土屋有美華さん
2023/07/14 UPDATE
土屋有美華さん
1期生(2021年卒)
明治大学出身
千葉県公立高校(1年担任)

生徒の家庭環境や内面を理解して
力になれたら、嬉しいです。
 土屋有美華さんは、千葉県の公立高校に就職して2年目。初めてクラス担任を経験し、責任も大きい反面、より深く生徒と関われることにやりがいを感じている様子です。高校生という難しい年頃の生徒の指導に悩むこともあるようですが、常にどうすれば子どものためになるかを考え、真面目に丁寧に向き合っています。
- お元気そうですね。就職後のことを教えてください。
 2021年4月に千葉県公立高校の国語科教員として採用になり、現在2年目です。21年度は1年生の副担任、22年度は1年生の担任をしています。部活動はバドミントン部の顧問を務めています。
 学校の規模は1学年あたり4~5学級で、生徒数500名弱、教職員は50名程度です。学力に課題を抱えている生徒が多く、学び直しを大切にしているところが特徴です。1年生の英語であればそれこそアルファベットから、私が担当する国語の漢字テストも、小学生レベルの漢字から学んでいます。少人数や進度別の授業も多く、1年生では座学はクラスを半分にした授業ですし、2年生も英語と数学の授業は半分の人数で行っています。卒業後の進路としては、進学と就職が半々くらいです。
 生徒にはさまざまなタイプがいます。もともと中学校で勉強についていけなかった子も少なくありませんが、基礎からしっかり学んで、わからなかったところがわかるようになることで勉強のモチベーションが上がり、点数をとれるようになる子もいます。一方で、学習面でやはり課題があって、なかなかうまくいかない生徒もいます。
 でも、基本的には素直な生徒ばかりです。頑張るときにはすごく頑張る子たちなので、勉強や学校生活に意欲がある子はそれをどう伸ばすか、やる気をもてずにいる子なら、どうやってやる気を持たせるか、と考えています。
- 生徒との関係づくりで、意識していることは?
 高校では、担任でもクラスの生徒と関わりをもつ時間は意外に限られています。だから授業は、週に何回か必ず生徒と関わることができる貴重な時間です。もちろん内容は授業の話がメインになりますが、20人弱の少人数授業でもあるので、なるべく生徒全員を当てたり、全員を参加させたりするように工夫しています。
 授業外では、掃除の時間や放課後などに「今日の授業どうだった?」とか「放課後は何をするの?」と、何気ないことを話すようにしています。こちらが聞いてもいないのに、自分の恋愛について報告してくれるような生徒もいて、面白いなと思っています(笑)。元気で自分から積極的に話してくれる子もいれば、控えめな子もいるので、基本的には生徒一人ひとりの様子を見ながら、関わり方を変えています。
 クラスのなかには特に様子が気になるというか、なかなか友人関係を広げられない生徒もいます。そういう生徒が朝早く登校していたら「朝、早いんだね」「部活どうなの?」と声をかけ、自分からタイミングを見つけて関わりを増やしています。
 それと、年に数回行う個人面談の前には、生徒全員にワークシートを書いてもらっています。日頃から一人ひとりとそんなにたくさん話せるわけではないので、学期の節目などに、何が楽しかったか、何が不安か、何を頑張ったか、そういうことをワークシートに書いてもらい、それを面談に生かすようにしています。3学期になった今は、生徒の家庭環境などもわかるようになり、その子自身のことを理解して声のかけ方も配慮できるようになってきたかな、と感じています。(この記事は2023年2月に取材)
土屋有美華さん
学期ごとに個人面談前にはワークシートに記入してもらうそう。「生徒の考えを知る貴重な資料です」(土屋さん)
- 保護者や、職場の先生方との関係はどうですか?
 保護者に対しては、日頃から電話で報告をしたり家庭の様子を伺ったりして、丁寧な対応を心がけています。例えば遅刻・欠席で、連絡がないのに生徒が登校していないときに電話をするのは当然ですが、そのほかにも成績面等で心配なことがあれば、家庭に電話をして保護者とお話したり、面談をしたいと伝えたりしています。
 こちらからの連絡に対し、ほとんどの保護者はしっかり対応してくださいますが、やっぱり仕事がお忙しい方では電話がつながりにくいときもあります。その日に電話がつながらなくても、つながるまで根気強く電話をかけています。それは去年の担任の先生を見ていて「ああ、こういうことでも電話をするんだ」「電話は面倒くさがらずにかけた方がいいんだ」と学んだからでもあります。何かが起きてから「何も知らなかった」「そのときに言っておいてくれれば」となるほうが後で大変なので、電話や面談などで保護者に知ってもらう、理解しておいてもらうことが大事です。
 特に学校に登校できていない生徒の保護者には、定期的に面談に来ていただいています。不登校の子の保護者は担任と話をするだけでも安心感につながり、気持ちもプラスになるようなので、そこは大切にやっています。
 職員間では、私自身がまだ経験が浅いので、わからないことはどんどん他の先生方に聞いて解決しています。勤務校の職員室は学年室になっていて、学年の教員同士の関わりが密ですね。話題は同じ教科の先生なら、授業の進め方を聞いて足並みを揃えたり、「こういうふうに少人数から進めていこうと思うんですけど、いいですか」と自分のやり方を確認したりします。あとは「今日はこの生徒がこうだった」と、生徒についての情報がいつも自然に飛び交っている感じです。
 当たり前のことですが、感謝や謝罪の気持ちを素直に伝えるようにしています。ちょっと恥ずかしいのですが、先日、近隣の学校に見学に行ったときに、履いていた上履きを学校に忘れてしまい、私は車通勤ではないので取りに戻るのも難しく、しかたなく「学校に忘れちゃったんです」と話したら、先輩が「本当に話題を提供してくれる人だよねー」とめちゃくちゃ笑ってくれて(笑)しかも、上履きを忘れた学校まで車で送ってくれました。そういう周りの先生方の優しさに助けられています。私自身も、いろいろな世代の方とお話するのが好きなので、職場の先生方との飲み会や食事会にも積極的に参加しています。
- やりがいを感じるのは、どのようなとき?
 やりがいを感じるのは、授業で生徒が楽しそうにしていたり、「わかった」という反応があったときです。提出物や行事、テストの点数、部活動などで、生徒の成長を見ることができたときも、とても嬉しいですね。先日も、最初の頃は提出物の遅れは当たり前で、ひどいときは出さなかったような生徒が、朝一番に私のところに来て「先生すみません!今日漢字のプリントの提出日ですけど、家に忘れてきちゃいました。新しいプリントください。今日やります!」と言ってきて、「じゃ、あげるよ」とプリントを渡しながら、「ああ、そういうことが言えるようになったんだな」と、成長を感じて嬉しくなりました。
 あとは相談に乗るなどして、生徒の力になれたときもよかったなと感じます。例えば、クラスにすごく遅刻の多い子がいました。遅刻の理由について聞くと、その生徒本人の怠惰な部分もあるんですが、家庭できょうだいのお世話をしないといけない日もあるということでした。その事情を理解したうえで「でも、自分が寝坊して遅刻するのは違うよね」ときちんと話をして指導したことで、その生徒は遅刻の数が減り、学校生活も前向きに送れるようになってきた気がします。
 それから、詳しくは言えませんが、映像授業でとある映像を見たときに、ちょっと様子がおかしい子がいました。その生徒に後で個別に声をかけると、実は小さいときからその映像に関することで家庭生活の悩みを抱えていたことがわかりました。その子は「友達には悩みを打ち明けたことがあるけれど、大人には今まで話したことがなかった」と話していました。私がたまたま気づいて、その生徒が抱えている状況がわかり、学校として対応することができたので、それは生徒の力になれたのかなと思った出来事です。
- 苦労している問題、悩みはありますか?
 生徒との距離感や指導の調整に悩むことはあります。生徒によって性格も事情もそれぞれですし、担任として関わっていくなかでは、ときにはかなり厳しく言わなければいけない場面もあります。それがきっかけかどうかはわからないですが、なかには「もしかしたら、私のことをよく思っていないのかな」と感じる生徒もいるので、そういう場合の指導のしかたや関わり方は、迷いながら、試しながらやっているという感じです。
 それから数は少ないですが、外国にルーツがあり、日本語が苦手な生徒もいます。多分授業を聞いていても理解できていないと思いますし、「そういう生徒に何を学ばせたらいいんだろう」「どうしたら少しでも理解できるのかな」というのが悩みです。
 また不登校など、配慮が必要な生徒の対応についても難しさはあります。不登校の生徒のほかにも場面緘黙の生徒もいて、その生徒とコミュニケーションを取るために、面談は筆談で対応することもあります。筆談だから最小限のやり取りというのではなく、言葉での会話と同じようにコミュニケーションを深めようと意識していますが、私と筆談ができても友人作りとなるとまだハードルが高く、「担任としてどういうサポートができるのか」と考えています。
- 今後に取り組みたいことは?
 やっぱり授業を磨くことです。生徒に興味を持たせる工夫や、よりわかりやすい授業をしていきたいです。私自身は、国語の授業で扱う文学作品に対する知識や引き出しはやっぱりまだまだだなと思う部分もありますし、逆に生徒にわかって欲しくて授業のスピードが遅くなりがちで、もうちょっとテンポ良くできたらいいなと思う部分もあります。勤務校でも年に1回、授業錬磨という研修もありますし、自主的に見学行くなどして、いろいろな面で授業を磨きたいなと思います。
 あとはICTの使い方も、もう少し工夫できればと考えています。今は動画や画像を見せる、調べものをする、といったことでは取り入れる場合もありますが、もっとICTを活用できたら授業の幅が広がると思います。
 クラス運営にも力を入れたいです。例えば、今のクラスで毎日当番の生徒に学級日誌を書いてもらっていますが、その日の感想の記入で「これは漢字で書けるだろう」という文字をひらがなで書いたり、誤字脱字が多かったりする生徒がいます。担任1年目の今年度は、そういう細かい部分をうまく指導しきれていませんでしたが、次年度は学んでほしいルールや約束を最初から示していくと、もうちょっとメリハリの利いたクラス運営ができるのかなと思います。それと生徒に対して「ちょっと急に怒りすぎたな」と反省するときもあったので、指導の仕方もどう工夫できるか、試行錯誤していきたいです。
 そして、今の私は先輩の先生方にたくさん助けられているので、今後も経験を積んで、自分も周りの先生に貢献できる存在になれるように成長したいです。
土屋有美華さん
クラスの当番の生徒が記入する学級日誌。「日番感想」は、書く力を少しでもつけるため4行書くのがルール。
土屋有美華さん
生徒の感想に、土屋さんも4行でコメント。「次年度は『漢字で書ける字は漢字で書く』もルールに加えたいです」
- 気分転換のしかたと、奨学生・OBOGへのメッセ―ジをお願いします。
 気分転換はおいしいものを食べること。土曜の部活終わりは、おなかがぺこぺこになるので「今日は何を食べようかな」と朝から考えて、頑張ったりしています。あとはたまにですが職場の人と飲み会に行って、美味しいものを食べて楽しむこともあります。食べるものはパスタとかラーメンとか、中華などが多いですね。
 それと旅行も好きです。長期休業のときは友人と九州の大分や福岡に旅行に行きました。ほかに、目覚ましのアラームをかけないでのんびり寝る日もありますし、まだ車の運転がそれほど上手ではないので運転の練習を兼ねて、車で出かけることもあります。
 奨学生に伝えたいのは、奨学生としての機会を大切にしてほしいということです。講座で学ぶことや仲間との出会いは自分の視野を広げてくれますし、刺激になります。周りに同じように頑張っている存在がいると実感できるのは本当に心強いと思います。
 OBOGには、学級運営で工夫していること、授業の中身を充実させるためにどんな手段を使って教材研究をしているか、などを聞きたいです。
 以前に、財団のOBOGに向けた講座で学んだことも役立っています。対話型授業の講習で、グループワーク等の前にアイスブレイクをするといいと聞き、その後にちょうど勤務校で「ビブリオバトル」という班ごとに分かれて本を紹介し合う行事があったので、講座で学んだことを実践してみました。アイスブレイクで何点かお題を出して、それを話させてから本番に移ったらすごく雰囲気が良くなり、内容も充実して、見学に来ていた他学年の先生からも「とても良かったよ」と言ってもらえました。本当にありがたかったなと思います。今後も教員の学びや刺激になる機会をいただけたら嬉しいです。オンラインもいいですが、対面の行事もぜひ引き続き行ってほしいです。
土屋有美華さん
(上)先生方との女子会での料理。「食べるのが好きでひとりご飯も行きますが、同僚や友人との食事会も嬉しい時間」(下)冬休みには友人と九州旅行に。「仕事も頑張りつつ、リフレッシュの楽しみも大切にしたいです」

(2023年2月17日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
ひらたく、ていねいに、人を動かす
(ひとりひとりを見守り、程よい心の距離感で、それぞれの気持ちに沿って、平たい言葉を組み合わせて語りかける。そのことを丁寧に繰り返す。)
 「ひらがな思考術」という本がある。難しい言葉で難しいことを語るのではなく「ひらがなでだれにでもわかりやすくつたえること」によって本質が見えてくるという学びが書かれているのだが、土屋さんはこの教えが当てはまるのだと思う。
 弁舌爽やかに語る人、気持ちが入った熱い人が普通より多いと思われる奨学生・OBOGのワークショップ。様々な言葉が闊達に飛び交う中、土屋さんは余計な漢字を使わず、平たい言葉づかいで要点を伝える。それがとてもわかりやすくて心地よいのだ。
 取材を通じて、やはり土屋さんの説明はわかりやすかった。美辞麗句は勿論のこと修飾語も少なく、丁寧に自分の生徒に対する思いと数々の取り組みを語る。
 そう、生徒や保護者それぞれに、丁寧に根気強く対応し続けられるのがもうひとつの土屋さんの力なのだ。そしてその根底にはもちろん、生徒ひとりひとりと向き合い、思いや考えをわかり、その子を活かそうという溢れんばかりの熱意がある。熱意が卓越した人を見抜く力をもたらし、それぞれの生徒に関する深い理解につなげている。ただし、そのときその人に必要な言葉を、適度な温度と距離感をもって提供するのが土屋さんの真骨頂。熱気は表にはあまり登場しない。
 もしかしたらこの人は、これからの“多様性を活かす時代”、人材たちの奥に位置し、ひらたさと丁寧さで個性を引き出し、人材それぞれの力を存分に発揮させる“扇の要”タイプのリーダーになって行くのではないかと期待してしまう。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
ひらがなで思考してわかりやすく伝えることは
正確にものごとの本質をわかることにつながるとともに
例えば外国人に日本語で伝えたり、日本語を教えたりする技術
につながる力だと思います。
皆さんのなかで「ひらがな思考」を実践している方がいましたら
その活用法や効果を送ってください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
皆さんから寄せられた感想とメッセージ
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