吉田梨沙さん
2024/00/00 UPDATE
吉田梨沙さん
4期生(2023年卒)
大阪大谷大学出身
大阪府立特別支援学校(小学部6年担任)

子どもが自分のペースで進めるように
じっくり「待つ」を心がけています
 吉田梨沙さんは、大阪府の特別支援学校に勤務して1年目です。初任者は、学校生活や教員としての業務に慣れるだけで精一杯かなと想像しましたが、吉田さんは子どもとの関係作りや研究授業等も、自分のペースで取り組んでいます。子どもたちと毎日関わりを続けていくなかで、特別支援教員としての手応えも感じ始めているようです。
- ご協力ありがとうございます。近況を教えてください。
 2023年4月から、大阪府立の特別支援学校に務めています。小学部163名、中学部158名、高等部66名、計387名の児童生徒が在籍する大規模校です。知的障がいをもつ子どもが通う特別支援学校で、発達障がいのADHA(注意欠如・多動症)や自閉スペクトラム症の子どももいますし、ダウン症のお子さんもいます。私は小学部6年生の担当で学年4クラスのうち、2組の担任をしています。クラスの児童は8人で、担任3人で8人をみています。担当教科は図画工作科、かずことば(国語・算数合科)です。校務分掌は「教務」で、子どもの出席確認や転入・転出に関する仕事をしています。
 勤務校のある八尾市は東大阪市に隣接していて、奈良と大阪の境にある生駒山の麓にあります。学校がある場所はにぎやかな市街地からは少し離れていて近辺には工場も多く、下町という感じの地域です。校区も広く、小学部の子どもたちは八尾市と東大阪市の2つの市から登校しています。通学バスも全部で10コースがあります。
 私自身はもともと岡山県の出身です。大阪の大学に進学し、就職では岡山県と大阪府のどちらも受験をして、縁があって大阪に就職することになりました。今年は初年度で大変なこともたくさんありましたが、子どもたちがとてもかわいく、子どもから笑顔や信頼をたくさんもらって何とかここまで来られたなと思っています。
- 子どもたちとの関係づくりで意識していることは?
 最初の1学期は、子どもとの関係は皆無という感じでした。子どもたちがどんな気持ちなのか、何を伝えたいのか全然わからなかったので、とても苦労しました。引き継ぎ資料を読んだり、一緒に担任している先生にアドバイスをもらったりもしましたし、ときには私から意図をもって「こういう気持ちなのかな」と予想して関わることもありました。
 いろいろと経験してわかったのは、子どもと関係を作るには、子どもの好きなことを一緒にやるのがいちばんだということです。全然関わりをもてなかった子どもでも、その子の好きな遊びでちょっと遊ぶと、すごく心を開いてくれます。ある子は当時のその子のブームだったトランプで遊んだら、すぐに仲良しになれて「こんなところにヒントがあったんだ」と目から鱗が落ちる思いでした。ほかにも絵本を読むのが好きな子もいますし、フィギュアを使ってお相撲ごっこをするのが好きな子もいて、一緒に「はっけよい、残った!」と遊んでいます。
 今は3学期になって、子どもたちも私に慣れてくれたという感じです(笑)。最近、児童との関係作りで意識しているのは、できるだけポジティブな言葉を使うことです。例えば廊下を走っている子がいたら「走っちゃダメだよ」ではなく「歩こうね」、教員が話をしたいのにザワザワしているときは「静かにしなさい」ではなく「お話を聞こうね」と伝えます。それから授業中にできたことを認める場面を多く作るようにしています。ありきたりな言葉ですが「いいね」「OKだよ」「すごいね」などの言葉をかけながら、同時にニコッと笑ったり、表情を読むのが苦手な子にはジェスチャーでOKサインを出すなどして「先生も嬉しいよ」「良かったね」という気持ちを伝えています。
吉田梨沙さん
担任クラスの子どもたちの好きなアイテム。ぬいぐるみやフィギュア、図鑑、絵本、ボール遊びなどさまざま。
- コミュニケーションが苦手な子には、どう対応している?
 発語のない児童に対しては、ふだんの様子や表情などから、気持ちを読み取ったり代弁したりしてコミュニケーションをとっています。子どもの気持ちの読み取りは日々の子どもの様子をしっかり見ていることが大前提ですが、言葉が話せなくても言葉以外の表出がどの子にも必ずあります。手の向きや動き、いつもと表情が微妙に違うなど、どこでどういうサインを出しているかは子どもによって一人ひとり違うので、それをしっかり見逃さずに読み取ることが大事かなと思います。学生時代とは違い、就職してからは同じ子どもたちに毎日ずっと関わっているので、そのなかで私自身の子どもを見る力もだいぶ育ってきたのかなと思います。
 また私はふだんから、言葉で気持ちをいえる児童に対しては絶対に話を遮らないと決めています。発達障がいの特性から、衝動的に本心とは異なることを言ってしまうような子もいますが、そういう子には少し時間をおいてから「先生は聞いているよ、お話してごらん」と時間を取って、「本当はね」と言い出すのを待つこともあります。また「本当はこう思っていたのかな」とこちらから提案をすると「実はこうだった」と話してくれるタイプの子もいます。衝動的に嫌な言葉を使ったとしても怒る・叱るではなく、子どもの話を聞いて、どんな気持ちだったのかを話し合うようにしています。私は、子どもを待つのは全然苦にならないですね。これは私の性格かもしれないです。特別支援の教員だからというより、昔から「自分が」より「相手が」を考えて、相手のペースに合わせるほうが得意です。もちろん特別支援学校には違うタイプの先生もいますが、私自身は子どものペースに合わせるタイプだと思います。
- それでは、授業づくりについて教えてください。
 今年は特に初任者研修での研究授業に力を入れて取り組みました。図工の授業では、「色の混ざり」についての授業をしました。発達段階の違う13人の集団に対し、それぞれの子が興味をもてる題材を考えるのがすごく難しかったです。
 その図工の研究授業では、色をつけた毛糸と綿を貼り付けて魚を作り、完成させるという活動をしました。図工のクラスのなかには、発達の遅れがあり「これは赤かな青かな、どっちかな」という感じの子もいますし、手で触って感触を楽しむ「感覚遊び」が好きなお子さんもいるので、綿や毛糸というふわふわした素材を使うことにしました。一方で知的な遅れがなく、色や色の混ざりについてよく理解している子もいるので、そういう子たちに対しては「この色とこの色を混ぜるとどうなるか」という学習的な要素を取り入れました。指導教員として付いてくださっている先生と相談しながら、かなり時間をかけて準備したので、なかなか大変でしたね。でも結果的には、どの子も楽しめる授業になりました。感覚遊びの好きな子たちはずっと楽しそうに素材を触っていましたし、色の混ざりに興味をもった子は「これ僕と同じ色の組み合わせだけど、できた色が違う」「この色、きれいー」といった声が教室に飛び交い、盛り上がっていました。
吉田梨沙さん
図工の研究授業で製作した作品。「綿や毛糸に絵の具で色をつけ、魚型の台紙に貼り付けました」(上下)
 それから、いろいろな先生方の授業を見学し、工夫しているところや発問の仕方などを少しずつ真似して、自分の力にしていこうと努力しています。たとえば授業の最初にクイズをもってくるのも、工夫の一つです。クイズを出すと子どもは「なんだ?」とすごく惹きつけられますし、「これから授業だ」と頭を切り替えることができるので、毎回ではないですが、ときどき午後の授業で眠たくなりそうなときなどに、ポンとクイズを入れたりしています。
 かずことばの授業では、私はいちばん障がいが軽い子のクラスを担当しています。授業では子ども一人ひとりに合った個別学習のプリントが用意されていて、どの子もみんな花丸がほしいので頑張っています。だから丸付けを授業の終わりにする流れにし、最後に「みんな頑張ったね」とシールを貼ったり、「これだけできたよ、花丸を○個もらえたね」と丸付けをしてたくさんほめ、子どもが達成感を得られるようにしています。
吉田梨沙さん
言葉で伝えるのが難しい子のためにつくられた自立活動のプリント。大きな花丸で子どもたちを励まします。
- 教員としてやりがいを感じるのは、どのようなとき?
 子どもが「できた!」と顔を輝かせるときです。特に、4月の給食のときのある児童のエピソードは忘れもしません。その子はダウン症があり、病気の関係で牛乳をずっと除去して育ってきて、病気が寛解して牛乳を段階的に飲み始めたというお子さんでした。そのため牛乳には苦手意識があり、そのうえ私が初めて関わる教員なので試し行動もあったのか、私が給食の指導をするときはパック入りの牛乳をまったく飲んでくれませんでした。ある日、それを見かねたほかの担任の先生が「コップで飲ましてみたら」と違う方法を提案してくれました。そこで牛乳をコップに注いで「これだけ飲んだら、ご飯を食べようね」といって子どもに見通しをもたせて提案をしてみたら、初めて牛乳を全部飲み切ってくれました。そのとき私が「やったー、飲めたー!」とすごく嬉しそうな顔をしたようです。その子は言葉がわずかに出る程度でしたが、よく人の表情を見ている子で、その子も私につられてニコッとして誇らしそうな顔になり、2人で一緒に喜び合いました。子どもが飲めたことが嬉しいし、それを子どもと一緒にできた私もすごく嬉しい。子どものできたことが、私のできたにつながる。それが本当に嬉しくて、一気に特別支援教育の仕事を面白いと思うようになりました。このときの経験がなかったら、もしかしたら私は心が折れていたかもしれません。その子もそれ以来、私から軽く促すだけで牛乳を飲んでくれるようになりました。
吉田梨沙さん
「コップで牛乳を飲んだシーンを再現してくれました。今はストローですべて飲み切ります」(吉田さん)
- 反対に苦労していることは、ありますか?
 苦労しているのはやっぱり授業ですね。授業をこなすだけになっているため、もっと児童の様子などから授業を展開していきたいです。今は授業で決められたことをする、作品を作るとか、ここまで進めるというだけで精一杯になりがちです。どうしても「進めなきゃ」「作らなきゃ」という気持ちになってしまって余裕がもてないです。もう少し子どもの言葉や反応を引き出したり、拾ってあげたりしたいのですが、なかなかうまくできないという段階です。
 周りの先生にもそれを伝えると「初任者だし、今でも十分だよ」と言ってくださる先生もいますし、「こうしたらいい」とか「関わり方を変えるだけで、子どもがもっと自分から動くようになるかも」とアドバイスをくださる先生もいます。指導教員や一緒に担任をしている先生方にもとてもよくしてもらっているので、それは有難いなと思います。
 それから子どもの保護者とは、毎日の連絡帳や電話、個人面談などで関係を築いています。ほとんどの保護者は気持ちよく対応してくださっていますが、なかには、どうしても対応が難しい方もいらっしゃいます。子どものことだけでなく、自分のことを延々と話すなど、保護者自身に専門家による支援が必要なのではないかと思われるケースもあって、そういう場合は自分一人では対応ができないです。担任間でも情報共有はしますが、すぐに答えを出せない複雑な問題もあるため、なかなかたいへんだなと感じることがあります。
- 最後に気分転換のしかた、休日の過ごし方を教えてください。
 土日は行事などがあれば稀に出勤することもありますが、基本的には休みです。休みの日は家でゴロゴロしながらアニメやドラマ、映画を見ています。やはり今年は初年度で、平日だけで結構くたくたに疲れてしまい、休日も最近まであまり外に出られませんでした。もともと一人暮らしをしていた家にテレビがなく、夏頃に引っ越しをしたので、いい機会だと思って小型のプロジェクターを買いました。それで白い天井にアニメや映画を映写して、ベッドに転がりながら見るのがいちばん好きですね。アニメでは、バレーボールの「ハイキュー!!」や「薬屋のひとりごと」「鬼滅の刃」なども見ました。
 最近は、ようやく休日にも外出できるようになってきました。出かけるときは、私は動物が好きなので動物園に行ったり、猫カフェに行ったりしますね。動物のなかでは鳥が好きで、特にカルガモが大好きです。大阪の天王寺に天王寺動物園という小さい動物園があるんです。本当に地元の人からすれば「なんでそんなところに行くの?」と言われるような、小学生の遠足で行くようなところなのですが、そこに鳥がたくさんいるコーナーがあり、私はそこによく通い詰めています。今は鳥インフルエンザの影響でカモも見られなくなっていますが、感染症対策が終わったらまた見に行こうかなと思っています。子どものように無心で動物を見ているととても癒されるので、カルガモのヒナが生まれるシーズンが今からすごく楽しみです。
吉田梨沙さん
天王寺動物園の一角にある鳥のコーナーが吉田さんのお気に入り。「『鳥の楽園』は、広い敷地内にたくさんの野鳥が一緒に暮らしています(上)。『鳥のセカイ』はさまざまな鳥が種類ごとに展示されています(下)」

(2024年1月25日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
個性の奥に反応できる
(子どもの個性の奥にある、その子特有のペースを掴み、喜びを分かち合える吉田さん)
 いくつかのコーチング理論によれば、個性の奥には、その人特有のペース(リズム、スピード、タイミング)があるのだそうだ。コミュニケーションにおいて、そのペースを捉えると相手は心地よさからポジティブな気持ちになるそうだ。そして、それを聴く人が思わず熱くなって心動くスピーチは、その中身以上に独特の抑揚やタイミング、リズムが誰もの個性の奥を心地よく捉えているとのことである。言葉が得意とはいえない障がいのある子ども・生徒とのコミュニケーションにおいては、このペースを捉える力が極めて重要になるのではないだろうか。
 取材を通じ、吉田さんの話は内容がしっかりしている以上に心地よい気持ちをもたらしてくれた。相手のスピードに合わせた説明の速度、抑揚、表情から言葉では表しようのない温もりを感じた。このことは吉田さんが相手固有のペースを捉え続けたことに他ならない。
 さらに驚いたのは、吉田さんが子どもの反応を待つこと、心の動きを細やかに感じ取ることを最大といってもよいくらい喜びとしていることだ。これが吉田さんの原動力である。なかなかそうできるものではない。
 吉田さんが子どもの個性の奥を捉える力は、今後より一層研ぎ澄まされたものになっていくに違いないと思う。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
皆さんには、自分がスイッチを入れるときの音楽があると思います。
それをヒントに、自分が心動くリズム、スピード、タイミングはどんなものなのか、
ぜひ言語化してください。
それによって自分が好調モードに転じるコツがわかるかもしれません。
よろしければお送りください。
記入フォームはこちら >
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
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