大島稜平さん
2023/00/00 UPDATE
大島稜平さん
2期生(2022年卒)
広島大学出身
広島県公立小学校(2年担任)

導入を工夫し、子どもたちが自ら
「やりたい」と思える授業に
 学生時代は剣道部や漕艇部で活動しながら、広島国際青少年協会にも所属し、広報誌のデザインなどに携わっていた大島稜平さん。現在は広島県の小学校に勤務し、得意のデザイン思考を活かして図工の指導に力を入れています。教員という仕事のやりがいを感じつつ、迷いや葛藤もあるという2年目の率直な思いを語ってくれました。
- ご協力ありがとうございます。就職後のことを教えてください。
 令和4年度に広島市の公立小学校に就職し、現在2年目になります。初任の昨年度に2年生の担任を経験し、今年もまた新たに2年生の担任をしています。生徒数は全体で約500人、教員数は約30人です。2年生は2クラスで、昨年の担任クラスは28人でしたが、今年は少し人数が増えて33人の学級です。
 勤務校は、創立113年目の歴史ある小学校です。広島市中区の中心地にあり、平和記念公園・原爆ドームから徒歩10分くらいのところにあります。『はだしのゲン』の作者である中沢啓治さんの出身校でもあり、毎年学区の原爆死没者慰霊式を執り行い、戦争や平和への関心を高めています。
 学校ホームページに各学年の教育活動や行事を掲載していて、2年生の記事は昨年度から僕がすべて書いています。2023年の4月は、学年開きやお花見の記事をアップしました。もともと写真を撮るのも好きですし、学生時代に文章を書いたりもしていたので、初任のときに、ホームページの記事作成について尋ねられて「全然嫌じゃないです」と答えたら、「じゃあ、担当ね」と言われて今に至ります(笑)。
- 児童との信頼関係を築くのに、意識していることは?
 子どもには、日頃から「大好きだよ」と言葉をかけています。全員に言うわけではないんですが、家庭で保護者にあまり関わってもらえていないのかな、と思われる子どもは毎年何人かいます。そういう子は大人の気を引くために、お手伝いや学級の仕事を進んでやってくれることがあり、そういうときに「ありがとう、大好きだよ」と伝えます。これは昨年、他学年のベテランの先生がそういう声かけをしていたのを見て、「いいな」と思ったのがきっかけです。小学校でも高学年だとそういう言い方は抵抗があるかもしれませんが、低学年の児童なら嫌な気はしないかなと思っています。
 それから態度では、ちゃんと子どもの目を見て話を聞くようにしています。2年生はまだ生活全般に手助けが必要で担任は日々慌ただしいんですが、子どもから「こんなことがあって」と話をしてくれるときは、話している子どもを見てしっかり返事をします。適当に聞き流している感じにならないように「あなたを見ているよ、聞いているよ」というメッセージが伝わるようにと意識しています。
 学校生活では、叱らなければならない場面もありますが、「行為を叱っただけで、あなた自身を否定したわけではない」というアフターフォローも大切にしています。昨年度にいちばん心を鬼にして怒ったのは、クラスの子が上履きを隠されたという事案があったときです。年度当初に「人を傷つけること、人の命を危険にさらすようなことは、絶対に許さないよ」と話をしていて、人の物を隠したり捨てたりするのは、それに該当する許せないことだと思い、朝からクラス全体に指導をしました。その後、「自分がやった」と名乗り出てくれた子がいたので、本人とも話をして、それ以降はそうしたトラブルはないです。
- 授業づくりで、大事にしていることは?
 昨年度1年間教壇に立ってみて、授業では最初の導入が大事だなと思いました。最初に子どもが「やりたい!」という気持ちになったら、こちらがとやかく言わなくても、子どもたちは頑張れると思うんです。
 僕は図工が好きなんですが、ちょうど今日の2年生の図工では「ふしぎなたまご」という単元をやりました。画用紙に卵を描いて、それをチョキチョキ切り出して割れ目を入れ、別の画用紙に貼って「中から何が生まれるかな」というのをクレパスで描く単元です。去年の図工では、お手本となる参考作品を作らずに授業に臨んでいたところが反省点だったので、今回はしっかり作っていきました。卵を描いて中にいろいろな模様や色をつけ、授業の導入として子どもに見せたところ、「おー!!」と大きな反応がありました。参考作品を自分の作品に取り入れる子もいますが、完全に同じものを作るのでなければいいと思っています。イメージを膨らませる助けになるし、「こんなものを作りたい」というモチベーションにもなるので、参考作品の大事さを今日あらためて感じました。
大島稜平さん
2年生の図画工作科「ふしぎなたまご」の単元では、大島さんが参考作品を用意(上)。子どもたちもそれに刺激を受けて意欲的に製作を始め、色彩も形もさまざまな個性あふれる楽しい「たまご」が誕生(下4点)。
 それから、子どもがわくわくして「やりたい」と思うような声かけも考えます。今日の導入でいうと、最初に黒板に丸を書いて「これ何だと思う?」と問いかけると、子どもから「ボール」「真珠」…「卵?」と声が挙がります。それから丸に割れ目を描いて「さあ、中から何が出てくる?」とテンポよく話を振っていくと、「先生、早く(用紙を)配って!」と言い出す子もいて、張り切って作り始めました。そういうふうに導入がうまくいくとやっぱり楽しいですね。毎回うまくいくわけじゃないですけど(笑)。
 授業でもそれ以外でもそうですが、僕は子どもが「やらされてる」と思うような活動にはしたくないです。子どもに「自分がやりたいから、やっている」と思わせられたらいいと思います。小学校の授業は45分と時間も短いですし、算数なら「今日は足し算の筆算を練習します」といった目当てが先にあるので、「やれと言われたから、やるか」となりがちです。導入や問いかけを工夫して、初めに「自分がやるんだ」というモチベーションをもてるようにしていくと、どの教科の授業も、掃除などの活動も頑張れる気がします。
大島稜平さん
授業は導入を重視。「子どもたちが前のめりに『早くやりたい!』と言ってくれ、内心ニヤリとしました」。
- 教員としてやりがいを感じるのは、どんなとき?
 子どもがまわりの子どもから認められたときや、子どもから「学校が楽しい!」と言われたときには嬉しいです。
 この間印象的だったのが、新1年生をお迎えする会でのエピソードです。2年生以上の各クラスから1名代表を選出し、学校放送で「1年生を迎える言葉」を言うことになっていました。うちのクラスでは「やりたい」という子に手を挙げてもらい、その中からそれまでの生活態度などを見て、僕がKくんを代表に決めました。でも練習で実際に言葉を話してもらうと、Kくんは声が低いし、決して上手とは言えない状態でした。他の先生からも「なぜこの子を代表に?」という視線を感じ、僕も悔しかったです。そこで本人には「Kくんは普段の挨拶がいいから大丈夫、必ずできると思うよ」と伝え、一緒に何度も練習を繰り返しました。後で保護者から聞いたところ、Kくんは直前は家でもずいぶん練習をしてくれていたようです。
 そして本番当日。Kくんは当初の不安を見事に払拭し、はっきりとした声で立派に本番の原稿を読み上げてくれました。放送後にKくんが教室に帰ってくると、クラスのみんなが「うわー!」「良かったよー!」と盛大に拍手をしてくれ、それが本当に嬉しかったです。Kくんも照れながら喜んでいたので、今回指名して本当によかったなと思いました。
 学生時代に、子どもに仕事や役割を任せるときは、その子へのプレゼントになるように、と教わりました。ただ「やっておいて」と任せるだけではなく、任せたからにはその子がその経験から少しでも何かを学べるように面倒を見たり、フォローをする。それが教育的な関わりだと思うので、Kくんもこれを機にもっと自信を持って前に出るとか、さまざまなことに挑戦していってもらえたらと思います。
 また、クラスにはいろいろな子どもがいて、それぞれの個性があります。教師だけに認められるよりも、友達やクラスの仲間と認め合えるようになると、学校生活を送るうえで大きな糧になると思うので、そういう場面を作れるようにしたいですね。
- 今、苦労していることや悩みはある?
 授業を予定通りに進行させつつ、理解の難しい子のフォローをすることに苦労を感じています。特に算数はわかりやすいんですが、前で最初に1問筆算の練習をやり、次に教科書に載っている問題を解きましょうという段階で、すぐに終わってしまう子もいれば、そもそもノートに書き写すことすら難しい子もいます。できない子を個別にフォローしながら、できている子には「終わったら、これをやろう」と指示をして、全体として授業を進めなければならないので、てんやわんやになります。遅い子に合わせすぎてもテンポが悪くなってしまうし、難しいです。去年はそれが怖くて授業を早く進めようとしすぎて、できない子をとり残してしまった面があり、そこが課題だと思っています。でも、まだまだうまくできずに悩んでいる最中です。
 それと、働き方改革やワークライフバランスが叫ばれている一方で、残業をしたり、休日に出勤したりしないといけない現状にも悩んでいます。勤務校では全体に熱心な先生方が多いので、特に平日の残業はどうしても多くなってしまいますね。教員は「自分の仕事」が曖昧なのも要因かなとも思います。自分のクラスの仕事は終わっても学年単位の仕事が残っていたり、校務分掌の割り振りがあったりして、「はい、自分の仕事はここで終わり」と言いにくい状況があります。また帰りたい一方で、やっぱり良い授業をしようと思ったらそれなりの時間はかかります。自分は経験が少ないので、初めて見る教材もありますし、今回の図工のようにしっかり準備をしたほう授業がやりやすいし、準備を頑張った分、児童の学びも大きくなります。だから、そこは葛藤ですね。
- 今後に取り組みたいことは?
 僕は、もともと絵やデザインが好きで得意でもあるので、それを学校でももっと生かしたいです。授業もそうですし、配布物や掲示でも、そんなに華美でなくていいので、見やすく読みやすい情報整理に力を入れたいです。例えば給食当番表とか掃除当番表も、もう少しシステマティックで、子どもがぱっと見てわかりやすいものに変えたいです。もう少し余裕が出てきたら、学級の様子を伝える学級通信も作りたいです。
 それから「指導に一貫性をもたせる」というのも今後の課題です。例えば、ある子には「それはダメ」と言ったのに、他の子には「いいよ」と言ってしまったりすることがあります。子どもはそういう大人の言動をよく見ているので「あの子はいいんだ」となるのは良くないなと。今の段階では、いろいろな先生の指導方針を聞きながら対応しているので、ブレてしまうというのもありますし、子どもから「先生、でもこれってこうじゃない?」と言われて「確かに……」と思うことも(笑)。そのときの子どもの機嫌などに関係なく、ここはダメだと一線を引いて接することができるようになりたいです。
- 気分転換のしかたと、奨学生へのメッセージをお願いします。
 気分転換では、年始からダイエットを始めたので、その一環でよく散歩をしています。学生時代には剣道部や漕艇部で運動をしていて、とくしまマラソンも完走したこともありますが、部活を引退した頃から体重が増えてしまって……。教員になってからは常に動いているんですが、強い負荷がかかるようなことはあまりなく、今日もラジオ体操を張り切って指導していて太ももがつりかけ、しっかり衰えているなあと実感しました(笑)。そんな生活なので、買い物がてら近くのショッピングモールまで歩こうとか、たまに学校からの帰り道を歩いて帰ってみようとか、だいたい5キロぐらいの距離ですが、散歩を日常に組み込んでやっています。
大島稜平さん
大学時代は漕艇部で選手や会計などを担ったという大島さん。写真は選手としてレースに出場したときの1枚。
 また、料理も好きです。ダイエットしていたこともあり、最近は鶏胸肉をいかにおいしく調理するかに凝っていました。パサパサしないように下処理をしたり、片栗粉をつけて加熱してみたり。その結果、以前は仕事後に外食することが多かったのですが、最近は家に帰って作り置いた料理を食べることも多くなり、趣味で料理をすることで、食生活もいい感じに充実しています。
 奨学生に伝えたいのは、当たり前の仕事をコツコツ積み重ねようということです。私も「遠きに行くには必ず邇(ちか)きよりす」をモットーにしています。これは昨年度、僕の初任者指導をしてくださった先生の言葉です。まず当たり前のことをきちんとやる。例えば、テストはその日のうちに採点して次の日に返すとか、少し面倒だけれど、しなければいけないことをきちんと積み重ねていくことで、子どもとの信頼関係も教員同士の関係もできていきます。あまり特別なことをしようと気負わず、当たり前のことをきちんとすることです。「守破離」の守ではないですが、まずは基本から、を大事にするといいのかなと思います。
大島稜平さん
ダイエットを兼ね、最近料理に凝っているという大島さんが作った「鶏胸肉とジャガイモの煮っころがし」。

(2023年4月26日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
「大好き」クリエイター。
(自分の「大好きになる」力を梃に、子どもが「大好き・夢中」になるモノ・コト・時間を創造し、骨太の成長へと導く)
 「お父さんがテニスに夢中で、毎夜雨でも素振りを続けていたら、息子もテニスをするようになりました。体も丈夫になり、今もテニスを続けています。」という話をテニス仲間の奥さんから聞いたことがある。いくら御託を並べて運動することの意義を唱えても全く伝わらないのに、親の「大好き」「夢中」な姿が伝染して子どもは成長していくものである。
 一方、多彩な趣味を持ちそれぞれが人に誇れる域に達している人に、なぜそんなにたくさんのことをできるのかを質問すると、答えは「好きだから」「時間を忘れられるから」「時の流れが心地よい」というものが多い。大島さんは、多忙な今は流石に剣道、ボートは休んでいるが、教員の傍ら、絵にデザイン、造作、WEB制作、料理もふくめて多彩なクリエイティブに打ち込んでいる。
 大島さんが凄いのは、彼自身が「大好き」になって授業や指導をすることに加えて、前述の創造力を授業や愛して止まない子どもとのコミュニケーションひとつひとつに発揮することで、子どもを「授業」も「友だち」も大好きにさせてしまうところだ。これぞ太くて長い成長の素。
 子どもの「大好き」をクリエイトする多才な教師。今後もそうあり続けて欲しい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
皆さんは沢山の趣味をもっている方が多いですね。
いつも感心しております。
そんな皆さんの趣味が授業づくりや子ども・生徒との
関係づくりに役に立ったという方は意外に多いのではないかと思います。
よろしければそんな例をお持ちの方書いて送ってください。
宜しくお願いいたします。
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学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
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