中村香織さん
2023/06/02 UPDATE
中村香織さん
2期生(2021年卒)
立命館大学出身
奈良県公立中学校(3年副担任/3年特別支援学級担任)

教師はクリエイティブな仕事。
生徒が楽しんでくれると嬉しいです
 英語を学ぶことが大好きな母親の影響を受け、英語教師を目指すようになったという中村香織さん。2022年度からは、奈良県の公立中学校の英語科教員として勤務しています。初任でゆとりがないと話す中村さんですが、落ち着いたマイペースの語り口からは、よりよい授業をしたい、学校に貢献したいという情熱が伝わってきます。
- 本日はありがとうございます。近況から教えてください。
 2022年4月から奈良県桜井市の中学校で働いています。21年度は私が卒業した立命館大学の付属中学校で常勤講師として働いていて、教員採用試験で合格して地元奈良県の中学の英語教諭になったので、教員としては2年目です。
 勤務校は60年以上前に開校した中学校です。全校生徒は220人くらいで3年生だけは3クラスですが、1年生と2年生は2クラスです。近くに有名な神社があり、校区には田んぼや小さな公園が多く、のどかな学校です。教員数は17人でそのうち女性が5人です。最初、女性の先生が本当に少なかったので「荒れている学校なのか?」と心配しましたが、実際はそうではなく、落ち着いた学校だったので安心しました(笑)。
 担当学年は3年生で、通常学級の副担任と特別支援学級の担任をしています。通常学級の副担任としての役割は、担任の先生が出張に行かれているときなどに、担任に代わって朝の会や帰りの会を行ったりします。特別支援学級の在籍生徒は6人ですが、そのうち4人は通常学級で学習をしているので、特別支援学級にいつもいるのは2人だけです。ですから、通常学級で英語の授業や3年副担任の業務をしながら、3年の特別支援学級も見ているというかたちになります。
 そのほか部活動では、美術部の顧問をしています。私は絵を描いたりはできないのですが、一緒に顧問をしている先生が美術の先生で、私はただ作品を作るときに色塗りを手伝ったり、文化祭の展示をしたりしました。大きくて重い掲示用のボードを校舎の上の階に運ばなければならず、女子部員が多いなかでの力仕事はちょっと大変でしたが、楽しい経験になりました。
中村香織さん
勤務している公立中学校の近くには有名な神社があり、通勤で毎日この鳥居を通るという中村さん。
- 特別支援学級の担任というのは、ご自分で希望された?
 いえ、4月の最初の会議で配属の紙を見て初めて知りました。最初に校長先生と教頭先生にお会いしたときに、「前の学校で学級担任だったか?」と質問をされまして、「いいえ」と答えたので多分、通常学級の担任はやめておこうとなったのだろうと想像しています。もともと今年度、3年生担当の英語の先生が必要だという話は決まっていたようです。でも私は初任で、クラス担任になると公立中学での初めての担任が高校受験のある3年生になってしまうので、それはさすがにむずかしいと思われたのだと思います。
 1月ともなると、3年の教員は受験指導がほとんどですが、副担任として横で見ていて「受験ってこんなに大変なんだ」と感じています。一般に、3年の3学期は受験や直前の追い込みで欠席も多かったりするんですが、うちの学年は欠席も少なく、「受験に向けてみんなで頑張っていこう」という雰囲気になっています。これも3年の担任の先生方や学年主任の先生のおかげだなと思っています。
 特別支援学級で授業を受けている子どもたちも、それほど重い障がいではないので、国語・数学などの試験がある特別支援学校を受験して、結果待ちという子もいます。障がいの種類でいうと、軽度知的障がいとかADHD(注意欠如・多動症)の子もいますし、最近だとディスレクシア(学習障がいの一種。知的能力や全体的な発達に遅れはないものの、文字の読み書きに限定した困難がある)の子が多いです。通常学級にも結構います。
 特別支援学級の生徒に英語を教えるときには、それぞれの困難を考慮してワークシートなどを作成しています。例えばディスレクシアの子のなかには英語はおろか、日本語の漢字ですら読むのが難しい子が多いので、日本語文に振り仮名を振るのと、これは私はあまり好きではないんですが、英語にもカタカナで振り仮名を振っています。英文が長くなるほど「はぁ…(溜息)」となります(笑)。
 でもディスレクシアをもつような生徒は、リスニングは他の子に比べてかなりできるんです。文字を目で追うのは苦手でも、耳からは英語がよく入るようです。私も最初に聞いたときはびっくりしましたが、うちの学校では特に読むのが苦手な子には、定期テストで全教科読み上げ対応をしています。国語の長文の問題文なんて聞くだけでも大変かなと思ってしまいますが、私も英語のテストではすべて読み上げをしました。そうすることで、以前はテストでひと桁か10何点だった子が、40点くらいになったりもしました。こんな長い英文を聞いて理解する力があるんだなと感じています。
中村香織さん
特別支援学級で使用している英語のプリント。「このプリントはとても集中して取り組んでくれます」(中村さん)
- 生徒や保護者、職場での人間関係はどうですか?
 特別支援学級の生徒と関係を築くためには、その生徒の好きなことや苦手なこと、得意なことを知ることが大切だと思っています。生徒本人と話したり、様子を観察したり、前年度担当されていた先生から話を聞くことで、生徒について知ることができます。
 生徒の好きなものというと、やっぱりアニメや漫画が好きな子が多いですね。通常学級では基本的にそんなことはしませんが、特別支援学級の授業では、ときどき「先生、このアニメ見てる?」と声をかけられたら、そのアニメを調べて「これのこと?」と確認したり、「ちょっと待ってな、あらすじ読んでみるわ」と話したりすることもあります。生徒の機嫌が悪いときにどのように話を聞けばいいかなど、生徒との関わりで困っていることは、先輩の先生方にも相談しています。
 特別支援学級の保護者とは、毎日連絡帳でやり取りをして関係性を築いています。特別支援学級の生徒は手紙の渡し忘れが多いので、何か重要な書類があれば「今日はこんな書類をお渡ししています。提出が何日までですのでよろしくお願いいたします」と書いています。ただ毎回連絡帳でお知らせすると、「先生が親に伝えてくれるし、手紙は自分から渡さなくても大丈夫だ」と生徒に思われてしまうので、そこは注意しないといけないなと思います。保護者にも難しい方はいらっしゃいますが、基本的には子どものことを思っていらして、特に受験が近い今の時期はいろいろと協力的にやってくださいます。
 職員間の関係づくりでは、先にも言ったように女性の教員が少なく最初は不安でしたが、学年の先生方や教科の先生方がいろいろと教えてくださり、親切なので、甘えすぎなくらい甘えさせてもらっています。仲良くしていただいている先生に帰りに駅まで車で送ってもらうことも多く、短時間ですが車内でその日の出来事などを話していると、ちょっと嫌なことあった日もリラックスした気持ちで帰ることができます。今の学年の居心地がいいので、来年度が怖いです(笑)。
- それでは、やりがい感じるのはどんなとき?
 「教師の仕事でどんなところが好き?」と聞かれたら、私は「クリエイティブなところが好き!」と答えます。授業をよくするために導入や活動内容をいつも考えていますが、なかなかうまくいかないことのほうが多いです。それでも、少しでもよい授業ができたとき、生徒が楽しそうだった授業ができたときには、やっぱりやりがいを感じます。
 私は基本的に新しい文法を学習した後には、それを使うアクティビティをさせるという流れで授業をしています。先日は「~したことがある」という現在完了形の文法を学んだ後、インタビュービンゴの活動をしました。例えば「Have you ever eaten Aussie Beef?(オーストラリア産牛肉を食べたことがありますか?)」とか、「Have you ever been to Tokyo Disney Resort?(東京ディズニーリゾートに行ったことがありますか?)」と周りの人に聞いて、イエスと答えた人がいたら、そのマスが埋まり、縦横斜めにビンゴになるまでインタビューを続けるというものです。
 もともとは教科書に載っていた活動で英文だけが記載されていましたが、ティームティーチングの先生が「生徒全員ができるようにするためには日本語訳も入れたほうがいい。それなら英語が苦手な子でもできる」とアドバイスを下さったので、そのようなワークシートを作り、インタビュービンゴをしました。3年生は大人っぽい子も多いので、誰でもできる反面、英語ができる子にとっては単純すぎてつまらないのではと思いましたが、思った以上にどこのクラスでも盛り上がってくれました。生徒同士でちゃんと英語で質問をして、答えるほうも「Yes,I have」か「No,I haven’t」と英語でやり取りができていたので、私も嬉しかったですね。
中村香織さん
通常学級の英語のプリントに載せている言語活動。「インタビューやビンゴなどのゲームをしたり、タブレットでのライティングなどいろいろと挑戦させています」(中村さん)
- それでは苦労していること、今後に取り組みたいことは?
 私自身はまだまだ学年だけでなく、学校にもあまり貢献できてないなと日々感じています。周りの先生方に相談したら「そんなことないよ」といってくださると思いますが、私は初任で仕事も少ないほうですし、それも全部うまくいっているかというとそうでもない。今は本当に明日の授業を前日に準備するということが多いので、もう少し仕事にも慣れて、生徒指導も教科指導もより工夫して、もっと教師としての仕事に時間をかけられるようになり、学校に貢献できたらいいなとずっと思っていますね。
 実は、私と同い年ですでに退職されてしまった先生もいます。だから私に関しては周りの先生方が「毎日学校に来てくれたらそれでいい」ぐらいの感じで(笑)、すごく大事にしてくださるので甘えてしまっている状況です。
 今後の活動については、来年度はもう少し余裕をもって仕事をし、生徒の小さな変化を見逃さず、親しみやすい教師になることが目標です。生徒の小さな変化ということでは、ベテランの先生方は本当に「最近この子とこの子は仲が良くない」「この子とこの子、今付き合っているよ」とか、生徒の生活や交友関係にもすごく目配りをされています。私からすると「何でわかるんですか!?」と不思議なんですが、恋愛がトラブルに発展したりすることもあるので、注意深く見守っておられるようです。私もそれぐらい教師として生徒に寄り添える先生になりたいなと思います。
 また今年度は、英語4技能の中で「話すこと(発表)」の授業があまりできませんでした。前に働いていた私立校では、学期に1回は1人ずつ前に出て発表をしてもらっていましたが、今の学校では英語が苦手な子が発表を嫌がって学校を休んでしまう、といったリスクもあり、なかなか踏み出せませんでした。もし来年度に中学1年生をもてたら、小学校でも習うような簡単な内容から「話すこと」に挑戦したいなと思っています。グループ単位でタブレットでプレゼンテーションを作成させるなど、いろいろと工夫をして、1週間ほど時間をかけるプロジェクトもやってみたいです。
- 休日の過ごし方や、奨学生へのメッセージがあればお願いします。
 私の気分転換は、休日にYouTubeやNetflixを見ることです。仕事が終わっていないときは土曜日に学校へ行くこともありますが、日曜日は必ず休めるので、YouTubeならジャニーズとかK-POPアイドルのダンス動画を見たり、Netflixなら今話題の映画や、昔見た映画でもう一度見たいものを見たりしています。
 それとスイーツを食べることも好きです。1人でカフェに入り、コーヒーを飲みながらスイーツを食べるのが大好きです。スイーツは何でも好きですね。アイスクリームも好きですし、高校生のときはパンケーキブームだったので、しっかりパンケーキを食べていました。高校・大学時代は、スタバに入るとフラペチーノばっかり頼んでいました。前は真冬でも冷たい限定のフラペチーノを迷わず買っていたんですが、今はちょっと苦いのも好きになったりして、やっと少し大人になったかなと(笑)。今でも出かけると、「どこかにいいカフェがないかな」と探して入るのが楽しみです。
 奨学生に伝えたいことは、大学生の間にいろいろなことを経験してほしいということです。いろいろな経験が教師としての生活にプラスになると思います。私自身が大学生のときは「教師になるんだから、教育についてのことをしっかり勉強しておけばいいんだ」と思っていましたが、いろいろなことを知っていたほうが 生徒や保護者、職員同士との話題も広がります。うちの学校でも、社会の先生に何でも詳しい方がいて話もおもしろいし、うらやましいなと思います。一見教育に関係ない授業でも、積極的に受けてみて視野を広げてくださったら、すごくいい先生になれると思います。
 OBOGの方と個別に会うことは、残念ながらないです。研修やイベントがあるときにお会いするくらいですが、一緒に食べるご飯はおいしいし(笑)、同じ教員仲間として悩みなどを共有できるのは有難いです。私は2期生ですが、これからもいろいろな方とつながって情報共有をしたいなと思っています。
中村香織さん
平日に早く帰れる日はカフェに寄ってリラックス。写真は、休日に訪れた“ちょっと高級なケーキ店”での1枚。

(2023年1月24日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
素の力
(素直に指導者、子どもの言うことを受け入れ、信じて素のままに実行する。人から大切にされる力だ。)
 以前、スポーツ指導や顧問経験者、大学で教鞭をとっている方々と話す機会があった。その時話題になったことのひとつに「長い目で見たら、どんな教え子が能力を伸ばすか」があった。前段として、ネット化や幼児のスポーツ指導普及、大人顔負けのスキル知識を身に着ける子どもの存在、天才教育などの話があり、そのついでにこの話題になったのだが、なんと「素直に指導を受けいれて、その通りに素のままやり続ける子は伸びる」というもので一同頷いたのだった。それは何故か?という質問をすると「相手が素直な反応をすることがとても嬉しく感じる。常に信じられ行動されると、教える側が、放置できない責任感をもつようになる。やがて自分が自分を教えているような気持ちになって行くから常によく見て教える。」というものだった。そして、そのタイプの教え子にとくに注意したのは、質問力と観察力で、素朴な疑問を語れることが大事だそうだ。
 中村さんは、先輩の方々によく相談をし、よく教えてもらい、その通りに実行を繰り返して、上手く行かなかったときはそれが何故かについても指導を受けている。そして、自分の現実の力量、課題をしっかりと認識し、子どもをよく観察して課題を抽出していることがわかる。まさに前述の“素の力”を持つ先生なのだと思う。
 人から大切にされ、教えてもらえる、助けてもらえる、このかけがえのない力を遺憾なく発揮し、成長の道を歩み続けて欲しい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
文中で触れました「質問する力」について
「質問はあるか」と言われると一同黙るのが常と言われるくらい
私達は質問を発するのにも答えるのにも抵抗がありますが
皆さんは、ご自身の質問する力、質問に答える力について満足していますか?
そして高めるために何が必要と考えていますか?
指導者としての立場からでも、自己研鑽の立場からでも結構ですので教えてください。
記入フォームはこちら >
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の「記入フォームはこちら」より入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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