平野亜美さん
2024/01/29 UPDATE
平野亜美さん
1期生(2022年卒)
鳴門教育大学院出身
神戸市立小学校(1年担任)

指導力のある先生方に恵まれ、
毎日が学びの連続でワクワクします!
 平野亜美さんは大学院卒業後、神戸市の小学校に勤務しています。今年度は1年生の担任になり、すべてイチから教えなければならない事態に当初は戸惑ったそうです。しかし困難もある一方、高い専門性をもつまわりの先生方から、児童との関わりでも授業面でも実践的な学びを得られることが多く、毎日がとても楽しいと語ってくれました。
- 本日はありがとうございます。近況を教えてください。
 2022年から、神戸市の小学校に勤務しています。学校規模は1学年3クラス、全校児童600人弱くらいです。昨年度が5年生、今年は1年生の担任をしています。
 校務分掌は「国語科世話係」と「通知表・指導要録」です。神戸市は学年の主任もすべて世話係という名称で通っていて、国語科世話係は国語科の主任として学校内の国語科教育の推進を担当します。学校を代表して私のところに神戸市の教育実践研究会や国語科の研究会の通知が届くので、それを他の先生方に周知し、夏休みの研修会にも参加して結果を報告します。また神戸市独自の作文コンクールがあり、本校でも力を入れているので、その取りまとめもする予定です。「通知表・指導要録」は、職員会議で通知表の評価基準について呼びかけをしたり、管理職に提出する封筒の配布等を行う業務です。学年末に作成する指導要録についても、作成の手順や提出期限等の案内をします。
 地域の特性としては、校区にかつて「東の浅草、西の新開地」といわれるくらいの繁華街があり、外国籍の児童も多いです。私も小学生の頃から神戸市に住んでいますが、実家は繁華街からは離れた静かな地域ですので、同じ市内でもかなり雰囲気が異なります。クラス26人のうち、外国籍の児童は中国2人、ベトナム1人、フィリピン1人の合計4人です。ただ日頃教室で授業をしていて、外国籍だからというのを特別に意識することはあまりなく、外国籍の子も日本の子も変わりなく対応しています。
- 子どもとの関係づくりはどうされていますか?
 1年生は、自分から「先生、先生~!」と話しかけてくれる子どもが多いです。ただ、そうでない子も当然いるので、こちらから休み時間に外遊びに誘って一緒に遊んだり、授業中に「上手にできているよ」「よく話を聞けていてすごい!」と声をかけたりしています。
 学級運営は、昨年度に担任した5年生とはまったく異なり、難しいと感じました。まず「友達に触らない」「友達のものに触らない」「廊下は走らない」「トイレで遊ばない」というところから指導を始め、特に大変だったのが給食指導です。自分の当番を覚える、エプロンを着る、整列する、給食室に行って自分が運ぶものを受け取る、教室の決められた場所に置く、ご飯やおかずを配る……と、1年生には気が遠くなるようなステップの多さで、どのようにしたらスムーズに安全に給食準備ができるか、はじめは試行錯誤でした。
 私のクラスには特別支援学級に在籍する子や通級指導教室に通う子もいるので、特別支援学級の先生、通級指導教室の先生、学習支援の先生と担任の私とで、最初は大人が4人がかりで、さらに6年生にも手伝ってもらい、なんとか形にしていきました。
 本校はさまざまな発達段階・家庭環境にある子どもたちに対応するために、担任をもたずに生徒指導・学習支援を専門とする加配の先生方が何人もおられ、教員不足といわれるこの時代にすごく充実した教員配置になっています。私のクラスも多くの先生方がいつも気にかけてくださって、いろいろなご指導をいただいています。
- 高い専門性をもつ先輩の先生方から、学ぶことが多そうですね。
 子どもへの言葉かけのしかたは学年の先生方から学び、得るものが多いですね。
 例えばある先生は、学年集会などの前の全体指導でザワザワしている子どもたちに「準備ができた人は目で合図してください」といった言い方をされることがあります。子どもたちがみんなで「できた!」「できました」と声を上げると、それだけで騒がしくなってしまいますが、「目で合図」といえば先生と子どもの目が合うことで、その子が準備ができているとわかります。そして目が合った子に「誰々さん、OK」と静かに伝えたり、いつも早く目が合う子には「あなたはいつも早いね」と認める声かけをしていくと、子どもたちがどんどん伸びていくと学年の先生方との関わりから学びました。
 給食のスープの容器を手に持って運ぶときに「手にパワー」といったりもします。体中のパワーを手に込めなさいという意味で「手にパワーで運ぶよ」と伝えると、両手に力を込めて運ぶので落としたりこぼしたりしなくなります。「両手でしっかり持つ」といっても1年生にはその具体的な意味がわからないことがありますが、「パワーを込める」なら伝わると教えていただきました。「ああ、そういう言い方をすれば子どもたちは指示を理解しやすいんだな、行動の動機づけになるんだな」と、毎日が学びの連続です。
 また、これも同じ学年の先生から教えていただいた方法ですが、私のクラスは連絡帳や宿題などの提出物を色で管理しています。窓側の前列4人が赤チーム、後列が黄チーム、中央の列は前が青チーム、後ろが白チーム、廊下側の列は前がオレンジチーム、後ろが紫チームになっています。すべての机に各色のビニールテープを張っているので、子どもも自分の色がすぐにわかります。そして連絡帳や宿題を提出する場所も「赤・黄」「青・白」「オレンジ・紫」の3か所に分け、決まった色のカゴに連絡帳や宿題を入れたら、隣にある名簿の自分の名前に○をつけてもらいます。こうすると色ごとに誰が提出していないかが一目でわかり、丸がついていない子に「誰々さん、宿題出した?」と確認するだけでチェックが済むので、すごくスムーズです。さらに体育の授業で着用するゼッケンもこの6色に分かれています。「赤グループ、おいで」とか「ゼッケンごとに並ぶよ」と指示をすると、1年生でも無理なく早く行動できます。
平野亜美さん
平野さんのクラスの座席表。プリント回収時も「各チームの2番さん、プリントを集めて」などと指示できます。
平野亜美さん
宿題のおけいこちょうの背表紙にもチーム色のテープを貼付。(左)宿題を提出するカゴと名簿。(右上)「チームの色ごとにロッカーを割り当て、探検バッグやファイルを片付けさせています」と平野さん。(右下)
平野亜美さん
毎日放課後に、小さい黒板に次の日の朝の連絡帳と宿題の提出場所を書き出して準備をしている平野さん。
- それでは、授業づくりについて教えてください。
 小学校は全教科を教えますが、私の学校では学年のなかで教科の担当を決めています。私の担当は国語と道徳で、週1回の学年打ち合わせのときに、次の単元はどうやって進めるかを提案・相談し、授業の日までにプリントやパワーポイントの資料を用意します。昨日もちょうど道徳の資料をパワーポイントで作ったところです。私が作ったものを他のクラスの道徳の授業でも使っていただいく予定です。
 自分の力不足で、私の担当教科はまわりの先生に教えていただくことが多いですが、他の教科では経験豊富な先生方の指導方法を学べ、それをクラスの子どもたちに実践できるという点で、とても勉強になります。パワーポイントの資料や先生の自作のプリントをいただけることもあり、わかりやすい資料の作り方を真似して自分の資料作成をしています。
 たとえば算数では、1年生では必要なことをノートに書けない子もいるので、算数担当の先生がすべてプリントを作ってくださっています。教科書の問題に取り組んだ後に、そのプリントを配って進めていくと、1時間の授業で押さえなければいけないことが押さえられるようになっています。昨年度は、単元の全体的な計画以外は各担任が授業準備を進めていましたので、それに比べると今年度はとても授業準備が効率化されました。私の場合は効率化というより、助けていただいている感じですが。
平野亜美さん
道徳のパワーポイント教材。「視覚的支援により、配慮が必要な子も登場人物の気持ちを考えやすくなりました」
- あらためて、やりがいを実感するのはどのようなときですか?
 やはり、日々子どもの成長を実感できるときです。特に1年生は伸びがとても大きいです。子どもたちにとって何もかも初めてでわからないことだらけの4月から、3か月が過ぎた今では多くのことができるようになりました。給食の準備が早くなった、チャイム着席ができるようになった、私が話をするときに静かに聞くことができるようになった、連絡帳を書けるようになったなど、数えられないくらい毎日成長しています。
 問題行動が多い子もいますが、その子たちも4月に比べたら大きく成長しています。一つの例としては、善悪の判断がつきにくく、衝動的に動いてしまう傾向がある児童のケースがあります。4月下旬の下校時、その子が学校前の5車線ある大きな車道に飛び出してしまいました。非常に危険なので「先生は○○くんにケガをしてほしくないし、死んでほしくもない。どうしたら安全に帰れるかな」と話をしましたが、本人は自分の思いを言語化できず、ただ黙っているだけの状態でした。そこで考えたすえ、下校時間にその子の手を握って毎日一緒に帰ることにしたのです。すると、次第に一緒に帰るのを楽しみにしてくれるようになり、1か月ほどたった5月下旬頃には、学校での失敗やそのときの自分の気持ちを率直に話してくれるようになりました。その子はやっぱりいろいろなトラブルを起こします。ある日は学校にあるビオトープにジャブジャブ入ってしまい、「どうしてそんなことをしたの?」と聞くと「靴のまま入ったらどうなるか、試してみたかった」と。いけないことをしたと理解し、自分の気持ちを言葉でいえることが、この子にとってはすごく大きい成長だなと感じました。私の力で変わったわけではないですが、一緒に下校したことで個別に愛情をかけられ、信頼関係を作ることができました。一緒に帰るのは「その子が1人で安全に帰れるようになるまで」と考えていて、7月になってもうそろそろ1人で下校できそうなので、本人と相談して決めたいと思います。
平野亜美さん
朝の読書の時間までに連絡帳を書くのが決まりで、「クラス26人中何人が時間内に連絡帳を書けたか?」をグラフで見える化。少し早く登校したり「あと〇分だよ」と他の子に呼びかけるなど、行動の変化が見えたそう。
- 反対に、苦労していることはありますか?
 初任の先生は皆さんそうだと思いますが、去年は何もかもわからないなかで毎日4時間5時間の授業があり、すべてに追われる生活でした。土日も休めず、両日ともずっと仕事漬けで疲れていましたね。今年は2年目ということもあり、残業の時間は昨年度より減っています。平日は18時半〜19時半には学校が閉まるので、そのギリギリの時間まではだいたい職員室で仕事をしています。昨年度は19時半に家を出て20時半頃に家に着いて、さらにパソコンを開いて授業準備をする日もありましたが、最近はパソコンを持ち帰らない日もありますし、持ち帰ってもパソコンを使わない日もあります。
 そして土日のうちの1日は仕事を忘れて遊べるようになりました。どちらか1日は仕事のために予定を入れないようにしています。土日で仕事をする日も朝はゆっくり寝て、残りの半日くらい仕事をしたら、なんとか次の1週間が回るかなという感じです。今後も残業は減らせるなら減らしたいですが、それで授業の質が落ちるのも違うと思います。やっぱりまだ2年目なので、時間をかけるところはかけて、授業力をつけることが先かなと思っています。
- 気分転換のしかた、OBOGや財団への質問・要望をお話しください。
 疲れているときは、休息を兼ねて朝はゆっくり寝て、YouTubeやNetflixで動画、映画を見るというインドアな過ごし方をしています。
 土日のどちらか1日は外に出て買い物や観劇などをします。神戸に住んでいるので梅田で美味しいランチを食べて買い物をすると、また仕事を頑張れます。観劇も大好きで、劇団四季の公演は年間で20~30公演は観ています。財団のイベントで東京に行くときには、だいたい東京の公演に足を運んでいます。今年の6月末にも、大学院のときに附属小学校で非常勤講師をしていたメンバーでランチ&劇団四季会をしました。これで1学期終わるまでのエネルギー補給ができました(笑)。それから今年新しく来た先生に誘ってもらい、社会人バレーボールに参加したりもしています。今年度になって「楽しいことがあるから仕事も頑張れる」というサイクルができ、今はとても楽しく働いています。
 奨学生OBOGの皆さんには、教室の環境整備や学級の仕事、授業準備を効率的に行うために工夫していることをお聞きしてみたいです。私は時間内には到底仕事が終わらないので、仕事の効率が高まるようなアイデアや工夫があれば教えてほしいです。
 財団の研修会への要望としては、教員として著名な方のお話を聞けるのも嬉しいですが、教員以外の財団による大人の単位のワークショップやLGBT研究所の講義、お絵かきの講義などのセミナーがすごく楽しいです。教員による研修の機会は教育委員会などでもあるので、やはりこの奨学生としてご縁をいただいたからこそ受けられるセミナーや研修を企画していただけたら有難いです。今後も進んで参加していきたいと思います。
平野亜美さん
今年から社会人バレーボールにも参加するように。「運動するとストレス発散になり、頭もスッキリします!」

(2023年7月3日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
すくすく育つ、尽くす人
(目の前の子どもの問題解決にも、専門性と実践力向上にも日々全力を尽くす平野さん。ときに観劇、バレーボール、買い物にも全力を尽くして自分を解放する)
 平野さんにはOBOG会が発足してから長い間、修了生への連絡窓口としてイベントの連絡やこの取材レポートの配信を担っていただいた。その分メールなどで様々な話を伺うことがあった。問題行動のある子に寄り添い何とかしようとしている話、早朝から働いていて体力的にもきついという話など、試行錯誤の様子や悩みがリアルタイムで伝わってきていた。
 しかし、大丈夫かなあと心配しつつ迎えたOBOGの集いで会ったときに心配は吹き飛んだ。平野さんはニコニコ顔で駆け寄ってきて「劇団四季の公演に行って元気もらいました~」「ご心配かけました~」と元気溌溂と挨拶し同僚後輩たちの輪の中に入って、とびきりの笑顔で活発な会話をしていたのだ。そして集いでのスピーチや久しぶりのリアルな対話では、人間の幅と指導力の成長が良くわかり感動した。
 平野さんは、子どもと向き合い寄り添う中で、発生する多種多様な問題に粘り強く対応する。さらにそのスキルや姿勢について常に他の先生の教えを請い、指導を観察、質問して自分を高める努力を怠らない。教えてくれた相手には必ず礼を尽くすことを忘れない。日々全力を尽くしているから、子どもが小さな成長を示したときの喜びも全身で表現する。そこで蓄積されたストレスは半分吹き飛ばしてしまっているようだ。
 さらに平野さんは自己研鑽にも全力投球している。財団の様々なイベントやセミナーなどにもほとんどに参加し、積極的に自分の意見を述べ、相手の話も全身で受けとめて聴く。だから人よりも大きな学びを持ち帰り、実地で体にしみ込ませている。
 そして、平野さんの凄さは「全力で発散できること」つまりスイッチを切り替えて思い切り楽しむことにある。見ていて楽しくてとても愉快である。それによって心と体にゆとりが生まれるのだろう。だから次が修羅場であっても前向きに入って行ける。これは子どもをも虜にしてしまい、彼らの成長の原動力となる魅力でもある。
 「現実に全身で向き合い全力を投入して、オフのときは全力で楽しむ」この日常のサイクルとリズムを保っているだけで、健やかな成長が保証されていると思う。どうか今までのとおりに歩み続けて欲しい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
皆さんも、明確な言葉にできているかは別として
多忙ななかでも力を発揮できるように、自己コントロールしていると思います。
皆さんの自己コントロールの技やコツ、どんなことでも結構です。
お送りください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
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