西倉彩さん
2022/07/14 UPDATE
西倉彩さん
1期生(2020年卒)
佛教大学出身
京都府立特別支援学校(中学部担任)
子どもが社会に出るときを見据え、
日々の指導を考えています
 卒業後の2年間は講師として働き、今春から教員として特別支援学校で勤務を始めたという西倉彩さん。働きながら教員採用試験にトライしてきた苦労話も含め、終始、穏やかな笑顔でインタビューに応じてくれました。その言葉からは、障がいをもつ子どもたちを支える教員としての熱い思いが伝わってきます。
- ご協力ありがとうございます。近況から、教えてください。
 就職して最初の2年間は、京都府の特別支援学校の中学部で講師をしていました。今年の4月からは、別の特別支援学校の中学部で教員として働いています。以前の学校は重度心身障がいや医療的ケアを必要とする子どもが対象で、児童・生徒数は300人くらい。今の勤務先は知的障がいの子どもたちが100人ほど通っていて、規模がかなり違いますね。
 現在は、知的障がいがある中学1~3年の生徒6人のクラスをもっていて、私を含めた3人の教員が担任をしています。教科では音楽と美術、国語、数学、体育、それと自立活動、生活単元学習、総合的な学習の時間、特別活動で1週間が成り立っています。国語と数学、自立活動は各担任が生徒2人ずつを受けもち、個別で取り組んでいます。あとの教科の授業は6人で一緒にやっています。
 知的障がいの生徒の指導で難しいところは、私が担当している生徒の1人は空気があまり読めない子で、思ったことをすぐ口に出してしまうところです。別に悪気があって言っているのではなく、ただ見たこと、思ったことをそのまま口にしてしまう。その子に関しては「語彙力を高める」ことを今年1年の目標にしたいなと思っています。
 とはいえ、そんなにすぐに身に着くものではないので、どうやって指導していこうかなと考えています。知的障がいのクラス担任になって初めて授業も経験するので、迷うことも多いです。「子どもにとっては面白くない授業で、やる気をもてなかったらどうしよう。でもここはちょっと力をつけてほしいし……」と調整しながら指導しています。
 あと日常生活面で、14歳、15歳という実年齢のその子への対応と、障がいがあるために勉強が苦手だったり、ひらがなが書けなかったりというギャップが、なかなか難しいなと感じます。
西倉彩さん
勤務している特別支援学校の正門前の風景。周囲は山々に囲まれ、自然豊かな環境です。
- 周りの先生方や、保護者との関係はどうですか?
 私のクラスは中堅の先生が1人と講師1人と私の3人で、教員同士でたくさん話をしています。子どもについて「今日はこんな様子だった」とか「こういうことを言っていたけれど、どう指導したらいいですか」と質問や悩みを相談しています。
 いちばん経験のある先生はすごく理解のある方で「私のやりたいようにやってみたら」と言ってくれるときもありますし、指導で悩んでいる部分は「こういうことをしたらいいよ」と具体的に教えてくださるのでわかりやすく、とても助かっています。前の職場でもそうですが、私はすごく人に恵まれていて有難いなと思っています。
 保護者との関係では、以前の学校は重度心身障がい児クラスだったので、毎日の送迎でも保護者と顔を合わせて話をしていました。今の学校ではそれほど頻繁に保護者と会うことがなく、しかも私はこの地域で初めて教員をするので、どうやっていこうかなと思いましたが、クラスの先生方が保護者と丁寧にやり取りをされるので、私も連絡帳を書き、何かあったときには電話をして、丁寧な対応を心がけてきました。
 今年のゴールデンウィーク明けには、保護者に学校に来ていただいて30分ほど懇談会をしました。私は話すのが得意ではないですが、子どもたちの様子と、私はこういう人ですと伝えることを意識しました。それと、保護者が話をされる方なら、自分が話すよりも「聴く」をメインにするようにしています。懇談会で、一人の保護者が「学校のことは学校に任せるから、いいよ」と言ってくださり、有難いなと感じています。
西倉彩さん
4月に同じクラスの担任の先生方と一緒に記念撮影。「いい先生方に恵まれています」(西倉さん)
- 生徒との関係づくりは、どうしていますか?
 生徒は先生のことを、いい面も悪い面もすごく見ているなと感じています。だから基本的なところで話し方、座り方、立ち方、食べ方などを、いつ生徒に見られてもお手本になるように、生徒に突っ込まれることがないように(笑)と意識しています。ただ、それがすべてだと生徒との間に壁を作ってしまうので、休み時間は「昨日の夜ごはん、何を食べた?」とか、気軽な話題で話したりして、切り替えています。
 あと、私は表情を変えることも意識しています。楽しいときはものすごく笑顔で、先生の話を聞いていないときは、ちょっと厳しい顔にするとか。「この先生、怒っているな」「笑っているな」という表情や周りの雰囲気も感じてくれればいいなと思いながら。
 そういえばこの前、印象的なことがありました。私が今年、担当している一人を仮にAちゃんとすると、私はAちゃんに怒ったことがなく、笑顔でずっと接していました。あるとき、他の先生が授業をしている時間にクラスの別の子がふざけた行動をして、私が怒った顔で「ちゃんとしなさい」と止めに入ったんです。その怒ったままの顔でAちゃんと目が合ったときに、Aちゃんが眉間にシワを寄せて「え、先生、なんでそんな顔してるの?」みたいな、見たことのない渋い顔をしていて……。そのことを他の先生にも話したら、「たぶん西倉さんが担当している子だから、西倉さんの変化に一番敏感に気づいて、そういう表情になったんだろうね」ということでした。
- 空気を読めない子もいる中で、あえて表情を変えている?
 そうですね。発達障がいや精神遅滞のある子どもはへんなところ、笑うところではないところで、笑ってしまうことがあります。そういうときは「いや、別にそれは面白いことじゃない」という表情というか、今はマスクで表情が見えにくいですが、目は笑わないようにしています。あとうちのクラスではそんなにないですが、たまに人が失敗しているのを見て子どもたちが「あー、○○ちゃん失敗した」と笑っているときは、「いや、人の失敗では笑わないから」と表情や態度で伝えます。
 それは、やっぱり社会に出て困ってほしくないと思うからです。私は特別支援を専攻に選んだときに「社会に出て、その人らしく暮らす」というのを一番に掲げてやっていきたいなと思ったので、少しでも周りの人とうまくやってほしいなと思っています。
 先ほど話をした空気の読めない子も、身近な人の気持ちはよくわかるし、勉強も前向きに取り組めるので、これから少しずつ社会性を伸ばしてほしいです。
- 教員として、やりがいを感じるときは?
 実は、いわゆる教師としてのやりがいというのは、あまり感じていません。講師として2年間見てきた生徒は重度心身障がい児で、「伸びたな」とか、目に見えての変化という実感はなかなか得られないので。
 でも、私はそれでいいと思っています。大学生のときに、教員のやりがいって、生徒の成長を実感するとか、卒業式の日に色紙をもらうとか、「先生でよかった」「ありがとう」と言われるのが根本的に嬉しいだろうと話していたんです。私も実習が終わるときに実習先の中学校の生徒からアルバムをもらってすごく嬉しかったのですが、特別支援学校の実習では「この学校の先生になって」といった言葉もなく、「ありがとうございました」とあっさり終わっていました。この二つを経験して、もちろんアルバムをいただいたのは嬉しかったのですが、それだけを特に重視する必要もないのかな、と。
 私は、子どもが社会に出たときに、先生の名前を覚えていなくても、私のしたこと、国語や数学の指導だったり、語彙力だったりがその子の力になってくれていたら嬉しいなと考えています。私の存在自体はそんなに重視してもらわなくていいんです。特別支援学校は「先生、ありがとう」という感動的なシーンや「目に見えての成長」を感じないだろうし、それは特にいらないなと思っています。
- 日々の中で小さな喜びがあるとしたら、どんなとき?
 講師をしていたときに医療的ケアの必要な女の子がいました。人見知りも強く、私も初めは抱っこのしかたもわからず、最初はすごく嫌な顔をされていました。子どもにしてみれば、初めての人に抱っこされるのは怖い体験ですから、無理もないんです。
 でも私はたまたまその子を2年間担任させてもらい、次第に私のことを好いてくれるようになりました。私が入るとすごく笑顔を向けてくれたり、私が他の子と何かしていると「あー(私のほうを見て)」と呼んでくれたりするようになって。他の先生も「西倉さんのことを好きなんだよ」と言ってくれていたので、障がいが重くてもいろいろと感じていることがあり、日々を積み重ねて受け入れてもらえたときは、喜びを感じましたね。
 今の学校のこの2か月でいうと、子どもたちは初めての先生の名前を覚えていないんです。私たちでもなかなか覚えられないですが、その中で西倉先生という名前を覚えて、ずっと呼んでくれる生徒がいます。その子が昨年度まで、一人で何かしたり、自分から発表したりするのが苦手で、「初めての人の言うこともあまり聞かない」と引き継ぎを受けていたので、「どんな生徒やろな」と思っていました。
 でも私が担当になって、たぶんたまたまその子と相性がよかったのか、今年は自分からいろいろなことに「やってみるー」と取り組んでくれています。何かできたときに「やったー」というので、「やったね!」と喜びを共有したり。この2か月で、ほかの先生もこの生徒の変化を感じているようで、そういうときはすごく嬉しいです。
西倉彩さん
生徒が心を開いてくれたエピソードや、意欲的に学ぶようすを語る西倉さん。思わず笑顔がこぼれます。
- それでは、苦労したことは?
 苦労したのは、卒業後も働きながら2年間、採用試験を受け続けたことです。やっぱり大学生のときに受かりたかった。大学生時代は、教員採用試験に向けて勉強や面接練習を一番やっているときで、そこで落ちたというのが結構なダメージでした。せっかく財団にもお世話になって色々してもらったのに受からなかった、いい報告をしたかったなとか、いろいろと考えてしまって……。
 卒業後は縁あって講師として働かせてもらっていましたが、自分はいつまで教員採用試験を受け続けられるだけの体力があるかな、とも感じていました。講師は一般企業でいうと契約社員のような立場なので、社会的な基盤がちゃんとしていないのが不安でした。私は一人暮らしなので、親にも「講師で大丈夫なの?」と言われたり。
 1年目は、筆記試験は合格しましたが、二次試験の面接と模擬授業で落ちてしまいました。たぶん自分の性格だとだらだら受けても受からないなと思い、2年にしようと決めて、昨年は管理職にもこの採用試験を落ちたら退職すると伝えて、区切りをつけて採用試験に挑み、ようやく受かることができました。
 大学生のときはガチガチに緊張して、自分らしさが本当に出せませんでしたが、昨年受かったときは反対で、全く緊張しませんでした。「これでダメなら違うことをしよう」「試験も楽しもう」ぐらいの気持ちでやっていましたから。あと2年間の講師の経験で、生徒の実態をリアルにイメージできたことも、合格につながったように思います。
- これからの課題や、息抜きのしかたを教えてください。
西倉彩さん
大型連休に同期の松原さくらさんと神戸どうぶつ王国へ。ふだんから色々と話を聞いてもらっているそう。
 教員としての課題は全部です(笑)。授業の組み立ても、もっとうまくなりたいです。子ども一人ずつ目標を設定して手立てを考えてやっていきますが、達成できるかどうかはわからないので、まだまだ勉強しなければと思います。本を読んで勉強をして、知識を得るのと同時に、休み時間に子どもと話をできるように最近の流行やテレビ番組なども知りたいです。それと人間関係は大切にしたいので、自分らしさを出しつつも、教員や保護者、生徒など、まわりの方々に気を遣いながらうまくやっていければと思います。
 気分転換は、私は出かけるのが好きなので、今年のゴールデンウィークは財団で出会った友人と一緒に動物園に行ったり、ご飯を食べたりしました。
 大学時代は少林寺拳法をしていて黒帯も持っていますが、今は少し体を動かすくらいです。先ほど生徒に接するときに表情を変える話をしましたが、武道のように、そのときの相手やその場の「気」も感じてくれたらといいなと思います。笑顔=今は楽しいとき、真面目な顔=今はしっかりするときというように、気も伝わっていたら嬉しいです。あと、ご飯の食べ方から挨拶、敬語など、礼儀作法はとても厳しかったので、それも今の指導にも活きているかもしれません。
 私たち1期生は、財団の方々によくしていただいていて、財団のプログラムで行った京都観光もとても楽しかったです。コロナの関係で1期生しかそうした経験をできていないので、感染症が収束したら、ぜひ後輩の方々にもつながりが広がっていってほしいですね。

西倉彩さん
大学の少林寺拳法部では2年間主将として活躍。「しんどかったですが、4年の最後までできてよかったです」

(2022年6月1日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
そばにいると、嬉しくなる
「適度な距離をとりながら、子どもに気を配り、目を配り、心を配り続ける」
 数年前、インドから来日した児童の京都市内観光に奨学生が帯同するという機会があった。私の帯同した7~8人のグループに西倉さんが参加していた。おとなしい人だなあと道中感じている中、西倉さんがやんわりじんわりと周囲に気遣っているのが伝わってきた。そして女の子がつまらなそうにしていると、すっとそばにきて、気持ちを聴いたのだ。押しの強さは微塵もない。やがて相手の声がハリを持ち、リズムをもったものとなり、そして会話が弾み、華やぎ、女の子の沈んでいた顔が「嬉しい笑顔」に変わっていった。
 今、西倉先生は、生徒を見守り、気を配り、表情の変化や態度も使って、言葉に終わることなく心を込めた全身で気づきに導いている。そして生徒の日常の嬉しい一コマを同じ分だけ自分の喜びにしている。あのときと変わらぬ姿勢と魅力が、より一層輝いて行くのだと感じた。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
 子どもとのコミュニケ―ションで、皆さんが、ことばで伝えること以外に創意工夫していることを教えてください。声のトーンだったり、表情であったり、笑いを取り入れるとか、どんな小さなことでも結構ですのでお送りください。
西倉さんにも色々質問してみましょう
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
コピーや転送、対象外の人の閲覧は、厳禁とします。