもらおうかなと思ってクスッと笑えるような本を読むこともあります。あとは授業の終わりに5分だけ時間が余ったようなときにも絵本を1冊読みます。読み聞かせに使う本は、定期的に書店に行って自分で本を購入してストックしています。あとは子どもたちが図書室から借りた本の中で「みんなに紹介したい本はない?」と聞いて、その場で読むこともあります。
 たまたま今の勤務校の中に教員の絵本サークルがあります。すごく絵本に詳しい先生が1人いらっしゃって、その方が「子どもに指導という形で伝えなくても、絵本を通して伝えられることはたくさんある」と教えてくださいました。友達との付き合い方やいろいろな感情があることなどを、絵本で知ることができるのは素敵だなと思います。
坂本侑那さん
絵本専門書店でおすすめされた絵本の中で「子どもたちに読みたい!」と思ったものを買って教室に置いています。「年末は大人買いして3万円分も買ってしまいました! 私自身も隙間時間に読むのを楽しみにしています」
 子どもたちも、どんなにザワザワしていても「絵本を読むよ」と本を出した瞬間に、みんながさっと前に集まって静かに聞いてくれますし、やんちゃな子でも絵本を通して交流できるのはいいなと思います。子どもの語彙力も増えたと感じます。最近作文を書いてもらったところ、みんなワードセンスがよくて、話の流れも上手だなと思いました。
 読み聞かせといっても、読み方に特別なテクニックはありません。絵本はむしろ淡々と読んだほうがいいそうです。あまり読み手の感情が入りすぎると、その人の価値観を植えつけてしまうので、聞く人に想像を膨らませてもらうためには、あまり抑揚をつけずに読むのがいいと教わりました。私はそれを意識しつつも、たまに関西弁の本があると、あえてコテコテの関西弁で読んだりもしますね(笑)。
坂本侑那さん
絵本カバーをバッグやパズル、しおりにリメイクして有効活用。「バッグは自分の小物入れに、パズルは雨の日のお楽しみに、しおりは児童が目標を達成したときのご褒美にします。くじ引き形式で毎回大盛り上がりです!」
- 絵本のほかにも、いろいろな取り組みをされていますね。
 音読で元気よく読んでいる子に、机間巡視をしながらシールを貼っています。机の間を回りながら「よく読めているね」と、教科書を読んでいるところにその場でシールをどんどん貼っていきます。あとは宿題の漢字やプリントで花丸をつけるときに、ライオンなどの顔をつけた特別な花丸を書くときがあります。花丸などのシールを専用のシール台紙で自作することもあります。子どもがきれいに丁寧に字を書いたときや家庭学習を頑張ってきたときなど、ここぞというときに使っています。
 それから休み時間は最大限、子どもと関わって遊びます。宿題を早く見て昼休みは教室にいて子どもとお喋りをしたり、外で大繩をしたりしています。休み時間は子どもの素が見えるときでもあります。授業中は物静かな子が昼休みには豹変しておちゃらけている場合もありますし、授業中は活発なのに休み時間は一人で本を読んでいる、という子もいます。話をするなかで家庭のことを話してくれる子も多いので、家庭の状況もわかります。
 生徒指導では、2年生は子ども同士のトラブルも少なくありませんが、そのときは「どうしてやってしまったのか」「本当はどうしたかったのか」を子どもに寄り添いながら聞くように努力しています。トラブルは、バカと言った・言われたとか、言葉がきつかったなどの内容が多いですね。でも昨年度同じ学年だった先生に「バカと言った子も、バカという言葉を伝えたかったわけではなく、その背景には本当はこうしたかったという思いがある」と教えていただきました。それで私もただ「ダメでしょう」と伝えて終わりではなく、その子がそうした理由や本当にやりかったことを聞いたうえで、相手にも伝え、仲直りやトラブルの解決につなげられるように促しています。
坂本侑那さん
専用シートで自作したご褒美シール。「簡単に作れて費用も安いのでプリントやノートにじゃんじゃん貼ります」
- 次に、授業づくりについて教えてください。
 授業づくりでは、子どもの興味を引く導入ができるように、いろいろと試しています。私が大学3年生のときの教育実習の先生が導入を大事にされる先生で「授業の始まりに興味を引くのが、その後の学習への意欲が高まる秘訣」と教えていただいたので、導入で子どもの心をつかむことを考えるようになりました。
 最近の例では、チョコレートが出てくる算数の問題で、本当にチョコレートを出したことがあります。かけ算で数を数える学習でしたが、習ったことを普段の生活に活かせることも示したいと思い、本物のチョコレートと箱を持ってきて、普通なら4×3のように並べるところをわざと変形させて「これちょっと数えにくいんだけど、どうしたらいいと思う?」と聞くと、子どもはくぎ付けという感じで(笑)、懸命に数える方法を考えてくれました。
 あとはICTで、クラスの意見共有の場を増やすことも意識しています。私のクラスに場面緘黙といって、学校ではほぼ言葉を発することができないお子さんが1人います。授業でまわりの子と話し合うという活動も難しいのですが、タブレットで「今の自分の考えを送ってください」と指示するとできるんです。そこでクラス全員の意見を知りたいときや、みんなの考えを一気に出したいというときにはICTを活用しています。
 また授業力を高めるため、勉強会や研修会に積極的に参加しています。今年の9月に福岡市教職員組合に入ったので、その勉強会にも参加して学んでいます。
- 教員としてやりがいを感じるのは、どのようなとき?
 昨年度に不登校気味だった子が、学校に来てくれるようになったエピソードがあります。昨年度のクラスに、ゲームが大好きで週に2日ほどしか学校に来ない子がいました。登校したときは楽しく過ごせるのですが、家庭にも事情があり、なかなか登校できない状態でした。私も当初は子どもとの関係を保ちつつ、少しずつ登校を増やせればいいなと思って家庭・本人と関わってきましたが、3学期の最後になっても登校が増えず、次年度に新たなスタートを切ろうにもこのままでは難しい状況でした。そこで「待っているだけじゃ変わらない。もう嫌われてもいい」と思い、朝にその子の家へ行って直接登校を促したんです。結局、そのとき本人は泣きながら「行きたくない」と言って登校できなかったのですが、少なくとも担任である私の本気は伝えることができました。
 結局、私が担任の間は登校のペースは変わらなかったのですが、今年に入ってその子は前よりも登校できる回数がかなり増えました。そして今年の担任の先生から、本人が「私は前より登校できるようになったから、来年はまた坂本先生に担任になってもらって一緒に勉強を頑張りたい」と言っていたと聞いて、すごく嬉しかったです。私が担任だったときには変わらなかったけれど、自分が全力で取り組んだことにも意味があったのかなと思えました。
 他にも、子どもが心を開いて話をしてくれたことも印象に残っています。今年のクラスの先ほどの場面緘黙の児童は、いつも「トイレに行きたい」とか本当に必要最低限のことだけ、耳打ちのような小さい声で一言伝えてくれる状態でした。でも1月のある日の帰り際に私のそばに来て「先生、今日私の誕生日なの」と話しかけてくれたんです。言葉でなかなかコミュニケーションを取れない子と話をできたこと、自分の誕生日を私に伝えたいと思ってくれたことに感激して、思わず折り紙を折ってメッセージカードを書いて「おめでとう!」と言いながら渡しました。
 それから、自分の得意な絵や音楽を認めてもらったときも、やりがいを感じます。去年私が書いたイラストを「今度、授業研究の挿絵で使いたい」と言っていただき、1年目でも他の先生の役に立てたことが嬉しかったです。先日も「今度5年生の合唱をするから、上パートと下パートの歌をそれぞれ録音してくれないか」と頼まれて用意したら、5年生から「先生ありがとう!」「先生の音源で歌えるようになったよ!」と声をかけられました。絵や音楽という自分の得意分野を活かせて、教員はいい仕事だなと思いました。
- 今、苦労しているのはどんなことですか?
 「できない」と言う勇気です。私は自分でもいろいろと経験したい、覚えたいという気持ちがあり、他の先生方から何かを頼まれると「喜んで」と引き受けてしまいます。本来は学年主任が担当する授業時数の計画も「やりたい」と言って引き受けましたが、やってみるとすごくハードでした。自分の挑戦したい気持ちと自分の技量が合わないことがあって、全部「受けもちます」「やります」と言いすぎて、パンク寸前になってしまいました。
 そこで今年は初めて「できません」と言ってみました。2年目の教員が行う研究授業のほかにもう一つ、学校の研究授業をしてみないかと打診されましたが、さすがにいろいろなことで手一杯だったので「今回はすみません、2年目の研究授業を精一杯やるので、もう一つの研究授業はできません」と言いました。言った後にも「これでよかったのか」と悩みましたが、何でもかんでも背負いすぎて手が回らず、後で「できていません」となるほうがよほど迷惑なのだから、と思い直しました。「できません」を実際に言ってみて結果的によかったという体験を一つしたので、これからは自分自身を顧みて、できることの優先順位をつけて考えられるようになることが今後の課題かなと思います。
 また、効率的な時間の使い方も身に付けたいです。昨年は夜の8、9時に家に帰ることが多かったのですが、何に時間を使っていたのかを振り返ると、結局何もしていないんじゃないかと思うぐらい時間を上手に使えていませんでした。そこで今年はいろいろな先生の時間の使い方を見て学んでいます。たとえば机間巡視をしながら評価を一緒にしていくとか、そういう効率化のための知識や経験を、まわりの先生方から吸収している段階です。
- 休みの日の過ごし方、奨学生OBOGへの質問等をお願いします。
 1年目は休みの日に何をしたらいいかわからなくなるぐらい、学校のことで頭がいっぱいでした。休むことに罪悪感があり、「まだ仕事が残っているのになんで休んでいるの?」と自分を責める気持ちがありましたが、2年目になってやっと少しずつ切り替えができるようになってきました。それで休日はプロジェクターで天井にアニメを映写して観たり、家でB'zなどの歌を歌って発散しています。ほかにも好きな入浴剤を入れて長風呂をするなど、ぼーっとして学校のことを考えない時間を作っています。
坂本侑那さん
帰宅が遅いこともあり、入浴剤を入れたお風呂が1日の癒しタイム。気分に合わせて色々な入浴剤を使うそう。
 趣味はリアル謎解きゲーム、絵本カバーのリメイク、猫カフェに行くことです。猫がすごく好きなのですが猫アレルギーがあり、あまり猫カフェに行きすぎると目がすごく痒くなります(笑)。私は誰かと一緒にいるとその人の考えや、その人の食べたいもの・やりたいことが気になってしまうタイプなので、基本的に一人で楽しんでいます。
 奨学生OBOGに聞きたいことは、教員は頑張れば頑張るほど仕事が増えてしまうので、先輩方がそれをどうさばいているのか、お聞きしてみたいです。それから私は昔から整理整頓が苦手で、小学生の頃に通知表に「頑張りましょう」と書かれたぐらいです(笑)。上手な片付け方とか、この道具があったら便利とか、よい方法があれば教えてほしいと思います。あとは「絵本(読み聞かせ)の良さ」をぜひ皆さんと共有したいです。財団で集まる機会があったら、お話できるのを楽しみにしています。
坂本侑那さん
長期休暇や連休には、一人旅や母や妹を連れて旅行に行くことも。「2月は鹿児島の砂蒸し温泉に行きました!」

(2024年2月9日(坂本さん教員2年目時)の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
沁みるやさしさ
(子どもとの絶妙の距離感から坂本さんが届けるおはなし、絵本の世界、声の音色、表情、あらゆる表現がこころの奥まで沁みとおり、子どもは楽しくてたまらなくなる)
 坂本さんは殆どの講座や集いに参加をしている。グループワークを見て、発表を聴いては坂本さんに感心していた。それは、坂本さんには押しの強さが微塵もないのに、良いタイミングで、平たくわかりやすい言葉と適度な音量で話すのでみんなが聴いている、そんなシーンがいくつもあったからである。今回の取材での感心は、前述をはるかに上回った。
 例えば絵本を読み聞かせるおはなし。子どもは絵本から友達との関係やいろんな感情を学ぶそうだが、坂本さんは忙しい合間を見つけては週に何回も読み聞かせる。子どもに伝わりやすいリズム、ボリューム、声色を感覚で調節して、時には関西弁コテコテで読むそうだ。
 取材での受け答えや説明のときも、細やかな心配りが彩る音色と音量はとても心地よく、察するに大人をはるかに凌ぐ感受性を持つ子どもたちは、さぞ嬉しく楽しく心躍らせていることだろう。
 そして絵本の世界と相まって総体として愛くるしくも、細部に創意工夫を施したご褒美の数々。込められた細やかさはもちろんだが、そこまで作り抜く熱意には驚くほかなかった。不登校の子どもへの働きかけの話も然り。この熱意が動力となり、坂本さんの優しさを子どもの心の奥へと沁み込ませていくのだろう。類まれなこの才能を大事にして、このまま努力を続けてほしいと思った。
 そして時折、自分を愛しみ、休むことも忘れないでいてほしい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
前回のレポートでもお伝えしましたが
人には心地よくさせる音域や音量があって、それを捉えることが説得力につながります。
皆さんは子どもにスムースに伝わる喋り方や仕草、音量など
相手に応じて、環境に応じて適切なものをと
工夫されていることと思います。
そんな創意工夫を送ってください。
記入フォームはこちら >
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
コピーや転送、対象外の人の閲覧は、厳禁とします。