人見光央さん
2023/06/14 UPDATE
人見光央さん
1期生(2021年卒)
文教大学出身
千葉英和高等学校(1年担任)

生徒を「大切に思っている」と
まっすぐな言葉で伝えています
 高校時代の母校である千葉県の私立高校に就職して、2年目になる人見光央さん。恩師との出会いによって教員を目指すようになり、その目標に向かって着実に行動し、夢を叶えています。教科の国語の授業も担任としての生徒指導も、自分なりのこだわりをもち、力強く一歩一歩前進している印象です。
- 学校からの取材参加ありがとうございます。近況を教えてください。
 2021年4月に千葉英和高等学校に就職し、今年度で2年目です。担当教科は国語科で、初年度は1年生の副担任を経験し、22年度は1年の担任をもっています。
 勤務校は私の母校でもあります。2021年に創立75周年を迎え、「神を愛し、人を愛し、土を愛す」の校訓のもと、キリスト教精神に基づく人物の育成に取り組んでいる私立高校です。コース編成では総進、特進、特進選抜、英語科の4コースがあり、全体で生徒数が約1200人、教員数は約100人です。男女比は半々くらいで、生徒の印象は、外部の方からは「元気がある、爽やかだね」と言われることが多いですね。コースにもよりますが、スポーツ推薦で入学してくるような子は元気いっぱいで礼儀正しいですし、英語科の生徒は自己表現力が高いです。全体としては、真面目な生徒が多いと思います。
 部活動では卓球部の顧問、校務分掌では国際交流センターを担当しています。国際交流センターは、海外研修の手配や、交換留学生が来たときの対応などを行います。昨年9月にはシンガポール研修の担当をしました。引率はしないのですが、生徒からの参加申込書を集めたり、旅行会社とスケジューリングを確認したりするのが業務です。
 ただコロナ禍で久しぶりに再開した海外研修だったこともあり、予想もしない数の応募があり、行けない生徒も出てしまって調整が大変でした。3月の春休みにもオーストラリア研修がありますが、こちらは大きな混乱なく行けそうなので安心しています。
- 母校に就職されたのは、なぜですか?
 私が教員を目指すようになったきっかけは中学生のときにあります。私は勉強が苦手で、中1のときの社会のテストで勉強をしたのに17点……という生徒でした。宿題はちゃんと期限を守ってやるけれど、なかなか結果を出せないタイプで、勉強に自信をもてませんでした。でも中2のときの英語の教科担当の先生が「光央はいつも宿題を忘れずに丁寧にやってきていて、それは本当に素晴らしいと思うよ」とみんなの前でほめてくれたことがあります。先生が私の頑張りに気づいてくれたことがとても嬉しく、「私も人のことがわかる、素敵な大人になりたい」と教員を目指すようになりました。
 それで英語か国語の教師になりたいと考えましたが、私は人前に立って話すことがあまり得意ではなく、まずは人前に立って話せるようになりたいと思い、プレゼンテーション活動に力を入れている公立高校を第一志望として受験しました。しかし受験に失敗し、第二志望で入ったのがこの千葉英和高校の英語科です。
 最初は気落ちしていましたが、入学してみたら先生も友人もいい人ばかりで、学校の雰囲気も時代に合っていると感じました。さらに人前で話す力をつけようと思って所属した生徒会で出会った先生がすばらしい先生で「この人と一緒に働きたい」と思える方でした。それで母校の採用試験を受けて無事、採用をいただきました。その恩師とは今も一緒に働いています。
- 生徒との関係づくりで意識していることは?
 生徒に注意をするときは、「あなたのことを大切に思っているから言うけれど」と前置きをします。注意の内容は身だしなみについてが多いですね。ネクタイが緩いとか、髪を巻いているとか。みんなが平等でいるために校則はあると思うので校則を守ること、特に身だしなみについては口うるさく言っています。
 あと担任として生徒を思うだけではなく、その思いをきちんと言葉にしようと思っています。女子生徒のおしゃれを楽しみたい気持ちもわかりますが、「そんなことをしなくてもあなたたちは十分に魅力的だし、かわいいよ」と言葉で伝えています。私は「(言わなくても)察して」というのは違うと思っています。高校では、担任でも生徒と一緒にいられるのは朝と帰りのホームルームの時間くらいです。しかも高校生という多感な時期でそれぞれ悩みもあると思うので、生徒と信頼関係を築く手段として、自分が思っていることを格好つけずにそのまま伝えるようにしています。恥ずかしさや照れくささもありますが、私がそうだったように教師の言葉一つで生徒の人生が変わったり、頑張ろうという気持ちになったりすることもあります。だから私も言葉に責任をもって伝えたいなと思っています。
 それから「1年9組の1年間」という交換ノートのような冊子を1人1冊、クラスで43冊作成し、テストや行事の前後などにやり取りをしています。それは誰にも見せない、生徒と私だけのやり取りとして生徒に記入してもらい、私がちょっとしたコメントをつけて返しています。入学後は自己紹介を兼ねて通学方法や好きな食べ物、中学校での部活動などを書いてもらいました。定期テストや行事の前後には適切な目標と、振り返りなどを書いてもらっています。それを1年間続けて、年度の最後に1年9組の1年間がどうだったかを書いてもらいたいと思っています。
人見光央さん
定期的にクラス全員に書いてもらう交換ノート。「生徒のさまざまな一面を知ることができます」(人見さん)
人見光央さん
朝、生徒の登校前に気が向いたときにメッセージを書いておくことも。「この日はスポーツ大会で、生徒が可愛くデコレーションしてくれました」
- 授業づくりにも、人見さん流のこだわりがある?
 授業では現代文と古典、今のカリキュラムの科目でいうと「現代の国語」と「言語文化」をもっています。「現代の国語」は学年で統一したスライドを使っているので自分だけのこだわりの授業はできませんが、「言語文化」の授業は自分のこだわりがあります。そもそも古典って、読みづらい昔の話で生徒が興味をもちにくいし、覚えることも多く、嫌われがちな教科だと思うんです。だから私は古典の授業のなかにも「楽しいな」と思える瞬間を作るように意識しています。
 1年生の3学期は動詞と用言と助動詞の文法を定着させる時期ですが、たとえばカ行変格活用の「こ・き・く・くる・くれ・こ」を覚えるのに、楽器を使いながらリズムに乗せて復唱させています。ふつうに覚えるよりリズムに乗せたほうが覚えやすいですし、知らない間に口ずさんでいる生徒もいます。使う楽器は百均で揃う打楽器です。太鼓、タンバリン、カスタネット、鈴など、活用の種類によって楽器の種類も変えていて、音楽の授業みたいになっています。授業中に寝そうになっている生徒がいたら、その前に行ってガンガンやったり(笑)、生徒に「あなたが叩いてみて」って楽器を渡したりもします。とにかく楽しんでほしいという思いで、オリジナルのリズムに乗せてやっています。
人見光央さん
(上)授業で使用しているスライド。オリジナルのリズムで活用を唱えます。(左下)植木鉢とレジャーシートで作成した小鼓。(右下)百均のレインコートが信夫摺の狩衣に。「『伊勢物語』の在原業平をイメージしました」
人見光央さん
文法の導入で使う自作の4コマ漫画。「古典が苦手な生徒の心をつかめたら、という一心です」
- 保護者、職員間の関係づくりはどのように?
 保護者に対しては、無理のない範囲で学級通信を発行しています。また夏休み前までは些細なことでも電話やメールをしていました。千葉英和高校は欠席連絡がフォーム入力なので担任への直接の連絡はないのですが、生徒が欠席したときなどは「ご家庭のご様子はいかがですか」と電話をしたり、保護者用のメールアカウントでメール連絡をしたりしていました。それによって家庭の様子を把握できることもあるからです。電話やメールをして温かく対応してくださる方もいれば、なかなかメール返信もできないぐらい忙しい方もいらっしゃるので、夏休みに保護者面談を1回してからは、それほど頻繁には連絡をしないようにしています。
 職員間では、卒業生ということもあり、いつも気にかけてもらっています。また一人で判断したり抱え込んだりしないように、まわりの先生方を頼っています。クラス運営で困っていることとか、こちらの思いを伝えても反応がない場合とか、そういうときはすぐに学年主任に相談しています。学年主任の先生も「何かあったら私が責任を取るから」と言ってくださる格好いい方で、本当に頼りにしています。
人見光央さん
クラスの学級通信。「年2回ほどの発刊を予定していましたが、たくさん伝えたいことがあり、もう5号目です」
- それでは、教師としてやりがいを感じるときは?
 生徒たちが気付いて動いてくれたときは、嬉しいなと思います。私は今年度初めて担任をもったので、4月の最初に「君たちと同じように私もわからないことだらけだから、たいへん申し訳ないけど、全部をリードしてあげることはできない。みんなが心配することもあると思うけど、そうなったら助けてほしい」と話したんです。だからなのか私が大量の荷物を持っていると、生徒たちがさっと手伝いに来て「これはどこに置けばいいですか」と動いてくれ、すごく助かっています。
 それから、生徒の感情に触れることができたときも「教師になってよかったな」と思う瞬間です。これは部活の話ですが、今年の女子卓球部は3年生5人のうち3人が経験者で、2人が初心者でした。初心者のうちの1人がなかなか部活に気が向かず、人間関係が悪いわけではないけれど、なぜか練習をさぼって帰ってしまう子でした。でも、3年生の経験者1人とその初心者の子は相性がよく、ダブルスのペアを組んで3年の最後の大会に出場することになったんです。
 十分な練習もないまま大会当日を迎え、初心者の彼女は「私がペアだと足をひっぱってしまう」と泣きそうになりながら試合に臨んでいました。でも彼女はサーブがうまく、相手がサーブを取れずに奇跡的に1セットを取得。そこからはもう涙が止まらず、1セット終わるたびに私のほうを向いて「どうしよう、勝っちゃってる」と訴えてきて、不安も極限だったようです。私も一緒に涙を流しながら「あなたが落ち着いてサーブを出せば絶対に大丈夫」と励まし続け、そのまま泣きながら試合を進めて、最終的には勝つことができました。
 私も顧問として彼女の背中を押すことができたのは嬉しかったですし、卓球部の顧問でなかったら、きっとこの経験はできなかったと思います。
- 苦労していることや悩みはありますか?
 悩みとしては、他の職員に、私が卒業生だから優遇されているように思われてしまうことがあります。通常、私立高校だと非常勤講師で採用されて、それから常勤になり、常勤で数年務めてから担任をもつことが多いようです。私の場合、採用試験のときに千葉英和高校への勤務が第1志望でしたが、公立でも合格をもらっていたので「常勤で採用していただけないのであれば公立に行きます」と交渉し、常勤で採用をいただきました。1年目も早く担任になりたいという思いでやってきて、2年目で担任をもたせていただいているので、通常より早いのは確かですが、不正をしているわけではないので、何か言われても気にしすぎないようにしています。
 それと新カリキュラムになり、「現代の国語」の教え方、文章の採点方法も悩みます。これまで現代文では、物語や評論などの文章の内容を学んでいましたが、新カリキュラムでは表現方法を学ぶことが重視されています。たとえば評論文の『水の東西』では「対比」という表現方法が使われているから「対比」を使って作文しよう、といった学習をしています。私の場合、1クラス43名×3クラスをもっていて、週2回授業があるなかで、次の授業までにすべての生徒の作文を十分に読んで採点して渡す、ということがあまりできておらず、本当に軽く見て返すだけになってしまっています。
 文章の採点というのは国語科の教員であれば皆が通る道だと思いますが、私自身は時間も体力もなくて十分にできていないので、他の先生方はどうされているのかなと気になります。本当は一人ひとりもっと深くフィードバックをしてあげたいです。
- 今後に取り組みたいこと、気分転換の方法等を教えてください。
 今後は書写免許をとりたいと思い、武蔵野通信教育大学の国語専修で、書写免許の取得に向けて進めているところです。22年の秋に入学して、この春から実技系のスクーリングで対面の講習を受けることになります。体力面や時間という点で不安はあるんですが、あまり先のことは考えずにスタートしました(笑)。私は何か目標がないとダメなタイプで、初年度は担任になることが目標でそれを叶えたので、2年目はまた新しい目標をと思ってやっています。あとはMOSエキスパートの資格を取得すると待遇が上がるようなので、いずれはそれも取りたいと思っています。
 休日の過ごし方では、まずは心ゆくまで寝ます。満足するまで寝て、それから絵を描いたり、ブラックコーヒーを飲んだりしている時間が好きです。絵は、有名な画家の絵を模写するのが好きですね。コーヒーは家で飲むのも、お店で飲むのもどちらも好きです。
 最後に奨学生OBOGに伝えたいことでは、授業の工夫、模擬技術を見てみたいです。コロナで他の先生方の授業を見る機会も減っていますし、皆さんいろいろなことに挑戦されていると思うので、各々のこだわりやアイデアを知りたいです。私も古典の授業ではかなりこだわりをもってやっていますが、でもみんなの前であの楽器を使った授業ができるかというと……恥ずかしいかも(笑)。財団の研修などでも、また皆さんと情報交換をしたいと思います。
人見光央さん
ゴッホ作「星月夜」の模写。「青色がもたらす暗さの中に、月と星のやわらかさを表現することにこだわりました」

(2023年1月31日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
本物を見る
(本当に自分を見てくれているか、嘘偽りなく真面目に向き合ってくれているか、その人は真剣に仕事を愛し、取り組んでいるか、子ども・生徒は鋭く本物を見抜く)
 人見さんについて鮮明な印象をもったのは、前々回レポートで紹介した「青木七海さん」と横浜市の小学校教諭に取材をしたときのことだ。心技体全開で質疑応答を繰り返す青木さんの隣に座る人見さんは、ひたすら相槌うなずきを会話のリズムにあわせてとりつづけ、発言はしない。澄んだ眼差しで教諭をしっかりと捉えて静かに聴いている。そして終盤に手短な発言。驚いたのは、その内容が全ての対話を凝縮して理解し、無駄なく的を射たものだったことだ。「本当の聴くとは何か」ができている。驚いた。
 4年後のこの取材を通じて驚きは連続した。ひとつは、学業の楽しさを伝えるために、絵画やイラスト、音楽の技能などたくさんの優れた創造の才を、生徒目線の「学びやすさ」「教科の楽しみ」を伝えるためにフル稼働させていることだ。そして、その技術を増やし深める鍛錬を今も自分に課している。さらに驚いたのは、抜群の距離感を生徒との関係において保っていることだ。やさしく感情に触れつつ、自主性が発揮されるまで背中を押し続ける、記事中の「卓球初心者の勝利」の話はまさにこの姿勢がひとりひとりの生徒に対するものなのだと心動かされる。
 本物というのが相応しい。本物の愛情、本物のプロ、本物の先生
 今後生徒たちは経験を重ねる中で人見さんをそう思うのではないだろうか…
 是非心身へのご自愛を忘れず、今の道を進んでいってほしい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
こども・生徒が自主的に学業や部活に打ち込むようになること
この自主性を引き出すのは難しいことですね。
「褒めること」はひとつの有効な方法と言えますが
タイミングや表現のレベルが相手とずれていると逆効果だったりします。
褒め方を含めて、皆さんの子ども・生徒の自主性の引き出し方を
教えてください。
記入フォームはこちら >
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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