坂浦颯さん
2022/07/29 UPDATE
坂浦颯さん
1期生(2021年卒)
立命館大教職大学院出身
横浜市立公立中学校(1年担任)
自分自身が壁にぶつかり、
打ちのめされて悩むのも「やりがい」
 OBOG会の運営でも精力的な活動を続けてくれている坂浦颯さん。コロナ前の大学院生時代から私立校の講師を務め、2年前からは横浜市の公立中学に勤務しながら、キャリアを重ねています。いつも穏やかな笑顔をたたえ、落ち着いた雰囲気の坂浦さんですが、教員としての葛藤や迷いも含め、率直に今の心の内を語ってくれました。
- 今日はお忙しいところ有難うございます。近況をお願いします。
 横浜市立中学校の国語科教員になって2年目、大学院時代の講師を含めると教員4年目になります。今年度初担任で、1年生のクラス担任をしています。授業は2年生の国語と特支書写も担当しています。部活動はバドミントン部の顧問です。
 勤務している学校は、1、2年生は1学年が50名前後で2クラス、3年生は90名ほどで3クラスという小規模校で、常勤の教員は管理職を含めて約20名です。地域としては横浜市の臨海部で、校舎も船をイメージして設計されているそうです。
 初めての担任である今のクラスは、すごくにぎやかなクラスです。男子よりも女子がにぎやかですね。ただ真面目なときは真面目にできる子たちが多いので、楽しくやらせてもらっています。
坂浦颯さん
勤務先の校舎内。窓の形もデザインがユニークで、自然光が差し込む構造になっている場所が多いそう。
- 生徒たちとはどのような関係づくりを?
 あんまり上からこうしろああしろとか、「みんなやるぞー、俺についてこい」みたいなタイプの指導がそんなに好きでもなく得意でもないので(笑)、いつも笑顔で、まったりというか穏やかに話すことが多いです。
 意識しているのは、水平な目線で生徒のことを尊重しながら物事を言えるような関係性を作ることです。生徒のよい見本になるというか、自分の弱みも出しながら、頼るところは頭を下げてお願いしたりしています。結構うっかりミスが多いので、忘れたものを取りに来てもらったり、部活も自分は未経験なので、クラブチームに入っていて自分よりうまい生徒にお願いして見本を見せてもらったりとか。ふだんから本当に怒らないので、生徒からも「怒らない先生」と言われています。
 もちろん、生徒の言動でおかしいなと思うときはあるんですが、子どもの今の考えや力としてはそこがスタート、現状なので、こちら側が高いところに上って「間違っている、こうすべき」と言うのではなく、その生徒の目線に立って、同じ目線で寄り添って指導しようと思っています。 大学4年生のときの教育実習では、集会で整列できていない生徒に率先して注意しに行ったりしていたんですが、大学院で臨床教育コースへ行き、そこで生徒に対する考え方やカウンセリングマインドを学んで、考え方や指導が大きく変わったという感じです。積極的傾聴とか、ロジャースの3原則(共感的理解、無条件の肯定的関心、自己一致)とか、いまだに見直すことがあります。
坂浦颯さん
担任の学級の旗&スローガン。「クラスの皆で先生を支えようという思いが込められています」(坂浦さん)
- 保護者に対しては、どう接している?
 保護者に対しては、こまめに連絡することを心がけています。うちの学校はけんかのようなトラブルもあまりないですが、ケガや体調不良時はもちろん、生徒が失敗をした時に、「学校でこういうことがあって、先生にこう言われた」と、生徒の目線でいきなり伝わると保護者にも不信感が募ることがあると思うので、こういうことがありましたという事実の報告と、「お子さんのことを心配している、一緒に見守っていきましょう」という思いを理解していただくよう、「力を貸して下さい」「一緒に考えていきましょう」と先手先手で電話を入れるようにしています。こうした対応は校長の方針でもあって、学校全体でこのような対応をしています。
 ただ、僕はそんなに口の立つほうではないので、電話をするときは今も毎回緊張します。たまに焦って、てんぱってしまい「ちょっと待ってください」となることも(笑)。電話口で保護者から予想外の質問があったときとか、滝のように汗を流しながら話しています。保護者に対して言葉を選ばないと、というのもありますし、焦っちゃうことは多いですね。前に留守番電話に伝言を入れるときも話す内容を間違えて、「あ、すみません、間違っています」と訂正まで録音に入れたこともあります。
- 職員間はどうですか? 初任者研修などでの交流は?
 職員間でいうと、クラス担任のほとんどが20代という若い学校なので、質問もしやすく、いろいろなことをバンバン聞いています。話すのは、生徒の情報共有が多いですかね。こういうことがあったとか、授業であったエピソードとか。
 初任者研修は、横浜は校内方式と拠点校方式という2つがあって、うちは拠点校方式だったので拠点校で研修を受けました。ほかに初任者が市の教育委員会の研修施設に集まって研修を受けるのもあります。プラスして、校内で研究授業をやったり、人権や防災の話をそれぞれの担当の先生から聞いたりする校内研修がありました。
 でも、昨年はコロナ禍で初任者が研修施設に集まっての対面研修がほとんどできませんでした。初回だけ対面で、あとは全部Zoomになってしまいました。採用同期とも、プライベートで遊ぼうとか、飯に行こうとはならなかったです。
 残念ながら初任者研修はもうないですが、横浜市は特殊で2年次研、3年次研という研修があります。2年目の自分も、今年も2回研究授業をして、それプラス2、3回くらいは教育委員会の研修施設に集まっての研修がある予定です。そこで自分のやっている授業の話や生徒指導の話をして交流する機会がありそうなので楽しみです。
- コロナ禍の話でいうと、ICTの取り組みは?
 僕が採用された昨年から、横浜市の中学校も一人1台端末が導入されています。Chrome bookを一人1台貸与されているので、分散登校のときに半分くらいの生徒がオンラインで参加するというのもありましたし、濃厚接触者になった生徒が2週間登校できないときに、Chrome bookを生徒の自宅に届けて、ネットでつないで授業風景や黒板がわかるようにしたりもしました。
 ICTで苦労する点としては、子どもたちはデジタルネイティブといってもスマホの世代で、意外とキーボード入力が苦手なんです。僕くらいだと中学時代はWindows Vistaとかのパソコンを使っていましたが、今の子はiPhoneとかiPadなので、タブレットやスマホしか使ったことがなく、全角入力・半角入力もわからないとか、フリック入力に慣れていてアルファベット入力ができないとか、そういう操作の面でつまづく子は多いですね。
 ただ生徒にそれほど高度なことは教えないですし、うちの学校は1クラス25人前後と生徒数が少ないので、見渡して十分に指導できる範囲ではあります。
 国語の授業でもICTを活かせているかというと、そこは僕的にはまだまだです。
 各教科でICTをどう活用するかは、教育委員会の研究会のテーマでもよく上がっています。たとえばGoogleのジャムボードに好き・嫌いなどの十字線の座標軸を作って、参加者が自分の考えを座標に当てはめながら貼っていって交流するであるとか。ちょっとした小テストをGoogleフォームで作り、即時フィードバックで採点されて正答率が出た状態で結果が出てくるので、そこで生徒が間違った問題だけを復習する学校があるとか……。
 Googleフォームは僕も何回か作ったことがあります。漢字の書き取りなどはできませんが、選択式で回答できるものはすぐに作って入力できるし、集計もグラフで出るので便利です。国語の授業の情報の取扱いの単元で、「自分たちの町を住み続けたい町にするための方策を考えてデータを集めながら書こう」というのをやったときに、町の満足度の項目をGoogleフォームで作って、生徒に自分たちの満足度をGoogleフォームで投票させ、結果をもとに意見文を書かせる、といったことは僕も経験しました。
坂浦颯さん
学活風景。クラスは25人前後と比較的小規模なため、生徒一人ひとりの様子に目を配れます。
- 昨年の学習指導要領改訂で、成績評価も変わりました。
 国語は、成績評価が5観点から3観点に変わり、評価も大きく変わりました。評価に関してよく現場で言われるのは「主体的に取り組む態度」をどう数値化して成績をつけるのか、それが難しいと。どの教科のどこでも出る話です。
 うちの学校の国語科では、単元の初めに、授業の進め方から内容、授業内課題や評価規準までを明記した学習プランが書かれた用紙を生徒に配ります。そしてその単元の最後に学習プランの用紙の裏に、その単元で生徒自身がどのように授業に臨んで何を身に付けたか、それを今後どのような場面で活かすのかなどを振り返らせる、ミニ作文みたいなものを書いてもらい、その記述を評価に活用しています。
 ただ結局、文章で表現できる子じゃないとよい評価はつかないというのはあります。主体的に取り組んでいるけれど、それを文章で表現できない子の場合、評価は難しいなと思います。文章だけでなく、何か選択式で振り返れるようにするとか、その単元で考えたことを簡単にアウトプットできるような働きかけもあってもいいのかもしれません。
- 教員としてのやりがいを感じるときは?
 教員のやりがいというと「子どもの成長を感じられたとき」と答える人が多いかもしれませんが、僕はどちらかというと、自分自身が壁にぶつかって打ちのめされながらも、うんうんと考え込んでいる瞬間にやりがいを感じます。
 悩んでいるときのほうが、どう乗り越えようかと奮い立つというか、自分のこれまでの価値観や考え方ではうまくいかず、人と話をしたり、試行錯誤をしたりしながら乗り切っていくようなときが、やりがいというか、「やってるな」という気持ちになります。弁証法ではないですが、アンチテーゼがあるから変容や成長があるというか。アンチテーゼにバーンと当たったときは苦しいんですけど、そこを乗り越えたときに成長を感じます。
 僕は高校時代に部活で弓道をやっていて、弓道は基礎を突き詰めていくスポーツなので、そういう試行錯誤を楽しむ感覚はあったかもしれないです。もちろん、うまくいかないことがあればがっかり落ち込むんですけど、でも「なるようしかならない」とも思っているので、なるようにしかならない中で、もがこうと思っています。
 ただ実は今、部活動の指導で本当に苦労をしているところです。昨年度は競技経験者の先生が顧問をされていて、僕はついているだけでよかったのですが、今年は諸事情によってその先生が来られなくなり、僕がメインで顧問をしています。
 でも自分は競技経験もなく、できないことはできないと言ってしまうタイプなので、生徒たちがあまり言うことを聞かなくなり、生徒間で温度差ができてしまいました。それで嫌な思いをしている部員もいるので、先日の練習前に、自分の気持ちを真摯に伝えようと手紙を書いて部員の前で読んだのですが、逆に混乱が大きくなってしまって。
 周りの先生方がすごく心配して生徒に聞き取りをしてくださったり、部活動中にほかの部活の先生もわざわざ顔を出してくれたり、ご飯に誘ってくれたりしました。この件でいろいろな先生が助けの手を差し伸べてくださって、いい学校で有難いなとも感じました。
坂浦颯さん
教員として直面した困りごとや悩みを語りつつ、そんな状況もどこか楽しんでいるかのような坂浦さん。
- これからの課題、取り組んでいきたいことは?
 今一番悩んでいるのが教員像、教師としての在り方です。今の自分のキャラを変えていくべきなのかどうか……。
 今回の部活動の一件で、周囲の先生から「生徒に対して自分から壁を作っているのでは」というような指摘も受けました。僕は生徒にもこういう話し方をするし、あまり近くまで踏み込むような距離の詰め方をしないので、もっと関わりのうまい先生を見て真似をするとか、自分から子どもの心をつかみに行くとか、せっかく若手なんだから、なんかもっといい関わり方があるんじゃないかと。
 僕自身はいろんな距離感の先生がいていいし、僕くらいの距離感が落ち着くという生徒もいるんじゃないかなと思っていたんですが、周りから見るとコミュニケーションのとり方が弱点と思われてしまう。授業は結構なごんでやっていますし、「固い」とか「真面目」と言われるのは話し方だけじゃないかなとも思うんですが、反面、親しい人の結婚式に呼ばれなかったりすると、確かに自分の人生、人とそんなに深く関わっていないのかも、と思ったり(笑)。今はそこでちょうど揺れているところです。教員としてどうあるべきかは自分の心の中で持ち続けるテーマとして、もがきながら、楽しみながらやっていきたいなと思っています。
 休日は音楽を聞いたり、部屋を暗くして過ごしたり、お酒を飲んだりという感じです。知らない町をぶらぶら歩いたりするのも好きです。あと家族や職場以外の人と話をするのも、いい気分転換になります。有難いことに、奨学生OBOGにも相談できる人がいっぱいいるので、いろいろと話を聞きたいですね。久しく対面できていないので、またみんなと会って交流ができたら嬉しいです。

(2022年6月9日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
感受性は輝く
「自分をとりまくあらゆる存在から、たえず何かを感じ取り、考えもがいて成長する」
 若いころ、「名営業と言われ偉くなる人は、かつて人前臆して、たどたどしくなる若者であった場合が多い。私もそうだった」という財界の重鎮の語った一節に励まされた。
 なぜ臆して訥弁になるのか、それは交渉相手と相対するとき、言葉の背後にある相手の思いや感情を感じ取り、会社組織の利害や上司の考えと気持ちを思い起こし、さらには自分の強い意思の存在を意識し、全部同時に満足させようとするからなのだろう。
 しかし、相手としては苛立たしく思ったにせよ、誠意や熱意をそこに感じるはずである。その冷や冷やどきどきの場数を踏んでいるうちに、ある日、熱意に満ちながらわかりやすく、隅々まで配慮が利いた、相手にとって嬉しいコミュニケーションをとれるようになるのだと思う。
 坂浦さんの取材の中では、彼が一杯いっぱいになって汗をかきながらも、笑顔と寄り添い・向き合いの態度を崩すまいとして言葉を丁寧に重ねる姿が何か所も登場する。凄いのは彼がその試行錯誤の中に、成長する喜びをも感じ取っていることだ。
 感受性は輝く。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
 皆さんが教えている子どもさんや児童のなかには「話すときびくびくしている」「はっきりしゃべれない」といった存在がいると思います。そういうとき皆さんは、その子がどうしてそんな態度になっていると感じますか?そしてどのような対応をされますか?どんなことでも結構ですのでお送りください。
坂浦さんにも色々質問してみましょう
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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