塩田要子さん
2022/08/17 UPDATE
塩田要子さん
1期生(2020年卒)
埼玉大学出身
さいたま市立公立小学校(3年担任)
目の前にいる児童一人ひとりを、
大切にしていきたいです
 塩田要子さんは、埼玉県内の大規模小学校に勤務して3年目を迎えています。大らかで包容力を感じる人柄を買われてか、今年は校務分掌でも責任のある役割を担い、ますます忙しさに拍車がかかっている様子。多忙な教員生活や、その中でも子どもたちと向き合うために心を配っていることなどを教えてもらいました。
- お元気そうですね。教員になっての近況を教えてください。
 2020年4月から、さいたま市の公立小学校に勤務しています。現在は3年生の担任をしています。初任時に2年生、昨年度はもち上がりで3年生を担任し、今年も昨年に続いて3年生になりました。初任校での勤務は5年間なので、小学校の中でも難しい学年といわれる1年生や6年生を担当してみたい気持ちもありますが、3年生は昨年経験して1年の流れがわかっているので、見通しがもてるのは助かります。
 教科としては、音楽とGS(グローバル・スタディ)と書写以外をもっています。GSはさいたま市独自の英語教育で、1年生から英語に触れるということで、1、2年生は隔週に1回、3、4年生は週に1回、5、6年生からは週に2回ぐらい英語の授業があります。英語の授業はALTの先生ともう1人日本人の先生が入る必要があり、教員数が充実していれば専科の先生にもっていただけるのですが、今年は1学期の終わりにGS担当の先生がお休みをとられることがわかっていて、2学期からは私も授業に入る予定です。
 勤務している学校は、児童が約1000人、1学年が平均5クラスという大規模校です。昨年が創立50周年でしたが、都心から近く工場もたくさんある地域で、児童数は今くらいの規模が続いているようです。
 就職した年からコロナ禍でしたが、教員も約60人と人数が多いので、分担できるところは多かったかなと思います。ただ集会や行事などで「みんなで一緒に」というのはなかなか経験できていません。全校朝会も、体育館に移動しなくても教室で座っていればテレビ放送が始まるので、教員としてはラクをさせてもらっている面も(笑)。でも、子どもたちは集会で立って話を聞くとか、厳かな雰囲気といったものは味わったことがないので、コロナが収束したら、初めてのことをいろいろと経験することになりそうです。
- まわりの先生方や、保護者の雰囲気は?
 先生方にはすれ違ったときは必ず挨拶をして、何か困ったことがあったり聞きたかったりしたときに話しかけやすい雰囲気づくりをしています。特に今の同学年の先生方と以前同学年だった先生方、あと前年度に今の学年を担任していた先生方には「去年どうでしたか」と質問したり、愚痴を聞いていただいたり、「去年もこうだったよ」と話を聞かせていただいたりしています。
 担任クラスの保護者には、日頃からこまめに連絡することを心がけています。子どもの様子が落ち着かないなと思ったときや、私自身どうしていいかわからないときに、「有効な手立てがありますか」と相談するようなかたちでお電話しています。
 児童のトラブルは基本的には学校で指導・解決してから帰宅させるので、「学校ではこういう話をしたので家では叱ったりしないで大丈夫ですが、わかっていていただけたら」と話します。大きなトラブルやけがのほか、お休みした家庭にもこまめに連絡します。
 時折「うちの子はもっと叱ってやって大丈夫です」とおっしゃる親御さんもいるので、「じゃ、お言葉に甘えて」と返すことも。クラスの指導では、けっこう大きな声で怒ることもあります。私は中学時代に演劇部だったので、大きな声を出すのは得意なので(笑)。
- クラスをまとめるのに、意識することは?
 3年生ぐらいだと、クラスで話を聞くときになかなか静かにならない、準備をしてほしいときに準備が進まないというお子さんもいます。そういうときに「あー、○○さんはもう終わっているね」「○○さんはいい姿勢だね」と言うと、3年生くらいだとほめられたくてみんなが真似をします。そういうところはまだまだ可愛いです(笑)。
 実は初任時にもったクラスで、「ほら!遅いよ!○○さん!」など名指しで伝えていたことがあります。それだと注意をしても次は別の子がうるさくするなど、モグラ叩き状態になってしまって……。「ええ!○○さんもう支度が終わったの!? すごいねえ」と伝えると、どうすればほめられるのか、次は自分がほめられるかもと耳をすませる子が増え、うまくいくようになりました。なるべく子どもたちのいいところを見つけて、引っ張っていけるといいなと思っています。
 人をまとめるということでは、私は学生時代にゼミ長など、人をまとめる役割を経験させてもらったことが何度かあります。そのときは言葉の使い方を意識していました。たまたま自分がまとめる立場を任せてもらっていても、みんなに協力してもらわないと何事も進まないので、「みんなが気持ちよく動けるためにはどんな言い方がいいかな」とよく考えていた気がします。
 ただし教員になると、教員と児童では立場が大きく違います。こちらが何かを言うと、子どもは「先生の言うことだから正しいんだろう」という受け取り方になっている気がします。でも、子どもたちに「先生に言われたからやる」ではなく、理由が伝わって「自分たちが今からやる行動は、○○のためにやっているんだ」と理解して動いてもらえるようにと意識しています。また、それぞれの子どもへの個別対応の積み重ねが、クラスの雰囲気作りにもつながるとも思っています。
塩田要子さん
3年生の社会の授業風景。スーパーマーケットにある品物の産地を調べて発表するという学習で「発言したい子が多かったので、みんなに立ってもらい、順番に発言してもらいました」(塩田さん)
- 子どもへの個別対応で心がけていることは?
 個別対応では、「子どもの話を聞く」ことを意識しています。今のクラスは子どもが33人で、教員は1人しかいないので、ゆっくり話を聞く時間もなかなかとれないのですが、その分毎朝の連絡帳提出は指定の箱ではなく、私の机に直接出してもらうようにしています。そこで「おはよう」の挨拶をすることで、一人ひとりを正面から見ることができ、変化に気づけたり、声をかけたりできるのはいい点かなと思います。
 体調不良の訴えが多い子や、身だしなみの整っていない子は特に気にかけるようにしています。また、前年度の担任からの申し送り事項をよく読んで、大人にかまってほしくてたくさんの訴えをしてくるタイプなのか、表に出さないタイプなのかなど、子どもの個性を考えて対応しています。
 また「○○くんがこれをしてくれない」と、他の子のできていないことを報告しにくる子も多いです。そういうときはよく話を聞いて「どうしたいの?」と尋ねます。誰かに話を聞いてもらうだけで満足な子もいれば、どうしてやらないのか理由を聞きたい、自分が代わりにやったから謝ってほしいなど、要望もさまざまです。私が対象の子を叱ればそれで終わりますが、子どもが心のモヤモヤを解決できるように、と思って動いています。
 悪いことや気になる行動をした児童にも、まず「どうして?」と理由を聞きます。理由があって、やりたくないのにやっていた場合、頭ごなしに叱られると理不尽な記憶として残ると思うからです。逆にいい報告や楽しかったことを伝えにきた子には詳しいことを聞く前に、「よかったね」「がんばったね」と肯定的な言葉をかけています。こうすることで、子どもたちが「塩田先生は話を聞いてくれる」と思って、少しでも信頼関係の構築につながるといいなあと思っています。
- 教員としてやりがいを感じるのは、どのようなとき?
 みんなで頑張ってきたことに対して「楽しかったね」などと声をかけたとき、「はい!」とそろった返事が聞けたときや、日々の授業で「ああそういうことか!」が聞けたときに、やりがいを感じます。
 最近でいえば、5月末に行った運動会があります。3年生はみんなで花笠音頭を踊りました。最初は大丈夫かなという感じでしたが、最後はみんな花笠が揃ってすごくきれいに踊っていて、「先生から見て120点でした。皆さん楽しかったですか?」と聞いたときに、みんなニコニコで「はい!」と返事が返ってきて、よかったなあと思いました。
 授業では、ちょうど今日国語の説明文で「説明文には、必ず二つの文章が入っているんだよ」という話をしました。塾などで学習している子が「『問い』と『答え』の二つです」と答えましたが、クラスには「『問い』ってなに?」みたいな顔をしている子がたくさんいたので、私が「問いは、みんなどこかで見たことがあるんじゃない?」と言ったら、「あ、問題の問だ」と。「そうだよ、そういう問題がこの文のどこかに入っているよ」と伝えると、「あったー!」と見つけてくれた子がたくさんいて、その嬉しそうなリアクションを見て私も嬉しくなりました。
塩田要子さん
プレハブにある低学年用図書室。装飾なども楽しく親しみやすい雰囲気で、塩田さんの好きな場所の一つ。
- それでは、苦労していることは?
 今は時間が足りないことが一番の悩みです。校務分掌で、今年は特別活動部の主任として動かせてもらっていますが、自分のクラスのことと学校全体のことと両立するのに慣れず、いっぱいいっぱいになってしまっています。
 特別活動部では、児童会活動や委員会、クラブなどのほか、1年生を迎える会といった縦割り活動を行います。最近はコロナも落ち着いてきてできることが増えてきたので、これまでは他校とリモートでのやり取りで終わっていたものが、実際に会いに行くようになると動く人数も増え、それだけ下準備も必要になります。
 昨年度も特活部として活動していたのですが、昨年度主任だった先生が今年は異動され、「主任はこんなにも大変なのか!」と実感しているところです(笑)。クラスであれば1学期ぐらいを見通せればなんとかなりますが、特活部は年間を通して見通していかないとできないです。そちらに時間をとられ、授業準備に十分に手が回らないのが気になります。
 またICTの活用をしたい反面、なかなか進められない面もあります。現在は、一人に1台のタブレットがあります。学校で使うほか、児童が欠席してオンラインを行う場合は家に端末を持ち帰って使います。充電のアダプタが1台につき一つしかないため、持ち帰る際には学校の保管庫にある充電器を外すことになり、その付け外しの作業が大変です。
 また、タブレットに不具合が出ると修理に出すのですが、代替機の数に限りがあるため、修理に出したまま何もなしになっている子もいます。そうすると、学級全員で使いたいタイミングがあっても、手元にない子がどうするべきかを考えなければならなくなり、それなら使わないほうがいいかな……と活動を考え直すこともあります。
- 今後の課題、これから取り組みたいことは?
 目の前にいる児童一人ひとりを大切にしていきたいです。2年と少しという短い経験の中ですが、本当に一人も同じ子はおらず、向き合えば向き合うほど、子どもも応えてくれると感じています。こちらがわかっていないと、子どもたちにもうまく説明できなかったりしますし、子どもに頑張ってもらうためにはこっちが下準備をしていないといけないので、そこはしっかり向き合っていきたいと考えています。
 それと併せて、自分の時間も大切にしたいなとも思います。今は実家に住んでいるのですが、通勤に1時間20分くらいかかっていて、学校を9時に出ると帰宅が10時半ぐらいになってしまって……。朝も学校に7時には着くように行っているので、学校にいる時間が12時間を超えることがよくあります。今は19時30分~21時頃に退勤していますが、希望をいえば、18時くらいに退勤できたら最高です。
 また、家で自分のことができる時間を作りたいなと思います。 今はご飯、お風呂、少しの娯楽(YouTubeで30分ほど動画を見るなど)を行うと23時を過ぎてしまい、あとは寝るだけになってしまいます。
- 気分転換のしかたや、OBOGに伝えたいことをお願いします。
 平日に疲れすぎたときは人にたくさん話を聞いてもらうこと、とにかく寝ること。これでなんとか立て直しています。寝るときには蒸気の出るホットアイマスクを使うと、気持ちがよくて、よく眠れる気がします。
 休日は、2日あるうち1日はパーッと遊びます。音楽フェスに行くのが好きで、最近やっと行けるようになってきたので、フェスに行ったり、音楽に関しての情報収集をしたりして過ごしています。ゴールデンウィークには「VIVA LA ROCK」に行きました。座って曲を聞くのも癒されますが、体を動かしながら聞くと全身で楽しめておすすめです!
 また、ディズニーに行くのも好きなので、行く予定を立てたり、どんな格好で行くか友達と話したりするのも気分転換になります。
 同じOBOGの先生方には、今まで何年生を担任してきたかや校務分掌、退勤時間など聞いてみたいです。財団の方々には、年に何度か奨学生の皆さんと話す機会を作っていただいていてとても有難いです。これからもそういう場があるといいなと思います。
塩田要子さん
(上)大学時代からの友人と屋内の音楽フェスへ行ったときの1枚。(下)2022年6月に3年ぶりに屋外フェスへ。「とても天気がよく、広々とした環境で聞く音楽と、冷たいかき氷は最高でした!」
(2022年6月7日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
子どもの力をひきだし、合わせる
「ひとりひとりの気持ちに働きかけ、つながりをつくる。みんなを心地よい協力に導く」
 かつて、日本と友好関係にあった大政治家曰く「リーダーとは、進んで個人に歩み寄り、耳を傾け、時に半歩下がって話し合い、時に全体に向けて号令をかけ、ゴールへと導く者だ。」
 塩田さんは、毎日一人一人の子どもの仕草、雰囲気の変化を感じ取り、見たて、声をかける
 その大らかな人柄で子ども一人ひとりを包みこむように気持ちを聞く。この積み重ねによる信頼関係があるから、子どもたちは塩田さんの指導に、喜んで力を合わせる。
 取材を通じ、大人数のクラスを担任しながら、特活部主任をも任されて激務の中にいる塩田さんは、柔和な表情と仕草でひとりひとりの子どものこと、大変なお仕事のことを、優しくお話しをしてくれた。ちっとも大変そうでなく聞こえてしまうそのお話しを聞いて思い出したのは、あの大指導者の言葉だった。
 忙しい中大変だろうけど、今の日常を磨き続けてほしい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
 皆さんは、子どもに「協力して何かを行う」ことを進める機会が沢山あると思います。うまく行ったこと行かなかったこと、その中で皆さんが創意工夫したことどんなことでも結構ですのでお送りください。
塩田さんにも色々質問してみましょう
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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