山下慎司さん
2023/08/19 UPDATE
山下慎司さん
2期生(2022年卒)
立命館大学大学院出身
兵庫県公立中学校(1年担任)

生徒が概念的な思考を獲得できるような、
授業デザインを考えたい。
 財団の催しでもおなじみの山下慎司さんは、兵庫県の公立中学に社会科教員として勤務しています。初めてクラス担任や学年の生徒指導担当を務めることになり、とても多忙な毎日ということですが、大学院で学んだことを実践に生かしたいと授業づくりにもこだわるなど、教育に対する情熱が伝わってきます。
- 今日はありがとうございます。就職後のことを教えてください。
 2022年4月より、兵庫県宝塚市の中学校に社会科の教員として勤務しています。僕は小学校の歴史の授業で歴史が好きになり、教師を目指すようになりました。学生時代は小学校か中学校かで迷っていて、財団の支援をいただいて大学院に進学しましたが、大学院で授業方法について勉強するなかで、社会を専門的に教えながら部活動の指導もしてみたいという思いが強くなり、中学の社会科で教採試験を受けて採用されました。
 初任の22年度は中3学年付という立場で、23年度からは1年生の担任をしています。学年の生徒指導担当と、部活動では女子ソフトボール部の顧問をしています。
 勤務校は宝塚市の住宅街にある大規模校です。生徒数は各学年200名程度で、総数は約600名。教員数は約45名です。校区が複雑で4つの小学校から進学してくる中学なので、隣校に友達がいる生徒も多いです。子どもたちは明るくて素直な子が多い地域ですね。
 担任しているクラスは39人学級で、1学年5クラスです。授業では1年生の社会科すべての週3時間×5クラスと、3年生の社会科・週4時間のうち、1時間×5クラスを担当しています。
- 生徒や保護者との関係づくりで、心がけていることは?
 今年は1年生の担任なので、生徒との関係づくりでは自己開示を意識しています。中1ギャップという言葉もあるように、小学校から中学校に上がるとすごく環境が変わります。環境が違うなかで何も知らない、会ったこともない先生が来るわけですから、生徒と早くコミュニケーションを取れるようになるには、ある程度こちらから自己開示をしていかないと、子どもたちも心を開いてくれません。だから聞かれてなくても、自己紹介はしっかりやっています。生徒からの質問も、学校からストップがかかっていることや道徳的に答えられないこと以外は、例えば「彼女がいますか?」とか「初恋はいつですか?」とか(笑)、あまり他の先生は答えてくれないようなことでも、答えられるものはすべて答えています。それがきっかけで休み時間に話に来てくれたりするので、大事です。
 それと昼休みや放課後は、できる限り教室にいるようにしています。昼休みは教員の休憩時間でもありますが、せっかく生徒とコミュニケーションを取れる時間なので、できるだけ教室にいて話をしています。放課後は部活に行く子が多いですが、一部教室に残って少し話をする子もいるので、基本的には僕が最後に教室を出るように心がけています。
 保護者との関係作りでは、こまめに電話をかけています。まだ新学期が始まって2週間ほどですが、生徒が欠席したら電話をしていますし、それは今後も続けるつもりです。あとは今ちょうど家庭訪問の期間ですが、訪問した生徒の自宅で保護者に「学級通信を読ませてもらっています」とよく言われます。学級通信は生徒に向けて出しているつもりですが、必ず親御さんも目にされるものなので、そういったところで保護者にも、生徒たちの普段の様子をお伝えできればと思っています。
山下慎司さん
年度初の大きな行事である体育大会後、健闘を讃えて学級通信を発行。「生徒の真剣かつ楽しむ姿が撮れました」
- 職員間の関係は、どうですか?
 職場では、“ついていきたい先輩”がいます。やっぱり先生方にもいろいろな先生方がおられます。今の職場にも、子どもたちとの関わり方や学級運営、授業などで「この先生のこういうところを学びたいから、ついて行こう」と思える先生方がいらっしゃるので、そうした先生方には積極的にいろいろなことを聞きに行ったり、相談させていただいたりしています。
 といっても、ただ受け身で先輩の先生を真似するだけでなく、僕は僕自身で「授業はこういうふうにしたい」「生徒指導はこうあるべきだ」といった考えを持っているので、その考えと照らし合わせて判断します。先輩が「こうしたほうがいいと思うよ」と言ってくださったことも、自分の考えと違うときは「僕自身はこう思うんですけど、どう思われますか」と聞いて、答えに納得したらそれに従いますし、納得できないときは、先輩の助言は助言として受け止め、1回自分のやり方でやってみようと考えます。
 やっぱり現場で長年やってこられた先生の経験は、すごく価値のあるものです。それは教師になったばかりの僕らにはないものですし、大事にしなければいけません。一方で、自分が大学・大学院で学んできたこれからの教育に対する考え方も大切にしたいですし、時代も生徒も日々変化していますから、新しいものを取り入れていくことも必要です。だから先輩方の知恵や経験と自分なりの考えを合わせて、より良い教育にしていけたらいいのかなと思っています。
- それでは授業づくりについて、教えてください。
 社会科は、どうしても暗記のイメージが強いと思うんです。もちろん教科書の内容を理解することは大切ですし、今の入試を考えれば単語を覚えることも必要です。けれども社会科の学習で最終的に獲得してほしいことは、そこではない。教科書内容を通じて、現在や将来にも生かせる概念的な知識・考え方を子どもたちが獲得できることが最終目標であって、そのための授業デザインを考えたいと思っています。
 例えば「第一次世界大戦と日本」の単元なら、普通の授業では第一次世界大戦が起きて、ロシア革命が起きて、国内では普通選挙法が成立してという流れで、史実をどんどん押さえていくと思います。僕の場合、大学院で社会科の知識をレベル分けして教科書内容だけの低次の知識から、高次の知識を身に付けさせるためにはどういう発問をすればいいか、といったことを研究していました。その一環で大学院時代には、第一次世界大戦の単元について「大義名分には必ず裏がある」という視点で授業をしたことがあります。
 具体的にいうと、ロシア革命で日本がシベリア出兵をしたときの大義名分は、「ロシア革命を止めるため、社会主義の国の成立を防ぐため」です。でも日本が出兵したところは、ロシア革命が起こっているモスクワとは正反対の極東です。「これで革命を止められるかな。日本が出兵した本当の目的は、満州やその周辺での権利を獲得するためだよね。大義名分とは違うことが実際に起きているよね」と話をしました。
 そのうえで、最後は生徒に自分の言葉でまとめてもらいました。史実に対して「なぜ」という問いを立て、教科書で学んだ言葉を使って大義名分のことを書いてもらったら、単語で覚えるだけの知識より、深い知識になると思ったからです。「大義名分には裏がある」という考え方を知った子どもたちが、「今のロシアがウクライナに侵攻した戦争の大義名分はこれだけど、背景には異なる意図もあるかもしれないよね」と考えてくれたら、教えた意味があったのかなと思います。
山下慎司さん
社会科の世界地理の授業(上)と板書の例(下)。「授業では、生徒に考えさせる活動を必ず取り入れるようにしています。教科書『を』教えるのではなく、教科書『で』教えることが日々の授業の目標です」
- 授業では、生徒とのコミュニケーションを大事にしている?
 そうですね。今のクラスは中学1年生なので、授業と関係のないことを話してしまうこともありますが、意見を交わすなかで「そういう考え方もあるかな」というリアクションが見られたり、「それは違うやろ」と盛り上がったり、楽しく話し合っている姿を見ると「いいな」と思います。静かでこちらから一方通行で話す授業より、生徒同士のコミュニケーションもそうですし、生徒と教師である僕のコミュニケーションが活発に行われるような授業を目指していきたいなと思います。
 これも大学院で学んだことですが、コミュニケーションという面では、対話には3段階があると習いました。まずは「教材との対話」、次に「他者との対話」、そして「自己との対話」です。まず教材を見て発問について自分で考える。自分の意見がある程度わかったら、次に他者との対話で、グループワークで共有してみる。他の人の意見と自分の意見の違いや「そういう考え方もあるんだ」と確認したうえで、最後に自分の考えに立ち戻り、もう1回自分の意見を省察し、最終的に自分の意見をまとめる。昨年度の中学3年生には、すべてではありませんが、そういう3つの対話を意識した授業も行いました。
 それから、授業の導入をとても重視しています。授業の進度にもよりますが、基本的に最初はまったく関係のない話から始めます。「最近、部活はどう?」みたいなことも言いますし、それこそ授業と結びつく身近な話題があればそこから始めて、いつの間にか授業の冒頭に入っているような感じで進めていけるのが理想です。
 一例を挙げるなら、今年の3年生の最初の授業が少子高齢化社会の話だったので、子どもが少なくなっている事実に気づかせたいと思い、アニメを例に話しました。「サザエさん」は1946年に連載が始まっていますが、1950年頃の合計特殊出生率は大体3.65くらいで、3人きょうだいです。その約40年後に始まった「ちびまる子ちゃん」は、まる子とお姉ちゃんの2人姉妹。「実はアニメってそのときどきの社会を映していて、だんだん子どもが減っているんだよね。じゃあなんで子どもが少なくなったのか、見ていこう」といった感じです。
 今年度は教材研究をする時間がなかなかとれないのですが、授業の導入と発問だけは、ちゃんと納得いくものにしたいと心がけています。
山下慎司さん
ある日の授業中の風景。「生徒はとても真剣に授業を聞いてくれています。ICTの有効活用が今後の課題ですね」
- 苦労していること、今後取り組みたいことは?
 今年度は急激に仕事量が増えて、教材研究をする時間の余裕がまったくないのが悩みです。授業数が社会だけで週20コマ、担任として学活・道徳・総合が3コマあって、生徒指導担当として生徒指導委員会もあるので、1週間29コマのうちの24コマが埋まっていて空きコマが少ない状態です。さらに初めて担任をするので、初めてのことばかりでどうしても時間がかかってしまい、教材研究に割く時間がなかなか作れていないのが現状です。大学院で学んだ授業デザインを実践する教材研究の時間をしっかり確保するには、他の仕事を要領よくこなしていく必要があるなと思っています。
 それと、自分に専門性のない部活動の指導にも戸惑いがあります。顧問をしている女子ソフトボール部は僕を入れて3人顧問がいて、メインの先生は野球経験者です。ただ僕自身は野球もソフトボールも経験がありません。子どもたちは競技で上手くなりたいときに、普通は顧問にアドバイスを求めると思いますが、「競技をやったことがない先生に質問してわかるのかな」と素直に疑問をもつと思うんですよね。
 子どもたちがそう考えたときに、自分は顧問として、果たして必要な存在になれているのか、競技を通じて信頼関係を構築することができるのかという不安は正直あります。
 また女子の部活は独特の空気感があります。当然私はそれを子どものときに経験していないので、顧問である自分がどこまで立ち入って良いのか、どのような集団づくりが望ましいのか試行錯誤中です。そういったところは難しいなと思いますね。
 これから取り組みたいことでいえば、今年、学年の生徒指導担当になったので、子どもたちの心に響く生徒指導とはどのようなものか、指導をしていくなかで自分自身の形を作れればと思います。まさか2年目の今年から、学年の生徒指導をやるとは思ってなかったのですが、ゆくゆくは学年や学校をまとめる立場になっていくと思いますので、生徒指導に関しては、いずれまた大学院で理論を学びたいなとも思っています。
- 気分転換の方法と、メッセージをお願いします。
 空いている日には友達とおいしいご飯を食べに行って、気分転換しています。僕は酒が強いわけではないんですが、日本酒が好きなので、日本酒が飲める海鮮系の居酒屋に行ったりします。あとは同僚に年代の近い人がいるので、その人たちと近くの店でおいしいご飯を食べたりしています。
 旅行も好きですが、最近は忙しくて行けていません。僕の場合、大学4回生の2、3月の卒業旅行シーズンにコロナが始まり、大学院を卒業するときもコロナの波がちょうど来て行けなかったので、やっぱり行きたいなとは思います。この仕事柄、好きなときに休みを取って旅行に行くことはできないので、次の夏休みあたりにちょっと行けたらいいですね。ただ今年の夏も財団の催しがあると思うので、幹事をやることになれば東京に行くかもしれません。尾形さんに「頼む」といわれ調整中です。
 奨学生へのメッセージでは、教員になるとご存じの通り、なかなか休みは取れません。特に中学校は部活もあるので、長期休暇も取りにくいです。今のうちに遊ぶことも含めて、社会経験をたくさん積んでください。
山下慎司さん
「友達や職場の人とのご飯が憩い」という山下さん。「刺身などの海鮮系と日本酒のお店をよく選んでいます」

(2023年4月25日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
納得の求道者
(沢山の意見に学びつつ、自分が腹落ちし、生徒が納得することを追究し尽くす。それを貫く凄さをこの人は持っている。)
 山下さんはマラソンマンである。100kmマラソンにも挑戦し完走している。この競技を続けている人の特徴は「自分の頑張る生き方への納得を追究する姿勢」と言われる。
 そして山下さんは奨学生、OBOGの様々な催しの進行を務めているが、質問者にマイクを渡す時に必ず走って渡すのだ。恒例となったこの姿を不思議がる人もいるが、これは「これから意見を言う人の思いや熱意に応えるために、自分が納得のいく素早さを求めた結果」なのだろう。
 取材をして、授業においても日常コミュニケーションにおいても彼は「相互納得づくり」を目指していることがよくわかった。先輩の話を良く聴くが、最後は自分の納得と腹落ちを軸に行動を決めているという話だけでは単なる頑固者にも見られかねないが、彼が授業において、生徒のコミュニケーション、意見交換を活性化するために真剣に取り組み、社会現象や事件において「人の情緒的側面」にもふれる背景の説明をするなど、生徒を納得・腹落ちに導く情熱と創意工夫を絶えず行っていることは、きっと山下さんが等身大に愛される存在として受け入れられているのだと思わせる。
 常に自分も生徒や周囲も納得することの追究は、常人の倍以上のエネルギーを要することだろう。しかし、彼にはやり遂げそうな凄さを何故か感じてしまう。
 「休むことも納得のため」と時には思い、今を積み重ねて欲しい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
ともすると人に教えることは「理解」させることに終わってしまいます。
「納得」とは得心。
自分の意思を踏まえた上で他人の考えや行動を受け入れることです。
皆さんが考えている子ども・生徒の「納得」づくり
是非教えてください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
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