齊藤梓さん
2024/00/00 UPDATE
齊藤梓さん
1期生(2022年卒)
國學院大學出身
横浜市立小学校(6年担任)

「子どもの話に耳を傾け、
「自分もできる!」という自信を育みたい
 横浜市の小学校に勤務している齊藤梓さん。2年目に最高学年の6年生の担任になり、最初は戸惑いを感じたそうですが、今は教員生活を楽しんでいる様子です。学力を高めるために教材研究を頑張りたい、子どもの自己肯定感を育みたいという齊藤さんのまっすぐな思いが、子どもたちにも届いているようです。
- 本日はありがとうございます。近況を教えてください。
 2022年4月より、横浜市立小学校に勤務しています。本校は地域の小学校が合併して2007年に開設した比較的新しい学校で、全学年各2クラスで約25人学級という規模です。近くには市民の森や川もあり、自然に囲まれた穏やかな地域です。私は実家が近いので自転車通勤をしています。実家は市内の別の区ですが、たまたま通いやすい地域の学校に配属になったのでよかったです。
 初年度は4年生、今年度は6年生の担任をしています。最高学年を担任することがわかり、最初は「私でいいのかな」と不安でしたが、子どもたちが本当にかわいくて素直で、いい子たちがたくさんいる学年だったので、毎日とても楽しく働いています。担当教科は音楽、家庭科、図工、社会以外の全教科です。音楽、家庭科、図工は専科の先生がおられますし、社会は学年で教科担任制をとっているので6年生のもう一つのクラスの先生が担当してくださっています。クラブ活動は、クラフトクラブを担当しています。
 担当の校務分掌は「学籍」「評価部」「安全環境部」「給食」です。「学籍」は転入児の担当で、相手校との書類のやり取りなど、重大な責任を伴うので先輩にたくさん教えもらいながら対応しています。「評価」は学習評価の計画を立てたり、実施・集計をしたりする分掌です。「安全環境」は防災訓練を担当します。「給食」は給食を発注するほか、遠足などで食数が変更になったときは、その調整も行います。
齊藤梓さん
勤務校の校舎からの風景。天気がいい日は夕焼けがとてもきれいで、左手奥にランドマークタワーも見えるそう。
- 「いい子が多い」というお話ですが、子どもとの関係づくりはどのように?
 今年度の6年生は本当に思いやりがある優しい子たちです。誰も省こうとしない、誰もおいてきぼりにしない優しさがあります。特別支援学級に通う子たちも温かく受け入れていますし、みんなでお互いのことをほめ合ったりもでき、みんなで頑張ろうという団結力もあって最初はびっくりしました。
 でも一方で、本校の児童は自己肯定感が低く、「自分のことが好きですか」という質問に「はい」と答えられる子がとても少ないです。母子家庭や父子家庭も多いですし、家庭で話を聞いてもらえない、あまり満たされていないと感じる子もいるため、私はとにかく子どもたちの話をたくさん聞くようにしています。昨年度も丁寧に話を聞いて、ときには一緒に悩みながら受け止めるという関わりを続けたところ、子どもがとても落ち着いて過ごせるようになりました。今年の6年生のクラスは27人ですが、1日1回はなるべく全員と話をしたいので、朝早めに教室へ行き、朝の会が始まるまでの時間に話すこともありますし、給食の時間に子どものグループに入って食事をしながら話す日もあります。ほかに掃除の時間や休み時間など、本当に些細な関わりでもいいので声をかけるように意識しています。
 それから、学校全体として自信を持てない子どもが多いため、「自分たちもできるんだ」と気づいてほしいという思いがあり、子どもの取り組みを価値づけることも意識しています。結果だけでなく頑張っていることやその過程をたくさんほめています。ただ、6年生になるとみんなの前でほめられることに抵抗がある子もいるため、子どもが書いた振り返りカードに肯定的なコメントをしたり、子どもの近くに行ってコソコソッと伝えることもあります。また今年から学級通信を作っているので、そこに子どもの写真やよく書けたカードの写真を載せると、子どもたちは「今度、おれのも載せてね」「次はまだ? 早く出して」と嬉しそうに声をかけてくれますね。
- ほめる以外に、学校のルールや規則を指導するときはどうしている?
 それは年度の最初の4月に徹底して伝えます。1か月間は本当に徹底して、6年生でも細かく声をかけます。「去年までとは違うかもしれないけど、今年先生のクラスではこのルールでやるよ」「学校のルールはこうだから、クラスでもこうします」と1か月ぐらい継続して伝え、できている子を積極的にほめます。ただ、どうしてもふざけて悪さをしてしまうとき、規則を乱してしまうときには叱ることもあります。その場合も6年生ですし、みんなの前で叱ると「おれなんかダメだ」と自己肯定感が下がってしまうので、なるべく少人数で、怒鳴るといった叱り方ではなく、子どもの目を見てなぜこういう行動になってしまったのかを聞きます。そして「そうやって自分で説明できたのはえらいね」と肯定しながら、「あなたにもいいところがあるのに、こういう行動をするともったいないよ」という言い方で話をします。そうすると男の子でもポロポロと涙を流すこともあるので、いつもそうした子どもに届く叱り方ができたらいいなと考えています。
 実は去年、1回だけ怒ったことがあるんです。次の日に学校技術員さん(用務員の先生)と通勤で一緒になり、「齊藤先生、昨日怒ったらしいね。子どもたちが全然怖くなかったと言っていたよ」と言われ、私の場合は男性の先生のように大きな声を出すとか、そういう叱り方はダメなんだなと思いました(笑)。昨年の4 年生は子ども同士のトラブルもよくありましたが、結局子どもの思いに寄り添ったときのほうが指導もよく入りますし、その後の子どもの行動も変わります。こういう指導法になったのは、昨年度のその経験もありますし、あと学生時代にインターンシップなどでいろいろなクラスに入り、多くの先生方の指導方法を学ばせていただいたことにも影響を受けています。もちろん私のやり方が絶対ではなく、この学校の子どもたちだから通用するところもあると思います。
- 次に授業づくりについて、教えてください。
 授業力向上のために取り組んでいることは、教材研究の充実です。私の学校は働き方改革で、40分授業で給食の前に5時間目までがある時間割です。6時間授業をやっても児童は2時半に帰るので、放課後を教材研究の時間に充てることができます。昨年度はバタバタしてしまい、あまり教材研究をできませんでしたが、今年は単元の最後に子どもがどういう力を身につけていればいいかという単元のゴールを見通しながら、教材研究をしています。そうすることで日々の授業の中でも見取りや評価をしやすくなったので、あらためて大事だなと気づきました。6年生は学習内容も難しいですから、ちゃんと教材研究をしないと子どもにも伝わりません。また学力の高くない児童もいるので、ヒントカードなどの教材を作り、苦手な子どもたちを支援したいという思いもあります。ですから長期休暇中や時間があるときには、単元ごとにまとめて教材研究をするようにしています。
 あと「振り返りの活用」も意識しています。毎回できるわけではないですが、授業が終わった後に子どもにその振り返りを書かせています。目的の一つは学校全体の課題である書く力をつけさせたいということです。特に学校の重点教科である「総合」では振り返りカードというプリントを使い、「5分間でできるだけたくさん何枚も書いてごらん」と伝え、書く力を養っています。6年生は卒業文集も書く予定なので、それに向けて力をつけてもらいたいです。他の教科では、学習で学んだことやわかったことを自由に書いてもらっています。それは私自身が自分の授業を振り返り、次に生かすためでもあります。
齊藤梓さん
体育のソフトバレーボールの授業後の「振り返りカード」。齊藤さんは肯定的なコメントで児童を勇気づけます。
- ICTの活用も力を入れているそうですね。
 横浜市では、iPadで「ロイロノート」という授業支援クラウドを使っています。私も今年はロイロノートをいろいろな教科で活用しています。例えば理科は、昨年までは学習内容をすべてノートに書いていましたが、今年は水溶液の蒸発の実験なども動画や写真に撮り、結果をまとめるようにしました。そうすると時間も短縮できますし、子どもたちが結果から考える時間を確保できます。ただでさえ40分授業ですし、子どもたちはノートに書くだけでも時間がかかってしまうので、授業時間内で考える時間をたくさん取れるようにと考え、内容に合わせてロイロノートを活用しています。
 また学校外でもiPadやスマートフォンがあれば授業準備ができるので、教員にとっても便利です。「ワークシートをこういう構成にしたらわかりやすいかな」と思いついたときにすぐ作成できますし、授業で使うカードを作るといった作業もできます。活用法は自分でも考えますが、先生同士で「こんなふうに使えるよ」「こうやってみたらよかった」と情報共有しながら使っています。教員向けの研修に参加して学ぶこともあります。
 子どもたちもロイロノートを使うと、すごくやる気が出ますね。小学生でも自分で写真や文字を入れて発表資料を作れますし、思考力もついてくるのがとてもいいなと思っています。今の子どもたちは小さい頃からスマホやiPadといった機器に囲まれて育っているので、使いこなすのも早いです。子ども同士で「こんな機能があるよ」とか、「このボタン押すと子どもは使えないようになるんだよ」と話していて、大人よりよく知っていますね(笑)。
- 教員として、やりがいを感じたエピソードはありますか?
 やりがいを感じるのは、子どもたちの成長を感じたとき、子どもたちのやり切った顔を見ることができたときです。この秋の運動会でも、子どもたちのとてもいい顔が見られました。
 実は、運動会でリレーの選手に選ばれた児童のなかに1人、自分に自信がなく「選手を辞退したい」という子がいました。「でもタイムで選ばれているし、足が速いからできるよ」といっても「絶対にできません、やりたくないです」という返事。その子は心配性で、6年生で初めてリレー選手に選ばれたこともあり、「自分のせいで負けたらどうしよう」というプレッシャーがあったようです。ほかのリレー選手の子たちはやる気満々で「おれたちのチームが絶対勝つぞ!」と気合が入っていたので、その中で「自分が足を引っ張ってしまったら…」と不安になっていたようです。それでほかの選手にも「一緒にやろう」と声かけてあげてほしいと伝え、その子の保護者にも事前に電話をして「今日学校でこういう話をしたので、おうちでも励ましてもらえませんか」と話をしました。
 それから2日ぐらい悩んだすえ、結局その子はリレー選手をやると決心してくれました。そして頑張って練習を重ね、運動会当日も立派に走り切って、チームが2位という素晴らしい成績をおさめたときに「先生、やっぱりリレー選手をやってよかったよ!」とすごくいい笑顔で報告してくれました。それで私も「背中を押してよかったな」と心から嬉しく思いました。その子は運動会で壁を乗り越えたことで自信が持てるようになってきたのか、最近は授業でも手を上げることが増えました。本当に大きな成長を感じます。
- 今後の課題や、気分転換のしかたについて教えてください。
 これから力を入れたいのは、やっぱり授業力です。クラスの子どもたちに合った支援をするのが難しいというか、まだまだ自分は引き出しが少ないなと感じています。学力の低い児童もいるからこそ、子どもたちの関心を引く導入や授業展開を工夫しなければいけませんが、うまくいくときもあれば「この単元はあまりうまくいかなかったな」と感じるときもあるので、もう少し教材研究を深めたり、研修などで自分自身の力を高められたらと感じています。勤務校は本当にいい学校で子どものことであまり苦労することがなく、授業に目を向けられるので、もっと授業を頑張りたいなと思います。
 気分転換としては、土日はしっかり休んでたくさん遊んでいます。私は地元で就職していて地域に小中学校や高校、大学、いろいろな友人がいます。最近は中学で同じ部活だった友人が誘ってくれて、平日の放課後にもバレーボールをしたりして充実しています。疲れて外に遊びに行けないときは、家でタブレットを抱えて映画を観ています。あとは旅行も好きです。今年の夏休みには石垣島に行きました。綺麗な海で初めてサップをやって、すごく楽しくて「ずっとここにいたいな」と思いました(笑)。
 財団の“OBOG春の集い”もすごく楽しみにしています。私の周りにも仕事がきつくて退職した元教員の友人がいます。財団で以前に教員自身の自己肯定感を高める、自分自身を認めてあげるといったコーチングの研修に参加したことがありますが、私にもっとそういう知識があれば、苦しんでいる仲間を助けてあげられたのかなと思うときがあります。ですから、また教員のメンタルを保つための研修などがあれば参加したいですね。
齊藤梓さん
旅行好きという齊藤さん。コロナの制限がなくなった23年の夏休みには沖縄の石垣島へ行き、サップを初体験。

(2023年12月18日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
子どもが心を寄せる人
(いつも子どもと同じ輝きを放つ齊藤さんには、子ども自らが寄ってくる。だから子どもたちは齊藤さんの指導を自分事として受け入れるのだろう)
 齊藤さんは全てのOBOGの催しや講座、懇親会に参加している。仕事のことや最近あったことでワイガヤ賑わう中、「ぽっ」と明るく静かな存在感を放っているのが恒例の齊藤さんの姿である。そして誰かの笑い話に聴き入っているときも、常に視界にその笑顔が入ってくる。「なぜだろう」と改めて交流の現場で考えるに、それはまるで大人の集まりに1人だけおっとりとした幼い子どもが入っているような雰囲気を醸しているからだとわかった。
 子どもは「自分と同じだ」「仲間だ」「優しい」と思える友だちを瞬時に探し出す名人である。齊藤さんはそのオーラを放っているのだと思う。だから取材にもある通り、子どもたちは怒られても全然怖くないのだろう。さらに齊藤さんは子どもへの適切な気配りと優しい指導を徹底している。子どもたちが自己肯定感を高め、心地よく齊藤さんの指導を受け入れている理由はここにあるのだろう。
 一方で齊藤さんは実に子どもをよく見てよく把握し、指導の仕方や教材、学級通信などに様々な工夫を凝らしている。さらに齊藤さんは、多数の校務分掌も担い、ハードな毎日を送る中、自己研鑽も継続的に行う大変な努力家である。きっとその背中を子どもたちはよく見ているのだと思う。
 子どもたちの気持ちを引き寄せ輪をつくる天分によって、子どもをわかること子どもにできることは無限に広がっていくと思う。それは齊藤さんに大きな成長をもたらすはずである。
 これからも子どもの輝きを放つ先生でいて欲しいと思う。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
子どもには、ときに叱って聞かせることもあると思います。
近況レポートでも、社会に出て困らないよう集団で決めたルールを守れないときは
「感情的にならず、行いを正し、何故いけないのかを説明します」という叱り方を中心に
皆さんそれぞれに「叱るケースと叱り方」を決めているようです。
皆さんの子ども・生徒を叱った経験や叱り方のポリシーなど
どしどし送ってください。
記入フォームはこちら >
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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