阿井ゆりかさん
2023/09/05 UPDATE
阿井ゆりかさん
2期生(2022年卒)
鳴門教育大学出身
徳島県立特別支援小学校(小学部4・5年担任)

「先生、大好き」と言ってくれる
子どもたちに毎日癒されています。
 22年春から、徳島県の特別支援学校に勤務している阿井ゆりかさん。自分のことを気が長いほうで、待つことが苦にならないと分析する通り、おっとりとした優しい口調で教員生活を語ってくれました。そのときどきに応じた支援は難しいと言いつつ、子どもたちとの日々の触れ合いを心から楽しんでいるようです。
- 今日はありがとうございます。就職後の近況を教えてください。
 徳島県立の特別支援学校に勤務して、2年目です。開校して26年目の特別支援学校で、小学部、中学部、高等部の児童・生徒がひとつの学校で学んでいます。障がいの種類は知的障がいと自閉症で、職員数は100名以上、事務室の方が10名程度です。
 昨年は小学部1・2・3年生の低学年の担任をしていましたが。今年は小学部4・5年生の担任をしています。担当教科は日常生活の指導、国語、算数、自立活動、音楽、体育、図工、生活単元学習など。校務分掌は今年、新たに保健環境課になりました。給食メニューを全クラスに配布したり、県の電気使用料の調査の対応などをしています。
阿井ゆりかさん
担当する校務分掌・保健環境課の仕事のひとつで、全クラスに給食献立イラストを毎日配布しているそう。
 山間部にある学校なので環境としては自然が豊かで、なんと電波が届きません。教室の窓の付近に携帯を近づけると、やっと回線がつながるという感じです。わたしは実家から車で通勤していて片道約15キロ、時間にして30分くらい車で山道を走るんですが、山道すぎて、家から学校までの間で信号機が4つぐらいしかないです(笑)。日頃からイノシシの目撃情報も多いですし、この間も通勤中に大きいシカが出てきました。地域の特産品はミカンで、山にはミカン畑が見えます。昨年度は学校付近の農家の方が持ってきてくださり、何回か給食にも出ていましたね。
阿井ゆりかさん
学校近くの公園。「まわりは山だらけですが、公園に散歩に行くのも好き。5月の新緑に元気をもらえます」
- 子どもとの関係づくりで、意識していることは?
 子どもの好きなものをリサーチするところから始めます。子ども自身が言葉で伝えられるわけではないため、子どもの興味がありそうなものを確認し、好きなおもちゃを用意するなど、子どもにとって学校が安心していられる場所になるようにしています。
 前年度の担任からの引き継ぎも大事な情報です。給食の支援でも一人ひとり実態が異なり、昨年度と今年度で給食の支援方法が違うと子どもはパニックになったり、安心して食べられなかったりするので、細かい引き継ぎ資料を読み込んでいます。例えば子どもの口の大きさによってパンの切り方も全然違いますし、食器の提示の方法も一口の量で渡す子もいれば、一切支援をしなくてもいい子もいます。「この子はニンジンが嫌い」という情報があったら、少し量を減らして、1個でも食べられたら「やったね」と声をかけたりと、安心して食べてもらえるように配慮しています。
 それから、できたことは即時評価で、その場ですぐにほめています。子どもによって“ささるほめ方”が違うので、「いいね!」「すてき!」と言ったり、ハイタッチをしたり、「○」というジェスチャーをしたり、いろいろな方法で伝えています。
 ほかに休み時間には、子どもの好きなもので一緒に遊んだりもします。今年度はiPadでYouTubeを見たりしています。恐竜とか戦隊ものの動画を一緒に見て「かっこいいなー」と話したり、「グオーッ」と恐竜の鳴き声のものまねをして、どっちが強そうかを比べたりして(笑)一緒になって遊んでいますね。
阿井ゆりかさん
遊びの時間に子どもが“あつもり”の塗り絵をして「先生できた!あげる!」と満面の笑みでくれたそう。「配色が個性的で、とても丁寧に塗っていて驚きました」
- 障がい児の支援に興味をもった理由は?
 私はたぶん気が長いほうで、待つのが苦ではないところがあります。特別支援学校は「今日はこれ、明日はこれ」という短いスパンでできることを増やすというより、同じことを何回も何回も繰り返して、1年単位で子どもの成長を支える支援になるので、そうした繰り返しをしていく根気強さが私にはあるのかなと思ったのが理由の一つです。それと、私のいとこがダウン症で、小さいときから親戚の集まりでよく関わっていたので、障がい児支援に興味をもったのもあります。
 ただ、どこでどう支援するのかはやっぱり難しいですね。特別支援学校は「自分でできることを増やすフォローをするところ」と教わりました。子どもができることを増やすには、いつもすぐに支援をするのではなく、見守る時間をとることも必要です。一方で子どもの気がそれる前に言葉かけをしなければならないことも多いので、タイミングが難しいなと思います。子どもの気分の波もありますし、コンディションによっても対応の仕方は変わります。子どもがパニックになっていたら、落ち着くまで見守るのも必要な支援ですし、子どもがどうしたいのか、何を求めているのかと考えて向き合っています。
 支援に迷ったときは、ほかの先生方にもよく相談をしています。私は教員2年目で、自分一人では決めかねる場面も多いので「こういうとき、どうします?」と相談しています。特に同じクラスの先生とは、日頃から子どものことをたくさん話し合って情報共有しています。今年は2年目になり、昨年度はもう一人の先生がいかに新人の私をカバーしてくださっていたかに気づき、ありがたかったなと改めて感じています。今年は昨年度の1年間を経て学校の流れや仕事の要領が少しずつわかってきたので、自分が気づいたこと、できることは率先してやろうと思って頑張っているところです。
- 授業力向上のために、取り組んでいることは?
 教材研究では、特別支援学校は教科書がないため、子ども一人ひとりの実態に合わせて、どういう教材を選び、それをどう使うかを考えています。私はまだ授業の引き出しも少ないので、ほかの先生方に相談するほか、本やインスタグラムからも情報を得ています。インスタにも支援学校の情報や保育に関連する情報が載っているので、気分転換というか「かわいいな」と見て楽しんでいます。でも載っている情報をそのまま使えるわけではなく、子どもが実際にするときに、気をつけなければいけないこともありますし、得た情報を噛み砕いて、クラスで行うにはどうすればいいかを考え、工夫しています。
 導入や授業の流れでは、児童に以前の活動写真を見せたりして、何に向かってこの学習をするのかを伝えています。今クラスで夏野菜を育てていて、次の参観日に「大きくなった苗を観察する」という授業を計画しています。そこで導入のときには、子どもたちが小さい苗を植えたときの写真を見せて「こんなん植えたなー」と思い出してもらい、「じゃあ、どれぐらい大きくなったかな、実際に見てみよう」と始めようと思っています。子どもは言葉で淡々と言ってもあまり興味を示しませんが、自分が映っている写真は注目するので、そういう視覚的な資料を使うのは効果的かなと思います。
 初任者と2年目の教員が行う研究授業も、とても勉強になります。初任だった昨年度は1回目に国語・算数・自立活動、2回目に生活単元学習の「クリスマス会をしよう」という内容で研究授業をしました。研究授業をするときは指導案を書くんですけど、この授業をする目的、なぜこの勉強をするのかとか、これができるようになったらどういう力につながるのかといった、学習の意味づけを考えるのが難しかったです。例えば、蝶結びは難しくてできない子が固結びから学ぶのであれば、固結びができることでお弁当袋の紐を結べるとか、次に蝶結びの課題に進めるというふうに、課題1個につき、今後どういう力につながっていくのかを明確にするのが大変でした。でも、そうすることによって保護者面談でも、きちんと意図を持ってこの教材を使って学習しているんだと伝えられますし、それが保護者からの信頼にもつながると思っています。
阿井ゆりかさん
生活単元学習の授業で児童が育てているキュウリ。「『おおきくなってる!』と指差しして教えてくれます」
- やりがいを感じるのは、どんなとき?
 子どもの言葉が増えたり、その子の得意を引き出せたりすると嬉しいですね。昨年度のクラスの児童ですが、食べ物が大好きな子がいました。初めの頃は食品のイラストを見ても名前を言えなかったんですが、勉強時間などに「これハンバーガーっていうんよ」と名前を確認したり、食べ物の本を図書館で借りてきて一緒に休み時間に見ながら「これは?」「これはカルボナーラっていうんよ」、「これは?」「マカロン」と繰り返していき、その年の後半にはたくさんの食べ物の名前を言えるようなりました。食べ物の名前を知ることで他の遊びも興味が広がり、給食でも「今日の給食、何かな?」と会話が増えましたね。
 昨年の年度末の生活単元学習の時間に行った「クレープを作ろう」という授業も楽しかったです。クレープの生地は既製品で、子どもはホイップクリームと自分が選んだフルーツを生地に乗せて、折りたたんで食べるという簡単な工程のお菓子づくりをしたら、みんなとてもおいしそうに食べてくれました(笑)。
 とにかく子どもたちがかわいくて、癒されています。子どもが「先生、大好きー」と言いながらギューッとしてくれたりするので、毎日「楽しいな」という感覚で、仕事をしているとはあまり思わないです。もちろん叱らなければならないときもあるし、教材作りなどがしんどいときもあるんですが、「これをしたら子どもが喜んでくれるかな」「子どもの成長につながるかな」と考えると苦にはならないです。
- 苦労していること、今後の課題は?
 今後の課題は、計画的に仕事をこなすことです。私は経験が浅いので、教材選びや提示の仕方を考えるのにも時間がかかりますし、子どもの体調の変化など、予測できないことに臨機応変に対応する難しさを感じています。
 例えば、年度初めに、自分でトイレに行きたいと言えず、おしっこを失敗してしまう児童がいます。年度当初は慣れない環境で緊張や疲れも出やすいので、本来なら早めにトイレに誘うなどの配慮が必要です。そうした子どもの体調変化や突発的なことに対応するためにも、日頃から早めに授業準備をし、まわりの先生と相談をして計画的に仕事を進めていくことが大切なのかなと思っています。
 それから今年、校務分掌が代わったのは予想外でした。今年度は新しい分掌で、自分一人で業務を担当するものもあり、引き継ぎの資料を見たり、昨年担当された先生に話をお聞きしたりして、自分で仕事を進めることが増えました。それで新年度は準備しなければならないことが多く、時間外勤務が重なって体調を崩した時期がありました。
 周りのベテランの先生方を見ていると、休み方が上手だなと思います。例えば4時間授業の日に3時間の休暇を取って帰るとか、計画的に仕事を早めに終わらせ、自分の時間を作っていると感じます。昨年の夏休みも、私は年次有給休暇の取り方が下手すぎて、お盆期間の8月15日の翌日にも学校に行くものと思って出勤したんですが、他の先生方は全然いませんでした。やっぱり計画的に仕事をすることによって早く帰れたり、効率的に休みを取ったりできるんだなと痛感しました。
- 気分転換でしていること、OBOGに聞きたいこと等をお願いします。
 家の近くに岩盤浴やサウナがある施設があり、そこでまったり、ゆったりするのが好きです。今年はゴールデンウィーク明けの学校がしんどすぎて、2週連続で週末に岩盤浴に行きました(笑)。カメラを持ってお出かけするのも好きです。大学生のとき、当時バイトをしていた幼稚園で携帯で子どもの写真を撮っていたら、園長先生が「ゆりか先生、センスあるね」と言ってくださったのがきっかけでカメラにはまり、大学生のときに10万円ぐらいする一眼レフのカメラを買いました。最近はあまり出かけられていないのですが、植物や食べ物の写真を撮るのが好きです。
阿井ゆりかさん
徳島・鳴門の名物の鯛(上)とワカメ(下)。一眼レフカメラで食べ物の写真をとるのが息抜きという阿井さん。「ワカメは本当においしいです。味噌汁のだしも海鮮系でひと味違うので、ぜひ食べに来てください」
 それから、大学時代に阿波踊り部だったこともあり、阿波踊りも再開しようかなと考えています。徳島では毎年お盆の期間、阿波踊りがあるんですが、有名連の人たちはそのために仕事終わりの平日夜の7~9時などに、集まって練習をしているようです。私は大学時代はコロナであまり踊れなかったこともあり、久しぶりに踊ってみたいと思って有名連に連絡を取り、明日初めて練習の見学に行く予定です。練習は週4日間あるようですが、私は仕事が朝早いし、練習全部には参加できないと思いますが、金曜日だけなら練習に行けるかもと考えています。仕事だけじゃなく自分のやりたいこともやったほうが、メリハリがつくというか、その分仕事も頑張れるような気がします。
 奨学生には「教育や教育以外の自分の興味のあることにチャレンジして、たくさんの思い出を作ってください」と伝えたいです。私は、財団の催しで東京に行ったことが素敵な思い出になっています。OBOGには「自分の専門性を高めるために、どのようなことに取り組むつもりか、何に取り組んでいるか」を聞きたいです。夏の交流会のような機会で、そんなお話もできたら嬉しいです。
阿井ゆりかさん
阿井さん撮影。「多肉植物はどれも違う色・形で見ているだけで癒されます。育つ様子を見るのも楽しいです」

(2023年5月26日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
やわらかく包まれる幸せ感
(ひとりひとりの子どもの気持ちを感じ取り、受け容れて、大きくて広くてやわらかい心地よさで包んでしまう阿井さんの毎日)
「幼児が好きになるのは、○○パンマンのような丸い顔だ」などと言われながら、その中にも見向きもされない顔もあるそうだ。子どもとりわけ幼児には、その笑顔が心からのものなのか、嘘偽りない愛を自分に注いでくれるかどうかを瞬時にわかる力があるのだという。
 阿井さんの取材がはじまって20分。まるで羽毛布団に包まれているかのようにじわじわポカポカと心が温まり、ほんわかした気分になっていった。のどかな話しぶり、くったくのない満面の笑み、子どもの喜びイコール自分の生き甲斐と淡々と語るその雰囲気に自分が反応して引き込まれて行く変化が心地よかった。年寄りがこうなのだから、きっと子どもたちは遥かに早く、もっと温かく優しい気持ちになってしまうのだろう。
 阿井さんはその温かさに子どもたちを包みこみながら、常に子どもの変化を観察し、子どものペースに合せた対処や対応を考えている。あくまで子どもを主役として捉え、根気強く自主性を引き出していく。そして授業も子どもの得意を引き出す場として創意工夫を続けている。阿井さんとの関係を経て、きっと子どもたちは多様な個性と才を発揮するようになるだろうと思った。
 やわらかく包みこむ中で繊細に寄り添う今の指導をずっと続けて欲しいと思う。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
子どもが本物を見抜く力について触れましたが
皆さんは、沢山の子どもの力に驚き感心した経験をお持ちのことと思います。
その経験と気づきを送っていただきシェアすることは
子どもとの関係構築のうえで有意義なものになると思います。
是非お送りください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
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