奥村輝星さん
2023/00/00 UPDATE
奥村輝星さん
1期生(2019年卒)
佛教大学出身
大阪府公立中学校(1年担任)

中学の3年間で「生徒にどれだけ
生きる力を育てられるか」を意識
 奨学生1期生として同期のなかでもリーダーシップを発揮し、存在感を示していた奥村輝星さん。大学時代は小学校の教員志望でしたが、現在は公立中学校の社会科教員として教壇に立っています。初任でもった学年を3年間見続けて卒業させた奥村さんの目には、4年目だからこそ見えてきた、新たな景色が広がっているようです。
- 今日はありがとうございます。この3年の近況から、教えてください。
 2019年に大阪府の公立中学校に社会科教諭として就職し、現在4年目になります。
 実は、僕はもともと小学校教諭を強く志望していたんです。大阪府の採用枠で「小中いきいき連携」という小学校と中学校の免許を両方もっている人が受験でき、小学校・中学校どちらでも採用される枠があります。中学社会科は応募者も多いので、採用されたら小学校に行けるだろうと思っていたら、4月1日にまさかの中学校への配属に。その日まで小学校に行くと思っていましたから、何の準備もしてない状態で「もう最悪や」というスタートでした。ただ、目指していた教員として働けることに変わりはないので、任命された中学校に行く道中で気持ちを切り替えることができました。
 勤務校は大阪のなかでも大きい中学校で、全校生徒900名、教員数も60名近くに上っています。メジャーリーガーのダルビッシュ有選手の母校としても知られています。
 初年度から1、2、3年と各学年の担任を経験して、今年また1年生なので2周目が始まったという感じです。1学年は7クラスあり、担任しているクラスは41名の生徒がいます。今年の1年生は少し幼い印象ですが、小学校の先生がしっかり指導してくれたんだろうと感じられる温かい子、やさしい子が多いです。もちろん課題もそれなりにありますけど、比較的落ち着いた生徒たちです。
 部活動では、野球部の主顧問をしています。学生時代に野球をしていたので、自分がやっていたスポーツを指導できるのはありがたいですね。
奥村輝星さん
奥村さんが主顧問を務める野球部のミーティング風景。「部員は、少年野球などでの経験者が多いですね」
- 中学生という年頃の生徒との関わりで、意識することは?
 最初の4月の段階では、アニメとか子どもが好きなもの、流行をリサーチして、それを休みの日に調べて会話できるようにしたりしました。自分から「先生」と話しかけてくれるような子はいいんですが、なかには友達や大人との関係作りが難しい子もいるので、そういう子にこちらから歩み寄るには、流行や好きなものが手がかりになります。
 あとは、生徒たちと一緒に体を動かして活動しています。体育の時間に自分も行って、生徒と一緒にバスケの試合をやったり、体力測定を一緒にやったりもしました。シャトルランのときに「先生、現役の頃は150ぐらいいってんやぞ」「すごい!」と子どもに期待をもたせつつ、実際にやってみたら80回。「やった、先生に勝ったー」と言いながら子どもたちも喜んでいました。そういう関わりを生徒は一番喜んでくれますね。若い今だからこそ、できることだと思いますし。
 中学生という年齢で意識するのは、昨春に初めてもった学年を卒業させてやっと気づいたことですが、中学を卒業したら多くの子は高校へ進学しますが、なかには社会に出ていく子もいるということ。中学卒業で義務教育が終わるので、社会で生きていける子どもを育てていかないといけない。そこが小学校とはちょっと違うところです。もしかしたら僕らが教員として関わる最後の大人かもしれないので、中学の3年間で子どもたちにどれだけ生きていく力をつけて送り出せるか、と考えるようになりました。
 社会で生きていく力には、いろいろなものがあると思います。保護者から独立して自分一人の力で生活するのもそうですし、ちょっと矛盾するかもしれませんが、周りに依存する力も大事です。人は完全に一人では生きられず、どんな人も誰かに支えられて生きていますから、困ったときに自分から助けを求められる力、周りの人にも助けてもらえる人間性、そういう力を中学校のなかでつけられたらと思っています。
奥村輝星さん
「生徒がお菓子作りにはまっていると聞いたので、自分でも休日にクッキーを焼いてみました」(奥村さん)
- 授業をしている奥村さんは、どんな感じ?
 たぶんイメージと違うと思うんですけど、僕は授業をかっちりやるんです。生徒からしたら退屈というか、おもしろくないと思うんです。知識として押さえたいところはしっかり押さえたいというのもありますし、そもそも僕自身にいろいろな引き出しがない。べテランの先生方に比べて授業力もないし話術もないので、そういう授業になってしまうのかなと思うんですけど。そのことに僕自身も「こんな授業じゃあかんのにな……」と思ってしまい、授業をするのが苦しいときもあります。ただそこでおもしろくない授業をする先生で終わっていたら子どもとの関係もよくならないので、授業以外のところで自分の持ち味というか、自分をさらけ出して、先生というより1人の人間として子どもたちと向き合って関係を作っていければ、とも思います。
 もちろん社会の授業でも雑談をしたり、授業中にダジャレを盛り込んでみたりとかもしています。結構すべりキャラみたいな感じで、子どもにはばかにされるんですけど(笑)。あとは学級で人権教育をするときは「奥村先生っていつも熱く語るよね」と言われるから、ある意味、そういうところで自分らしさが出ているのかもしれないですが、自分のなかでは全然まだまだ自分を活かせてないという感覚です。
 職場のなかにも憧れている先生、尊敬できる先生がいらっしゃいます。「そういう先生のようになりたい」「そんな先生を追い越すんだ」と失礼ながら思ってやっているので、自然にハードルが高くなってしまい、今の自分自身と自分が思い描く理想とのギャップに、いつも苦しんでいるような感覚です。
- 職員同士の関わり、保護者との関係は?
 職員同士の関わりでは、雑用は率先して引き受けることや、授業作りや学級経営、教育観などを積極的に質問するようにしています。まわりは家庭をもっている30代中盤から40代頃の中堅の先生が多いですね。僕が学年のなかでは一番若手です。
 今の学年の先生方は忙しいなかでも、コミュニケーションを大事にしていています。仕事をしながらでも1日の子どもの様子を話したり、僕がクラスで指導をしたときにも「あの指導ってあれで良かったんですかね」と相談させてもらっています。
 職場の中でいろいろな先生とコミュニケーションをとっていると、そのなかですごく学びや気づきがあるので、教員同士の関わりも大事だなと思います。今は働き方改革で、いかに5時に帰れるか、いかに残業を減らすかみたいな風潮があります。でも一方で僕は、少し帰るのが遅くなってもそこで一緒に話をする、今日の振り返りをしながら語り合うというのもやっぱり必要な時間かなと思います。
 保護者との関係では、どんな些細なことでもすぐに連絡します。トラブルがあれば「こんなことがありました」と電話をしますし、学校で生徒がちょっと元気がないときは、「今日は元気がなかったんですが、何かありましたか」と連絡することもあります。もちろん悪いことや心配なことだけでなく、生徒のよいところも伝えるようにしています。
- 教員として、やりがいを感じるのはどんなとき?
 本当にやりがいを感じたのは、3年生の卒業式を終えたときですね。初任の1年目のときは本当に全然うまくいかなくて、特に女子生徒との関係がよくなかったんです。クラスのリーダー的な女の子とぶつかって、周りの女の子もみんな敵になってしまった感じでした。でもその子が卒業するときに「先生、迷惑かけてごめんな」と伝えに来てくれました。その子も嫌な思いをしたと思うんですが、最後まで関わっていくなかで、こちらの一生懸命な姿も見てくれてたんやなと感じました。1年2年3年と最後まで経験させてもらえたからこそ、また見えてくる景色も違います。今の1年生にもうまくいかない子はいますが、そんな子もしっかりと関わっていれば、いずれは絶対にこっちを向いてくれると、2年後を想像しながら関われるようになりました。
 僕が尊敬する先生とお話していて「なるほどな」と思ったことがあります。その先生は「生徒からの好感度とか人気みたいものを意識しているうちは、一流の先生にはなられへん」と。「自分たちの仕事は子どもをどれだけ育てられるか、社会で生きる力をつけていけるように育てるかやから、別に子どもに好かれているとか嫌われているとかは関係ない。めちゃくちゃ子どもから嫌われていても、そのなかで子どもが育って、3年後に立派に卒業していくんなら成功。逆にどれだけ好かれていても子どもが成長しないんだったら何の意味もない。だから自分は生徒の好感度のようなものは意識しない」と話されていました。それで僕もすごく気持ちが軽くなりました。
 やっぱり教員をやっている以上、生徒から人気のある先生、生徒から好かれる先生に憧れるところがあります。でもそれってたぶん自己満足というか、生徒から慕われている自分に酔っているだけなのかなと思います。僕らの目的は子どもを育てることで、そこができているかどうかにしっかり向き合うことが大事です。
奥村輝星さん
2022年春、3年間見守ってきた学年の卒業を経験した奥村さん。(左)卒業式の日、奥村さんから担任クラスの生徒全員へ感謝の気持ちを掲示。(右)「式典後、生徒たちが花束とメッセージカードを贈ってくれました」
- 日々の日常では、あまり「やりがい」を感じない?
 日々の日常では、実はやりがいはあんまり感じていないです。やりがいというより使命感で子どもと関わっている気持ちが強いように思います。「こういう子どもを育てたい」とか「こんな大人になってほしい」という気持ちがあり、それを全うしたいという思いで突き動かされている気がします。
 自分にも自信はまったくないですね。むしろ大学を出て、初めて現場に立ったときの自分はすごく自信に溢れていたんです。今思えば恥ずかしいんですけど。その状態で現場に立ったときに、ベテランの先生や経験のある先生と比べて「自分って無力やな」「自分は何もできてない」と気づかされたんです。そこで「自分ってまだまだやな」と思って、どんなところがまだまだなのかを探していけばいくほど、どんどん足りない部分が見えてくるようになって、気づけば常に「まだまだ」が積み重なっていっている一方です。ずっと山に登っている途中みたいな、そんな感じですかね。
 でも満足はしないほうがいいとも思っています。僕はたぶんすぐに勘違いして調子に乗るんで、自分はまだまだと思っているぐらいのほうがちょうどいいかなと思います。
 それに気づかせてくれたのは、結局子どもなんです。1年目とか2年目とか、3年目もそうですが、子どもとうまくいかなくて、どれだけ自分で自信を持っていても子どもが反応で示してくれます。そこがうまくいかないということは自分に原因があるんだなと。自分には足りないものがあると気づかせてくれたのが、そのときどきの子どもたちです。
- 今後に力を入れたいこと、取り組みたいことは?
 先ほどお話ししたように授業力はまだまだで、急に授業がうまくなったり話術が向上したりするわけではないので、今すぐ自分にできることは何かと考えたときに、これだと思ったのがICTでした。だからICTを授業の中でも積極的に取り入れるようにしています。今は黒板を使わず、黒板に板書するような内容もタブレットに配布していますし、資料も全部モニターに映し出したり、提出物をタブレットで提出させたりしています。
 学校内でも自分がICTを推進していく立場になってきて、他の先生方にICTの研修をすることもあります。まずはそういうところから、力を磨いていこうと思っています。
 それと今後、学年すべての子どもたちと関わっていきたいとも思っています。1学年で7クラスもありますが、学年の子はもしかしたら来年自分が担任をもつ子かも知れないし、子どもたちにとっても、どの先生との出会いがその子が変わるきっかけになるかわからない。学年の中に1人でも多くの子どもを救える先生がいたほうが、子どもたちのためになると思いますし、そのときに自分もそういう教員の1人でありたいと思っています。だから自分のクラスは当たり前ですが、それ以外の子たちともどんどん関わっていかないといけないなと思っています。
奥村輝星さん
授業ではICTを積極的に活用。「写真は、タブレットで作った校外学習のまとめを発表しているところです」
- 最後に気分転換の方法と、財団に伝えたいことかあればお願いします。
 気分転換は、旅行ですね。車で近場のショッピングモールへ行って買い物をしたり、大阪から出て周辺に足を伸ばすこともあります。今年度は2周目の1年生の担任で、気持ち的に余裕もあったので、この前の夏休みは沖縄に行きました。ずっとコロナ禍でもあったので、就職して一番羽を伸ばした気がします。
 財団への希望としては、本校の生徒に何らかのかたちで財団が関わっていただけると嬉しいなと思っています。たとえば、今はコロナ禍の中で職業体験もずっとできていません。子どもの将来の見通しを立てるという意味で、企業の方からのお話を聞ける機会は貴重な経験だと思います。博報堂教育財団で中学生が話を聞けるような機会を作ってもらえたら、すごく勉強になると思います。僕らにしていただいているような研修を、子ども向けにしてもらったりしても、またおもしろいのかなと思います。
 今日もこのようなインタビューという機会をいただいて、僕自身も自分を振り返るいい時間になりましたし、いろいろな質問を投げかけてもらい、あらためてじっくり考えるきっかけになりました。どうもありがとうございました。
奥村輝星さん
夏休みに行ったという沖縄での一枚。青い海と青い空に包まれ、いいリフレッシュができたそう。

(2022年11月30日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
もの静かな修行の歩は、輝ける証なり。
(燃えたぎるような使命感を胸に秘め、今は静かに社会を、人を、自分を見つめ、何が自分に必要なのかを考え抜く、何年一刻、刻み込むように鍛錬し続ける。まるでひとりの修行僧。日々蓄えたその力はいつ煌めいても自然に思える。)
 4年ほど前の奥村輝星さんは1期生の中、パワフルでエネルギーが背中から煙ときには光となって立ち昇っているようなリーダー的存在だった。その語り口は熱くて、鮮度があり説得力に満ちていたと思う。
 数年ぶりに奥村さんと会った。「あれ、昔と全く違う。穏やかで圧がないぞ」と思った。
 しかし、取材を続けるうちに、それが凄みを秘めた成長の証であることを深く理解した。
 彼は教員になり、子ども・生徒との関係をはじめ、理想と現実のギャップで自分の無力を感じる中、熱い使命感を傍らに置き、静かに俯瞰して自分を見つめることで、より子どものためになるように自らを変えていく日々を過ごし続けている。
 ワークセッションのグループワークを観察すると、彼は仲間や後輩の話をよく頷いて聴き、質問を整理して考えを伝える。ゆったりとしている。そして個人の意見だけでなく、そのテーマになっているヒトやコトにとってどうなのかという考えを述べる。気持ちに偏りがちなメンバーには現実を捉えたコメントを添える。今求められるだろう協働的リーダーシップそのものだと思った。「苦労したのだろうなあ」「本格派になったんだなあ」「渋いねえ」
 まだ続くだろう長い山道を力強い一歩一歩で踏みしめ歩む奥村さん。その先に到達するのは勿論「輝く星」。その日も遠くないと思う。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
人と関係性を築く過程の中で、相手との意見や考え方のギャップに悩むことがよくあります。
相手が子ども・生徒であった場合にも沢山あることでしょう。
「授業中に飲み物をのんでよいか」などは、その一例と思います。
春の集いのワークショップテーマにもありましたがどんなケースでどのように悩んだか、解決したとしたらその内容も含めてお送りください。
※今後、皆さんの応答はサイト上で公開しようと考えています。
 「名前は書かないで」という方はその旨付記してください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の記入フォームはこちらより入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
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