大沼智恵さん
2023/00/00 UPDATE
大沼智恵さん
3期生(2022年卒)
帝京大学出身
練馬区立小学校(2年担任)

子どもの「今」の瞬間を捉え、
当たり前のことも言葉にしてほめます。
 3期生の大沼智恵さんは、今年から練馬区の小学校に初任者として勤務しています。2年生の担任として、まだ幼さの残る子どもたちの指導に向き合っています。大沼さんのお話から、やさしい雰囲気でありながら、しっかりと子どもたちを観察し、物事を大きく俯瞰しながら大事なことを着実に進めていく堅実さ、誠実さが伝わってきました。
- 本日はありがとうございます。近況を教えてください。
 昨年は育休代替教員として都内の小学校に1年間勤務して、今年の春、東京都練馬区の小学校に新規採用になりました。今の勤務校は児童数約450人の中規模校です。担任をしている2年生は1クラス30人前後で、3クラスあります。校務分掌は、体育的行事委員会と特別活動部です。体育的行事委員会は、毎年5月に行っている体育発表会(運動会)や体力テスト、プールなどの運動系の行事を担当しています。特別活動部は、1年生を迎える会などの縦割り班の活動の計画や企画立案をします。
 地域の特徴としては、23区内ではあるものの、校内に畑があるなど自然が豊かな場所で、温かい雰囲気があります。昨年は荒川区の都電が走っているような下町らしさの残る地域だったので、同じ都内でもまた少し雰囲気が違いますね。子どもたちの印象はすごく素直です。落ち着いた地域ということもあり、比較的素直にいろいろなことを受け止めて、元気よく学校に通ってくれています。すごく良い環境だなと思います。
大沼智恵さん
校区は東京23区内でも自然が豊かな地域。「学校の畑では全学年がサツマイモを育てています」(大沼さん)
- 児童との関係づくりで、意識していることは?
 休み時間は、できる限り一緒に遊ぶようにしています。うちの学校は2時間目と3時間目の間の休みは全員校庭に出て遊ぶルールになっているので、私も外に出て鬼ごっこをしたり、ドッジボールしたりしています。そこで、教室では見えなかった友達同士の関係が見えることもよくあります。ちょっとしたトラブルもあるし、逆に誰と誰がつながっているかがわかることもあります。保護者から面談などで「クラスの誰と遊んでいますか」「誰と仲がいいですか」と聞かれることも多いので、ふだんの遊びから見えるものも大事だなと思っています。
 それから、「ほめる」と「叱る」をしっかりと区別して伝えることを意識しています。担任している子どもたちは低学年で、教師がどう受け止めるのかをすごくよく見ています。そこで曖昧な表現をすると、本当は良くないことも「いいのかな」と受け止められてしまい、学級の関係が崩れていくという話を聞きます。子どもに良いこと・悪いことをわかってもらえるように、少しオーバーに演技をするようなつもりでほめたり、叱ったりしています。
 日頃から、姿勢が良くなった、まっすぐに手を挙げられた、すぐに静かになったなど、当たり前のことでも常にほめています。2年生は誰かが「姿勢が良い」とほめられると、自分もほめられようとして一斉にガタガタと椅子を引いて姿勢を良くしたりするので、かわいいです(笑)。逆に、友達を傷つけたときや嫌な言葉を使ったときは、「なぜそう言ったの、それは良いことなのかな?」と言葉は選びますが、口調としては強めに言っています。今のところ大きなトラブルはありませんが、「友達にああ言われた、こう言われた」といった小さい訴えは毎日のようにありますね。問題がありそうだと思えば当人に確認しますし、「先生に言いたいだけなのかな」と感じるときは、全部を受け止めすぎず、「そうなんだね」と聞いて受け流すときもあります。
大沼智恵さん
クラスで作成した今年の学級目標。子どもたちの「こんなクラスにしたい」という思いが表現されています。
- 問題がある場合と、言いたいだけのときはどう見極める?
 よく言いにくる子はだいたい決まっているので、子どもの個性をふまえて判断することもありますし、訴えの内容が毎回同じようなことであれば「それは前にも話したことだよね」と伝えたりします。あと発達障害のような特性があり、何かあると固まって動かなくなってしまう子や言葉が出なくなる子もいます。何か困難に直面すると、一人で突っ立ってポロポロ泣いていたりするので、そういう場合は「これで困っているの、あれで困っているの?」と1個ずつ聞きながら、時間をかけて対応する場合もあります。私は特別支援の免許も持っているので、その知識が役立つケースもあります。
 一方、言いたいだけと判断するのは、子どもから話を聞いて「そうなんだ、後で本人に聞いてみるね」と伝えると、意外と満足した表情でさっと帰っていくようなときです。話した後の表情や態度を見て、吹っ切れた様子でお友達と普通に遊べるなら、それでいいかなと思っています。もちろん、後々まで表情が暗かったり、悩んでいたりするような様子があれば、後であらためて時間を作ることもあります。
 総じて、子どもとの距離感は適度に保つようにしています。子どもの話を全部受け取っていると、距離が近くなりすぎて「何でも先生に言えばいい」となって、自分で解決する力が育ちません。だから子どもに「自分で聞いてきてごらん」と言って、少し突き放すときもありますし、距離の離れている子には自分から関わっていかないといけないので、子どもそれぞれの様子を見ながらやっています。私のモットーというほどでもないですが、大切にしているのは「今を大事に」ということです。あまり先のことよりも、今の子どもたちの様子をよく見て、私自身の今もよく見て、そのときの瞬間を逃がさないように関わっていけたらと思います。
- それでは、授業づくりで大事にしていることを教えてください。
 毎日毎日「明日の授業どうしよう」と考えるのは非効率的なので、単元ごとに大きく授業で押さえるポイントを把握し、大きい流れをふまえて授業や板書の計画を考えています。例えば国語で物語の単元だったら、その単元で学ぶ目的や時間数を理解したうえで、1時間目にはこれやろうというイメージを頭の中で作っています。さらに、指導教官や学年の先生方をたくさん頼ってアイデアをもらったり、授業終わりに隣のクラスの板書を見るなどして学ばせてもらっています。先輩の先生方から「1年目は真似でいいんだよ」とアドバイスをもらったので、本当に真似していこうと思っています(笑)。学年の両隣のクラス担任は30代後半の経験豊富な先生方ですが、子育てでお忙しく、相談の時間がなかなか取れないので、朝の5分10分などの隙間時間でお聞きしています。最初に先輩の先生方にお会いしたときに「いつでも話しに来ていいからね」と言っていただき、その言葉が本当に救いになっています。
 それから、2年生は集中できる時間が限られています。どうしても動きたくなってしまうので、ノートに集中して書く時間とまわりの子と交流する時間というように、いろいろな活動を組み合わせてテンポよくできるようにと考えています。クラスには静かに待てる子もいますが、動いてしまう子もまだまだ多く、待ち時間が長くなると今度はできている子がイライラしてしまうので、静かにできる子も動きたい子もお互いがストレスにならないように、工夫していけたらと思っています。
 ただ、規律的なところは低学年できちんと習慣をつけないといけないので、授業中でもそこははっきり区別して指導します。ときどき余裕がなくなると叱るような口調になってしまうこともありますが、でも「静かにしましょう」といった言葉では全然効果がないので、そのときにはやっぱりほめています。「○○さん、静かに待っていてすごいね。こんなにザワザワしているのに」というと、ほかの子も耳を傾けてくれます(笑)。
- 今年、初任者になられたばかりですが、やりがいを感じるときは?
 昨年度は育休代替ですが、3年生の担任として1年間過ごしました。それで3月の終了式の日に校長先生が正職員ではない私の異動も発表してくださり、「先生が担任でよかった」と子どもたちに言われたときは、とても嬉しかったです。異動を知らなかった何人かの保護者も、修了式の日に連絡帳で「1年間ありがとうございました」と感謝を伝えてくださり、担任として関わることができてよかったなと思いました。
 今年度はまだ始まったばかりですが、先日の体育発表会はやっぱり感動しましたね。2年生は旗を持ってダンスをする表現の種目を披露することになっていたのですが、学年のなかには練習になかなか参加できないお子さんがいて、本番まで踊るかどうかもわからない状態でした。でもいざ本番が始まると、ちゃんと参加をして最後まで一緒に踊ってくれて、そういう姿を前で見ていた私も「ああ、踊っているな……」と胸が熱くなりました。子どもたちのいつも以上の頑張りを見られただけで嬉しかったです。
大沼智恵さん
教室前には図工で製作した作品と、体育発表会の感想文を掲示。手に旗をもって元気に踊る姿が並んでいます。
- それでは、苦労していることは?
 今私がいる学校は、全体的に退勤時間が早いです。皆さん「早く帰ろう」と言って、本当に5時を過ぎるとぞろぞろと帰って行かれます。18時を過ぎると人けがなくなり、他の学校でいう20時ぐらいの空気が流れるんです。それ自体はすごくいいことだと思うんですが、結局、処理しきれない仕事が出てきてしまい、勤務時間内でできなかったことは家に持ち帰ったり、朝に少し早く出勤してやろう、土曜日に学校に行ってやろうとなってしまうのが悩みです。私は初任者なので授業の準備や丸つけ、初任者研修の報告作成などを家ですることもあります。
 先輩の先生方は子育て中の方もおられるので、早く退勤しても家で夜に子どもが寝てから仕事をしたり、土日に学校に来てやっている方もいらっしゃると思います。勤務時間は短くても、結局は皆さんが自分の時間を使っているという状況だと思います。私自身は一人暮らしですし、プライベートと仕事がずっと一緒になってしまうとメリハリがつかなくなるので、できれば学校にいる間に仕事を終わらせたいなと思います。いつもまわりの先生に「帰ろう」と促されて「はい」と言って一緒に帰るんですが、私自身は残っている仕事が気がかりで、時間の管理、仕事の管理は難しいなと思っています。
- 休日の過ごしかたを教えてください。
 基本はたっぷり寝て、心と体を落ち着けています。たっぷり寝るといっても、この仕事をしていると朝は目覚めてしまうので朝の6~7時ぐらいに1回起きて、身の回りのことを片付けたり、買い物をしたりした後にお昼寝をしています。
 あとは、卓球などのスポーツで体を動かしています。PTAのOBOGの方がやっている卓球部の勧誘があり、連絡をしてみたら「6月に大会あるから」と言われてそのまま参加することになりました(笑)。私自身は、卓球は小学校5年生から高校までやっていたので、今度の大会の団体戦に少しでも貢献できればと思います。東京都練馬区はスポーツが盛んで、教員同士のスポーツ大会もあります。やっとコロナが明けて活動できるようになり、今週もバレーボールの練習がありました。私は、バレーボールに関しては初心者なのですが、若手として参加しています。でも体を動かすとリフレッシュになって、すごくいいなと思います。去年はコロナもあって全然体を動かす機会がなかったので。
大沼智恵さん
小学校から高校まで卓球をしていたという大沼さん。6月に参加したPTAの卓球大会では見事に団体優勝!
 また、余裕があるときは、学生時代に行っていた野外教育のボランティアに行くこともあります。今年は子どもたちを連れて川遊びにも行きました。学生のときはボランティアのリーダーをしていましたが、今は社会人なので裏方として支えるという役割です。学生時代からのこうしたボランティア経験でも、子どもを見る観察眼などが鍛えられたのかなという気がします。
大沼智恵さん
休日は、学生時代から関わるボランティアで子どもの野外活動支援に出かけることも。「今年は川遊び(上)のほか、GWは伊豆大島でキャンプをしました(下)」
- 最後に、OBOGや財団に伝えたいことがあればお願いします。
 奨学生OBOGに質問・相談したいことは、ICTや特別支援についてです。今担任しているのは2年生ですが、ICTは低学年から使わせないとその後にも響くので、ICTに触れる時間を取るのは大事だと思っています。でも、現状は子どもが個人でできるドリルをやるくらいに留まっていて、なかなかICTを使った授業や、ICTを使って考えをまとめるといった活動まではできていません。私は昨年と勤務する区が変わり、学校で使用するタブレットも変わっているので、これからタブレットの使い方、授業への活用法を学びたいなと思っています。OBOGの皆さんにも、ICTの使い方をお聞きしてみたいです。
 また特別支援については、今はクラスに数人ではなく、クラスの3分1くらいの子が支援が必要な状況です。「特別支援」というより「通常支援」といってもいいぐらい当たり前に支援が必要な子どもがいるので、通常学級のなかでの支援のノウハウや、限られた時間で効果的に支援ができる方法をたくさん学び、自分の中でバリエーションを増やしたいなと思っています。それも財団のイベントや研修で、皆さんと情報交換ができたら有難いですね。

(2023年6月14日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
瞬時に感じとり、適度に働きかける
(子どもや周囲の気持ちと状況のすべてを素早く感じ取り、それを頭の中で論理化し、引き出しから最適な働きかけを選び出す大沼さん)
 心療の世界に「認知行動療法」というものがある。平たく言えば、不適応により心を病む原因は「認知の歪み」にあり、これを改善することで治癒に導くという療法なのだが、このことは正確な認知こそが適切な行動を生むということも意味している。
 大沼さんと初めて会ったときから、その落ち着いた雰囲気と的を射た発言に感心していたが、今回の取材でそれが何故かがわかったような気がする。大沼さんの凄さは、子どものありのままを幅広く細かく感じとる力のみならず、受け止めた情緒と事実を、これまた即座に子どもにとって適切な働きかけに集約する力である。そして、この感じて行動を生むプロセスの中で、相手の周りにいる子どもや関係者への影響、配慮も織り込んでしまうのである。
 だから絶対に的を外さない行動の積み重ねが自信につながって、あの落ち着いた雰囲気と周りを包むような大らかな優しさを醸成しているのだ。
 この力は大沼さんが、子どもにとって、教員、学校さらには社会にとって貴重な存在となりうることを示唆しているのだと思う。ぜひご自分のことも労わりつつ、これからの真っすぐで大きな道を歩んでもらいたい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
子ども・生徒に寄り添う、向き合う日々を送る皆さんは、
受け持つ子どもの気持ちをわかると同時に気持ちとは反対方向にある
正しい行動を教えなくてはならないことがあると思います。
そんなときの皆さんなりの子ども・生徒へのコミュニケーションや
働きかけのケーススタディをお送りいただければ幸いです。
記入フォームはこちら >
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
コピーや転送、対象外の人の閲覧は、厳禁とします。