高田風花さん
2024/00/00 UPDATE
高田風花さん
1期生(2022年卒)
早稲田大学大学院出身
東京都立両国高等学校・附属中学校

「対話」を通して気づかせる授業や
生徒指導を心がけています
 高田風香さんは、2023年度から東京の公立中高一貫校に勤務しています。小柄だけれど人一倍よく通る声の持ち主である高田さんは、得意の話術やコミュニケーション力を生かしつつ、生徒たちの成長につながる指導を探究しています。授業はもちろん部活動も校務分掌も、目の前のことに全力で取り組み、楽しもうとするパワーに圧倒されます。
- 本日はありがとうございます。近況を教えてください。
 2022年度に東京都の定時制高校に就職し、2023年度より東京都立両国高等学校・附属中学校に勤務しています。公立中高一貫校で、例年東大合格者を3名程度輩出する進学校です。創立123年、旧制第三高校と呼ばれた歴史があり、芥川龍之介や堀辰雄も卒業生です。伝統と格式と歴史があるところがいちばんの魅力で、保護者も親子そろって両国出身というご家庭もあります。現在は高入生募集停止の移行措置により、1学年3クラスと4クラスの学年があります。英語教育推進校でもあり、中学校から英語の授業はオールイングリッシュで進められます。
 私は高校の所属ですが今年度はクラス担任はなく、中1、高1、高2の国語科を担当しています。部活動ではギター部(軽音楽)の主顧問をしています。本校は中高一貫校なので、部活動も中学生、高校生が一緒に活動するものもあれば、高校生だけのものもあります。ギター部は高校生だけですが、顧問3人のうち2人は中学の先生のため、よくわからないまま私が主顧問を務めることになりました。女子バスケットボール部の顧問もしていますが、こちらは別に主顧問の先生がいらっしゃるので私はサポートで入るくらいです。
 校務分掌は、指導部を担当しています。内容は生徒指導、生活指導、行事運営などです。行事運営の担当は、行事があるときにはすごく忙しくなります。今年私が1人で担当した行事は中学の生徒会選挙と生徒総会で、2月後半には合唱コンクールがあります。行事では学校全体を動かしていくことになりますし、一年の行事の流れを体験できたのはよかったなと思っています。
高田風花さん
指導部として行事運営に携わる高田さん。「高校の所属ながら、中学行事も運営できたのはよい経験でした」
- 有数の進学校ですが、生徒の印象はどうですか?
 生徒は小学校時代から塾に通っている子がほとんどで、中学受験をくぐり抜けてきているのでやっぱり頭がいいですし、発想力の柔軟さがあります。ガチガチに勉強を頑張ってきたという自負心をもっているというか、それが本人の自信になっている生徒はすごく多いなと感じます。一方で少数ですが、入学後にまわりとのギャップを感じてしまい、勉強に意欲をもてなくなる子もいます。私立の中高一貫校ではよくあることかもしれませんが、公立では珍しいのかなと思いますね。
 私の前任校である定時制高校とは、ずいぶん雰囲気は違います。定時制の生徒たちは自己肯定感が低く、今までできていないことのほうが多かった子どもたちなので「ちょっとでもできるようになろう」とほめて伸ばしていました。でも本校の生徒はその反対で、できないことが許されなかった子どもたちであり、そのためにすごく自分を追い詰めてしまう子もいます。だから学力レベルこそ違いますが、中学生・高校生の子どもたちの「認められたい」「ほめてほしい」「自分のことを見てほしい」という気持ちは、どの学校のどの生徒も変わりがないですね。私たち教員は、それをちゃんとすくい取ってあげなければいけないと思います。これは定時制高校に勤めたからこそ、身につけられた視点かもしれません。私の年代で1年間、定時制の学校でフルタイム勤務をするケースはなかなかないと思うので、私自身もすごくいい経験になったなと感じています。
- 生徒との関係づくりで意識していることは?
 今年、私は担任するクラスはないので、等身大の生徒を知るために“謎に廊下によくいる人”になっています(笑)。特に中学1年生の生徒たちがすごく懐いてくれ、教科室に戻る際に中1の教室の前を通ると、廊下で生徒たちが「先生!」と声をかけてくれるので、休み時間にいろいろな話をして、みんなのふだんの様子を知るようにしています。
 生徒が慕ってくれているのは、私がもっている授業が関係しているように思います。中1では「国語B」という名前で、週1時間オーラルコミュニケーション専門の授業をしています。スピーチやプレゼンテーションを学ぶ授業なのですが、プレゼンやスピーチをするためにはまず自分のことを知らないといけないため、「人との対話を通して自分を知る」という活動を積極的にしています。その授業は、以前にあった財団の「プレゼンテーション力基礎講座」のワークショップの内容を参考にしています。私は人と話すのが好きですし、質問をしながら「あなたはこうなんだね」と気づかせていく過程が好きなこともあり、生徒に対話を通して自己理解を深めてもらえるように、たくさん問いかけをしています。それで生徒も「この先生は私のことをわかってくれる」と感じてくれたのか、いろいろと話しかけてくれるようになりました。男性の担任の先生にはいえない「恋話の悩みなんですけど…」みたいなことを、廊下で私に話しかけてくる女子生徒もいますね(笑)。
 それから生徒との関係づくりでは「やるべきことはやらなきゃ」といいつつ、「ちゃんとやっていてえらい!」ということも伝え続けています。大学時代に、子どもの行いについて「感情はほめるけれど、行動で叱るべきところは叱らないといけない」と指導を受けました。例えば何か悪いことをしてしまったときも何か理由があってのことなので「あなたの感情は尊重するし認めるけれど、その行動は人を傷つけるよね」とか「その行動は自分のためにならないよ」と、行動と感情を分けて指導するようにしています。
 叱る具体的な内容は、基本的な提出物や目上の人に対する礼儀などですね。提出物が遅れたときは、まず「出しにきたんだね」と提出したことは認めつつ、「でも、締め切りはこの日だったよね。次からどうすればいいかな」と話します。今は教科指導だけなので提出物などの話題が多いですが、今後担任をもつとクラス内でもいろいろなことが起こると思うので、その際も一貫してこうした指導をできるようになりたいです。
高田風花さん
中1「国語B」の授業風景。高田さんが読み手を務め、百人一首大会を開催したことも(上)。通常はOC(オーラルコミュニケーション)と銘打ち、スピーチなどの話し合い活動をメインにした授業を行っているそう(下)。
- 次に、授業づくりについて教えてください。
 授業ではスモールステップを構成し、生徒の「できた!」を積み重ねることを意識しています。先ほど中1の授業の話をしましたが、高校では「言語文化」という授業をもっています。生徒はそこで初めて古典の文法を体系的に学びます。古典の文法はどうしても覚えなければならないことが多く、毎回の授業で学んでも記憶に残らないまま流れてしまう傾向があります。そこで悩んだ結果、古文の助動詞や漢文の句形など、その日の授業で学ぶことを自作の教材「ちょこっと文法まとめプリント」に整理し、毎回授業の最初に時間をとってやるようにしたら、とても定着率がよくなりました。文法もただ学ぶだけでなく例題をつけて、「文法を学ぶ→例題を解く→文章中の使われ方を確認する→古典を自分で読めるようになる、やったね!」という流れを作るようにしました。またプリントの中に「ちょこっと文法まとめメモ」というコーナーを作り、国語の文法事項の体系や日本語の変遷、昔の言葉と今の日本語との関係といった豆知識・雑学を積極的に伝えるようにもしました。それで古典の授業を楽しんでくれる生徒が増えてきたので、教材準備は時間がかかって大変ですが、やってよかったなと思います。
高田風花さん
高1「言語文化」の授業で使用する「ちょこっと文法まとめプリント」。「生徒はノートに貼ったり、暗記カードのようにして自分たちで活用しています」
 また授業力をつけるために、ほかの先生方の授業を見学するようにしています。本校は素晴らしい先生方がたくさんおられます。10年以上勤めている経験豊富な先生方も多いですし、授業力が高い先生方が集まっているので、国語科の先生方の授業を見学させてもらうだけで、いつも多くの学びがあります。あと教科室で私の隣の席にいらっしゃるのが指導教員の先生です。国語科の教員8人のうち女性は私とその先生だけなので、女性同士で好きなお菓子や映画の話など、とりとめのない話をしながら、そのなかで授業づくりや生徒指導についても話ができ、とても勉強になっています。その先生がおられなかったら私はストレスが溜まって、もっとお菓子を食べていたと思います(笑)。
高田風花さん
中1「国語B」でチームを組む先生と国語科室にて。「本校に赴任して15年以上の大ベテランの先生。国語の教え方から日々の生徒への声かけまで、すべてが学びになります」
- あらためて、やりがいを感じるのはどんなとき?
 生徒が明るく「できるようになりました!」と報告してくれると、私もやっぱり嬉しいですね。生徒が教えた内容を楽しんでくれたときは、それが子どもの人生の豊かさにつながってくれたらと、しみじみ思います。
 ちょうど今日も、素敵なことがありました。中学の国語で私と組んでくださっているのが学年主任の男性の先生で、授業外の生徒の様子などもすごくよく把握されています。その先生が、今日私が帰る直前に声をかけてくださいました。今の中1の生徒たちは総合や探究の時間で発表する機会が多いのですが、「今年の1年生は他の年に比べて話をするのがすごく上手だと他の先生方もいっていますよ。それはあの子たちのもともとの素質もあるかもしれませんが、高田先生がオーラルコミュニケーションの授業でちゃんと教えてくれているからだよね」と言ってくださり、「ああ、もうなんて嬉しいんだ!!」と感激しました。私が授業で教えたことが生徒の身に付いていて、授業以外のほかの場面でもちゃんと発揮されていることがわかって、本当に嬉しかったですね。
- それでは、苦労していることは?
 中高一貫校ならではの話かもしれませんが、中学と高校ではまったく雰囲気が違います。中学校はわりと規律にも厳しく、行事やさまざまな活動も先生方が緻密な準備をしながら、生徒が達成感を得られるように進めます。しかし高校になると、むしろ「自分たちで考えてやれるようになろう」と生徒に任せる部分が大きくなり、先生方の関わり方も変わります。つまり同じ学校でも中学と高校ではルールが違うので、その時々で自分の対応を変えなければならず、慣れるまでに時間がかかりました。また学校の構造として大職員室がないため、行事でいろいろな先生方と話をするために校内を探し回ることも度々あり、負担に感じることもあります。
 またギター部(軽音楽)の顧問も、自分が初年度からメインで受けもつとは思っていませんでした。以前の顧問の先生が退職されて引き継ぎ資料もないですし、私自身も軽音楽の指導ノウハウがないので、昨年度に勤務した定時制高校の軽音楽部の顧問に長時間電話をして、とにかく教えを請いました。ギター部には、高校生活は勉強がすべてではないと考える生徒もいるため、そういう子が前向きに学業や学校生活に取り組むためにどう声かけをするか等も、少しでも知識のある先生に聞きまくりました。
 あと本校は進学校だけに、授業の進度はとても早いです。生徒にわかりやすく教えるためにはしっかり授業準備に時間をかけたいのですが、全然時間が足りないのも悩みです。どうしても校務分掌の行事や部活動の指導などに時間をとられてしまい、自分の授業がどんどん疎かになっていくのが、今年いちばん辛いことだったかもしれません。
- ストレスの乗り越え方、気分転換のしかたを教えてください。
 教員として働くうえで苦労はつきものですが、私はなるべくニコニコして、いつもご機嫌な人でいるように頑張っています。教員として人前に立つときに自信がなく、私自身が自分を肯定できないと生徒のことも上手に認めてあげられないと思うので、まずは私が私を好きでいることが大事かなと思っています。
 また私は大学時代から合唱をしていたので、歌を歌うことが気分転換になっています。大学の合唱団の同期や仲のいい人たちで合唱団を作り、混声合唱と女声合唱の2つに入り、週に1回ぐらい歌っています。それからクリスマスなどの季節を感じるイベントや映画鑑賞にもよく行きます。漫画も結構ずっと好きで、少年ジャンプ系の漫画をよく読みます。そうしてちょこちょこ自分自身のインプットの時間を取らないと気持ちがもたないとわかってきたので、意識的に自分を楽しい環境に置くようにしています。
 財団への要望は特にありませんが、私は財団の研修やワークショップに本当にお世話になっています。例えば以前に行われたプレゼンテーションのワークショップの本に「なんでなんでインタビュー」というものがあります。「なんでなんで」と子どもの言葉を拾って深堀りすることで、その子の本当の感情や思いに気づかせるアプローチです。生徒指導のときも私が一方的に決めつけるのではなく、こっそり「なんでなんでインタビュー」を使って、生徒が自分で「私はこのとき悲しかったんだ」「イライラしていたんだ」と気づけるように促しています。財団のこうしたワークショップがなければ、私はこの一年を乗り切れなかったと思います(笑)。また同様の機会があれば参加したいですし、2024年3月に予定されている「知的な大人の講座」もとても楽しみです。ぜひ宜しくお願いします。
高田風花さん
休日は大学時代からの友人と趣味で合唱をしている高田さん。「学校行事も合唱コンクールは力が入ります!」

(2023年12月14日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
変化を楽しみ“生き抜く”力
(千里先まで届くといわれる天性の声を持ち活力に溢れる高田さんは、様々な変化を引き寄せる。ときにへたりこんでも少しの音楽と笑いで蘇り、更なる活力を発揮してクリアし続ける)
 高田さんは、OBOGの催しの大半に参加・支援してくれている一人である。その変化への対応ぶりは凄い。まず昨年突然指名された「春の集い」リーダー。本番前はほとんど寝ていないような顔を見せつつ、ワークショップ全体の企画進行をニコニコ満面の笑顔で乗り越えてしまった。
 そして修了生が誰も経験したことがない定時制高校教員になって、大きな変化にぶち当たりながら、様々な年齢キャリアの生徒と丁寧に向き合い、粘り強い行動力をもって成長の喜びへと導いた。今度は真逆ともいえる伝統の公立中高一貫校に勤務。学力水準の高い生徒に応えようと、ここでも知識・経験、人間関係を総動員して頑張り続けている。毎年のように大きな変化に直面し、まるで火中の栗拾いをしているかのような日々を続けている。高田さんはそういう使命を持って生まれてきたのではないか、とさえ思わせる。
 しかし、行動の中身を見聞きすると「経験を整理して使える状態にしておく」「まめに報告・相談する」「試行して反省点を改善する」という動作を丹念にかつ極めて短期間にたくさん繰り返していることがわかる。周到な準備を短期間に行う姿、これが高田さんから我々が感じる「活き活き」なのだと思う。
 高田スタイルを貫いて、これからも訪れる様々な変化を乗り越え、輝き続けてほしい。心身を休めることも忘れずに。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
皆さんも教員になってからいくつかの大きな変化があったのではないでしょうか。
その変化にどう対応したのかを、ぜひお送りください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
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