大森穂乃香さん
2023/11/07 UPDATE
大森穂乃香さん
2期生(2022年卒)
三重大学出身
横浜市立中学校(2年担任)

国語科教員として「素敵な言葉」との
出会いを大切にしています。
 横浜市の公立中学校に勤務している大森穂乃香さん。学生時代にカンボジアへ短期留学をした経験もある大森さんは、現代の中学生が抱える悩みや課題にもひるむことなく、一つひとつ問題を明確にして対応しようとしています。言葉の力を信じ、いつも明るい笑顔で子どもたちに寄り添おうとする姿は、頼もしい限りです。
- お疲れのところ、ありがとうございます。近況を教えてください。
 2022年4月から、横浜市立中学校に勤務しています。担当教科は国語科で、今年度は2年生の担任をしています。昨年度の初任のときには1年生の担任をしていました。クラス替えはありましたが、昨年度からの持ち上がりの学年で、生徒たちのこともある程度わかっているので、1年目に比べればゆとりができている気がします。
 部活動は、男女バスケットボール部の顧問をしています。校務分掌は「特別活動(特活)」と「事務部管財」です。今年度の特活の業務は、生徒会がメインです。生徒会の子どもたちと一緒に学校を動かしていくという仕事です。特活は大変な分掌といわれていて、私は初めて担当するのでどうなるかなと思いましたが、比較的若い先生方が担当に集まっているので、若手の先輩の先生方にいろいろと教えていただいている状態です。もう一つの事務部管財は、机や椅子などの備品管理をしたり、長期休業中に職員で分担して学校の清掃をする際の指揮を取ったりする業務です。
 学校の規模は、1学年6クラスずつあります。横浜の中心地からは少し離れた地域です。なかには学習意欲をあまりもてない生徒もいて、ご家庭への支援が必要な場合もあります。
- 子どもとの関係づくりで、意識していることは?
 子どもたちに「信頼しているよ、見ているよ」というメッセージを目線や言動で伝えるようにしています。少しでもいいことがあったら、そのときに言うこともありますし、言えないときは後から「あの行動はよかったよね」と伝えます。悪いことをしたときも「あれは見ていたからね。心配しているから、あのときは言わなかったけど」と言っています。
 私自身は、ベテランの男性教員のように全体指導で厳しく指導できるタイプではないです(笑)。「厳しく(強く)叱るのが苦手で、教員になるまではそういうことをしなくてもいいように、相手に期待し過ぎず、自分が我慢すればいいや」と思っていました。でも教員はそれではだめで、生徒に期待して変わってもらわなければいけない仕事だと気づいて、どう伝えればいいかと考えたときに「あの行動を見られて嬉しかった」とか「信頼していたのに残念だった」と、全体や個人に伝えていく方法を選びました。最近は子どもたちも「いつも先生が見ていてくれるから」と言ってくれるようになっています。
 それから、生徒からポジティブな言葉が多く出るように、毎朝日直の生徒に著名人の名言や歌詞などからとった「素敵な言葉」を披露してもらっています。私は国語科教員であり、子どもたちに、言葉に支えられた、言葉に助けられたという体験をしてほしいと思っています。それで日直2人に小さいホワイトボードに自分の好きな名言を書いてもらい、朝の会で「今日の素敵な言葉はこれです」と紹介し、黒板に1日貼っておく活動を続けています。先日、生徒たちが図書館で名言集の本を借りて読んで「これ、いいね」と読み合っていたのがすごく嬉しかったです。また私が気に入っている本に、短い名言とイラストが描かれた『+1cm~たった1cmの差があなたの世界をがらりと変える~』(キム ウンジュ著/文響社)があります。子どもたちにも勧めています。
 ちなみに、私自身がいちばん大事にしている名言は「悔しいときこそ踏ん張りどき」というものです。自分が中学校2年生のとき、部活や生徒会など、いろいろとうまくいかないことがあり、先生が長時間話を聞いてくれて、そのなかでかけてもらった言葉です。私が中学校の教員を目指すようになった理由も、その体験が大きいです。そのときの先生のように、私も生徒に寄り添える教師になりたいです。
大森穂乃香さん
毎朝日直が掲示する“素敵な言葉紹介”。「言葉のもつ素敵なパワーに気づいてもらえたら」(大森さん)
大森穂乃香さん
日直は素敵な言葉やクラスへのメッセージ等を日誌に記録。「クラスに掲示しているのでいつでも見返せます!」
- それでは、授業づくりで大事にしていることは?
 この単元を通して「子どもにどんな力を養うことができるのか」というゴールを最初に明確にするようにしています。養うべき力から必要な活動を考え、それを楽しんでやってもらうにはどのようにしたらよいのか、という具体策に落とし込んでいきます。
 これは去年、初任指導の先生に「ゴールから決めるんだよ」と教えてもらい、そのやり方を守っています。教員になって初めの頃は、単元を見て、ただ自分のやりたいことを詰め込んだような授業をしていたんです。でも、ゴールから決めたほうが生徒も何を頑張ればいいかがわかるし、私も最終的にここまで持っていきたいという到着点がわかるので、そのための声かけを工夫したり、活動を準備したりできます。
 ゴールというのは具体的にいえば、ABC評価のB評価を示すということです。学習指導要領の解説にB評価は書いてあるのですが、そのままでの文言では子どもが理解しにくいので、子どもたちが理解できる表現に変えたり、ステップを用意したりして伝えます。例えば「表現技法を理解して活用できるようにする」のがゴールの単元であれば、「表現技法を教科書から抜き出して、それがどの表現技法かがわかるようにする」のが基準となるB評価で、それができなければC評価、それ以上ならA評価になります。生徒によっては「どういうことをしたらAになりますか」と聞いてくる子もいるので「表現技法を抜き出すだけでなく、それを使って自分で文章を作ったりできたらAになるよね」と説明しています。
 ゴールを明確にするようになって、学習のふり返りシートを詳しく書ける生徒が多くなりました。今は、生徒が自分で学習を調整する力、自分の状況を把握して次のステップに行くためには自分がどうしたらいいのかを考える力が重要だと言われています。生徒は先にゴールがわかるようになったことで、次にどうしたらいいかを具体的に書けるようになり、私も基準を明確にすることで評価をつけやすくなったので、生徒も私もお互いにがんばりやすくなったかなと思っています。
- 大森さんは海外留学の経験もあり、「明確化する」ことにこだわりがある?
 結構それはありますね。ちょっと話が変わりますが、今年から私が主顧問をすることになった男女バスケットボール部でも、部活動のルールを初めて明文化しました。これまではルールがかなり曖昧で、いいこと悪いことの基準もなく、好き勝手にしているような状況でした。そこで、私は自分が主顧問でやるとなったとき、いちばん初めにルールを決めることにしたんです。
 ただしルールを明文化するときに顧問主体でやれば絶対に反論も出るし、生徒たちも守らないだろうとわかっていたので、まず男女バスケ部のキャプテン、副キャプテンの4人を集めて「これから新体制になるし、ルールを作ったほうがよくないかな」と話をしました。キャプテンたちも「今のままでは部をまとめていく自信がない」という話だったので、「そうだよね」となって、生徒たちにルールの原案作りをしてもらうように依頼しました。
 子どもに考えてもらうようにしたのは、自分の子ども時代の経験も関係している気がします。当時の部活動を悪く思っているわけではないのですが、例えば事情があって時間に遅れたときも、顧問の先生にいきなり怒られて「話を聞いてもらえなかった」という思いはありました。だから私は、最初からこちらが決めつけて頭ごなしに言うのではなく、まず子どもの話を聞きたいと思っています。
- それでは教員として、やりがいを感じる瞬間は?
 以前に私が子どもに対して注意していたことが、クラスの生徒だけで注意しあってできるようになったときは、成長を感じて嬉しくなります。
 また行事で生徒たちが全力で楽しんでいる姿を見ると、こちらも胸が熱くなります。うちの学校はちょうど昨日が体育祭でした。去年の体育祭は思うような成果を挙げられず、悔しい思いをしたので、今年はその悔しさを晴らそうと思い、大繩の跳び方を調べて話し合いました。また去年から担任していた生徒に声かけリーダーを頼んだところ、その子たちを中心にクラスの結束力が生まれ、大繩跳びで2位になることができました。さらに学年で総合優勝し、紅組・青組・白組という色ごとのグループでも優勝して、賞状を合計4枚ももらえ、子どもたちも大喜びでしたね。
大森穂乃香さん
体育祭で念願の優勝!「私が喜びすぎて、生徒が写真を撮ってくれました(笑)」(上)。懸命に仲間を応援したり(左下)、午後の作戦会議をしながら昼食をとったり(右下)、頼もしい姿がたくさん見られた感激の一日。
 それから、生徒が本気で悩んでいることを打ち明けられたときにも、この仕事の意義を感じます。家庭でのトラブルなどについて「今まで誰にも言えなかったけど聞いてほしい」と言われたときは「ああ、信頼してもらっているんだな」と思えました。
 生徒が悩みや困りごとを話しやすいように、普段から声かけもしています。特に昨年は「中1ギャップ」といわれる1年生の担任だったので、「中学の担任は小学校と違ってずっと一緒にはいられないけれど、何でも話を聞こうと思っているし、いつでも言ってほしい」と伝えていました。2年生の担任である今も、生徒の目の下にクマができているなと思ったら「ちゃんと寝ている?」と声をかけますし、楽しそうにしているときも「いつもより元気だけど、何かいいことあった?」と、まっすぐに言うようにしています。
- 苦労していることや、休日の過ごし方を教えてください。
 苦労しているのは労働時間の管理と、部活動のモチベーションですね。労働時間は去年よりはだいぶ少なくなっていますが、土日は午前に部活があると、午後は仕事という流れになってしまっています。労働時間はただ短ければいいというわけではなく、やっぱり残られている先生も多い中で自分だけ帰るのもどうか、というところがあります。特に部活を熱心にやられている先生は労働時間が長くなります。世間では部活動を教員から離していこうという流れがありますが、現場にはそれが反映されていません。私はバスケットボールの経験が全くないこともあり、そういうなかで顧問として部活動のモチベーションをどこに持っていくべきか、難しいなと思っています。
 休日は、行ったことのない場所を訪れて、おいしそうなパン屋さんや海がきれいに見える場所を探してお散歩をするのが好きです。私は三重県出身で、就職で横浜に来ました。東京近郊でも全然行ったことがない場所も多いので「今日はこの駅で降りてみよう」という感じで歩いています。友達とランチに行って話すのも、気分転換になります。教員ではない高校の友達と学校以外の話をして解放されるときもありますし、教員の友人とは「こうするといいよね」と悩みの解決策のような話ができるのがいいですね。
大森穂乃香さん
知らないところに出かけるのが大好きな大森さん。「夏休みには韓国旅行へ。最高のリフレッシュでした!」
 奨学生のつながりでは、ときどき奨学生OBOG横浜会の集いに誘っていただいています。時折財団の河野さんも来てくださって、授業の話とか、いろいろな話ができるのでありがたいです。奨学生OBOGの仲間が身近にいるのはすごく心強いなと、いつも感謝しています。
大森穂乃香さん
奨学生OBOG横浜会の皆さんと。「悩み相談に乗ってくれる頼れる先輩方。出会いに本当に感謝しています」

(2023年5月31日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
支えられて支えている
(いつも生徒の真ん中にいて、本人以上に生徒の成長を喜び愛しむ姿に、生徒もまた大森先生を愛しみ、頑張る力を贈る。)
 大森さんは、創造性と論理的な思考力を持ち合わせた先生であり、生徒個々人の学習ゴールの設定と歩みのサポートなど、頭も体もフル稼働させる日々を過ごしている。その頑張りの素は生徒が楽しみ喜ぶ姿である。大森さんは毎日毎日生徒の小さな変化に気を配り、声をかけ、少しの成長を感じてはそれを大きく喜びに表して伝える。そしてよく話し、よく聴き、生徒のやる気と自主性を導き出すのである。
 一方取材が進行するなかで、大森さんの生徒に関する語り口調や、生徒のリアクションや発言のトーンから「ほのぼのとした温かさ」を感じるのは何故だろうという思いが深まった。結果、生徒と大森さんを動かす源となる強い絆のキーワードは「尊敬」「信頼」に加えて「可愛い」が挙げられることがわかった。大森さんが生徒を愛おしく思うと同時に、生徒たちもまた大森さんを「可愛い」と思い、気遣い、時にその頑張りすぎを心配して労っているのだ。生徒以上に喜びすぎてしまうことで写真を撮ってもらった運動会の話などはその気持ちの表れだと思う。これが大森さんと生徒の頑張りの原動力なのだ。
 子どもを可愛がる大人はたくさんいるが、子どもから可愛がられる大人はそう滅多にいるものではない。教員として社会人として成長していく長い道のりの果てまで、稀有なこの魅力、いつまでも維持して欲しい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
子どもは知らず知らずのうちに、学力だけでなく
情緒的にも成長しているものだと思います。
皆さんも、「え、この子はこんなにも私のことを気遣ってくれていたのだ」と
心動かされた経験をたくさん持っていると思います。
このような、子どもから力をもらった体験など
どんな小さなことでも結構です。お送りください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
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