山嵜芽加汰さん
2023/03/31 UPDATE
山嵜芽加汰さん
2期生(2021年卒)
明星大学出身
埼玉県立特別支援学校(知的障がい小学部 6年担任)

毎日がトライ&エラー。それでも、
子どもと心が通った嬉しさは格別
 埼玉県の特別支援学校に勤務して2年目の山嵜芽加汰さん。高校時代から特別支援学校の教員を目指していた山嵜さんですが、実際に教壇に立ってみて、学生時代とはまた違う風景が見えてきているようです。特別支援教育の難しさと楽しさを感じつつ、子どもたちにまっすぐに向き合おうと奮闘しています。
- 今日はありがとうございます。まず近況から、教えてください。
 令和3年度採用で埼玉県の特別支援学校に勤務しています。勤務校は知的障がい児を対象とした特別支援学校で、小学部と中学部があります。児童数は150名弱で、教職員は非常勤講師も含めて70名程度です。以前は高等部もありましたが、年々ニーズのある子どもが増えていて教育の場として手狭になってきたので、平成28年に高等部を他校に移管し、今のかたちになりました。
 今年度は、知的障がい小学部6学年の担任をしています。クラスは児童6名に対し、教員が2名です。私が所属している6年生は学年全体で24名の児童が通っています。知的障がい児を対象としていますが、単一で知的障がいと診断されている児童は少なく、自閉症やダウン症を併せもつ子がかなり多いです。加えて近年、発達障がいといわれるADHD(注意欠如・多動性障がい)、LD(学習障がい)のお子さんも多いですね。
 特別支援学校の教員になった感想ということでは、基本的に思い通りにならないことが圧倒的に多いですね。通常の学校の授業ではニーズを満たせないお子さんたちが入学してくるため、自分が「これがいいかな」と思ったことでも子どもにカチッとはまることのほうが少ないので、日々トライ&エラーです。連続して失敗して失敗して失敗して、やっと一歩進むというぐらいの感覚です。あと普通の小学校ですと、ドッジボールや鬼ごっこをしたり、教員としゃべるのが大好きという子も多いと思いますが、知的障がい児の場合、障がいの特性によって教員との触れ合いが好きな子もいれば、逆にそっとしておいてほしい、必要なときにだけ関わってほしいという子もいて、本当に年度当初はゼロから関係を築かないといけない。マニュアルや虎の巻が一切ない状態で始まるので、そこがやはり難しいなと感じています。
山嵜芽加汰さん
校庭の風景。初夏から秋までは芝生が青々として気持ちよく、休み時間には子どもたちが元気に遊んでいます。
- 子どもとの信頼関係を築くのに、どうしている?
 児童との関係では、子どもの「好き」を知るところがスタートラインかなと思っています。いきなり「授業を始めるよ、今日はこれをできるようになろう」と言って「わかりました」と始めることができる子の方が少ないので、休み時間や授業外の時間で、アンパンマンが好きな子ならアンパンマンの歌を歌ったり、女の子たちなら、みんなでプリキュアの歌を歌ったりして、授業外の場所で関係を築いています。あと精神年齢的にはもっと低いお子さんもいるので、そういう子には手遊びとか触れ合い遊びとか、体をくすぐるとか、そういう関わりをしています。手遊びのような保育的な要素も多くなりますが、保育は教育の基礎にあるものなので、保育という道を通りつつ、最終的な目的地として教育に行きつくようにと考えています。
 教員になる前は教科を教えることに興味があったんですが、今は子どもと生きた関係を築くことが一番大事だなと思います。子どもは警戒心が強いし、知らない人はやっぱり怖いと思うんです。自分は結構身長が高いんですが、大男がいきなり「あれやれ、これやれ」と言ってきたら怖いと思うんですよね。今はマスクもしていて笑顔を見せづらいので、地道に地道に関係を築いて、子どもが「この人なら言うことを聞いてもいいかな」と思えるようになることが大事だと思います。将来社会に出た後にも支援が必要になる子たちなので、人に愛想よくできることもすごく大事で、そのためにはまず人を好きになる。「人との関わりっていいな」と思ってもらえることが重要です。
 勤務校では10年以上の経験がある先生方もいるなかで、自分は技能的にまだまだ未熟なので、足で稼ぐじゃないですけど、体を動かして子どもとの関係を築くということを今は頑張ろうと思っています。
- 子どもを叱ったり、怒ったりすることもある?
 それは毎日のようにあります。知的障がいのある子たちは、人の目を引くためにいたずらをしたり、トイレに行くといって教室を出てそのまま他の階に行ったりすることが結構あるんです。あとは感情の制御がうまくできない。教員からやりたくないことを指示されて、嫌になって人を押したり、物を投げたりすることも。自分のなかではそういう行動は絶対にダメだと思いますし、それを許容していくと「誤学習」として子どもに定着してしまう。そうすると社会で生きてくうえでも結果的にその子の不利益になってしまうので、そういうことを考えて叱ります。
 叱るときは、自分が怒鳴ってもあまり怖くないらしいんですよ(笑)。だから声の大きさや緩急をつけることで、「自分は真剣にこれを伝えているのだから、聞きなさい」ということを態度も含めて伝えます。子どもがむしゃくしゃしてプリントをパッと投げたら「それは片付けて。片付けるまで解放しないよ」という感じで、譲れないところは譲らないという姿勢を示すようにしていますね。
 あと話ができる子が悪い言葉を使ったようなときは、淡々と「なんでそんなこと言ったの? 今それを言う必要があった?」という感じで問いただして、「これがいけなかったよね、じゃあ次はどうしたらいいと思う?」と次に繋げる指導をしたりもします。
 ただ、こういう指導をすべてのことにしていると子どもも教員もしんどくなってしまうので、自分の中で許せるラインと許せないラインを作り、メリハリをつけるようにはしています。感情的に怒らない、怒りを表すとしても制御された怒りで、子どもを一瞬ハッとさせてその後は冷静に話をするように努めています。思ったようにできているかは、ちょっとわからないですけど(笑)。
- 保護者や、職場の先生方との関わりは?
 職員同士では、子どもの指導について担任によって温度差が出ないようにしています。特に特別支援学校の場合、担任が2人で片方が厳しい先生、片方が優しい先生だと絶対子どもたちは優しい先生の方に流れてしまうので。だから子どものことも雑談も含め、「こういうことがあったから、こう指導したほうがいいね」と連携、情報共有することで、担任2人の温度差が均一になり、学級経営や集団形成がしやすくなるのかなと思っています。去年もそうですが、今年度も親子以上に年の離れている先生と2人で組んでいるので、いろいろとノウハウを教わっています。でも2年目なので全部おんぶにだっこじゃいけないと思いまして、自分でできることをしつつ、連携や分業をするというスタンスでやっています。
 保護者との関わりでは、連絡帳で日頃から子どもの成長の様子をお伝えしています。面談などで保護者と話す機会は限られているので、連絡帳で「今日こんなことをやりました」「こんなことができるようになりました」「ニコニコ笑顔でした」と伝えると、保護者も学校でお子さんが楽しんでいる様子を知ることができますし、教員がしっかり見ているということも示せます。あとは話ができる子がおうちで「今日、山嵜先生とこんなことしたよ」と話題にしてくれたときは、「よしっ!」って思いますね。家庭で話題にしてくれた、嬉しいなっていう感じで(笑)。
山嵜芽加汰さん
児童の描いた絵をバックに、担任でペアを組む先生と。「小さなこともいつも共有しています」(山嵜さん)
- やりがいを感じるシーンを教えてください。
 児童が自分に対して信頼を示してしてくれたとき、児童と心を通わせることができたときに、やりがいを感じます。特別支援の子どもたちと関係を築くには、時間がかかるんです。今年も4月から関わってきて、子どもに「この人が担任で、お世話をしてくれる人」という認識ができるのが2学期の10、11月頃という感じです。IQ(知能指数)にして4、5歳の子もいるんですが、本当に1歳ぐらいの子もいるので、そういう子どもから自分に対してアクションがあると本当に嬉しいです。
 たとえば、去年からみている女の子ですが、知的障がいがあってすごく人見知りだった子がいます。その子が最近「山嵜先生、山嵜先生」と言ってくれるようになり、家庭か学童かでドラえもんと山嵜先生の絵を描いて、それを手紙として連絡帳に挟んで持ってきてくれました。ドラえもんは自分が好きで、よくプリントにドラえもんのスタンプを押していたので、それを学校外でも思い出してくれていると思うとやっぱり嬉しかったですね。手紙を受け取ったときは平常心を保って「すごく上手だね、嬉しいよ」と返事をしましたが、マスクの中はかなり表情が緩んでいました(笑)。
 もう一つはダウン症のお子さんで男の子です。その子は面白い子で頑固というか自分の軸がしっかりしている性格で、打ち解けるのに結構苦労しました。その子がこの間、学芸会の練習をしているとき、私は別の作業があって遠くから練習の様子を見ていたんですが、その子は練習そっちのけでずーっと私に手を振ってくれていました。山嵜先生も一緒にやろうよという気持ちだったのかなと思いますが、「かわいいなー」と笑いつつ「ちゃんと発表の練習もしてね」と思いましたけど。
山嵜芽加汰さん
児童が描いてくれた「ドラえもんとやまざきせんせい」の絵。楽しそうにニコニコ笑っている表情が印象的。
- それでは今、苦労していることは?
 児童に対して、適切な個別の手立てを考えることが難しいです。特に自立活動の個別課題は手探りという感じです。実は私が学生のときは、知的障がいの特別支援学校に授業時間としての自立活動はないのが一般的だったんです。卒業して教育現場に出たタイミングでそれが変わって、授業として45分か1時間、自立活動をするようになったので、その活動の内容を考えるのがなかなか大変ですね。
 特別支援学校も学習指導要領はあるんですけど、普通の小学校と違って「この時期までにこれをやりなさい」という明確で具体的な目標がなく、その子に今何が必要で、将来この子が社会に出ることを想定して、今の時期にこれをやったほうがいいというビジョンをもって教育に当たらないといけないので、そこが難しさでもあります。
 基本的には子どもの実態を踏まえて、担任同士で話し合って教材を決めていくことが多いんですが、教員が自ら教材を作って使うこともよくあります。たとえば、算数でキャンディの数で「多い・少ない」がわかる教材を作ったりもしました。そういうアイデアや教材自体をベテランの先生からお借りしたりして、少しずつアレンジしながらやっています。
 それから、仕事の効率的な取り組み方も課題です。教員の仕事にも時間をかけないといけない仕事と、スピード重視で効率的にこなさないといけない仕事があります。そこをうまく分けないと時間通りには終わらないです。私はまだ2年目で、1人で悶々と悩んでいても仕事は進まないので、そこは先輩方に伺ったり相談したりしてやっています。本当は人に話しかけるのは苦手なんですけど。人の時間を奪うのが申し訳ないなと思ってしまって……。でも相談をすれば、皆さん親切に教えてくださいます。
山嵜芽加汰さん
山嵜さん手作りの算数の教材の一例。キャンディの数で感覚的に「多い」「少ない」を学びます。
- 今後に取り組みたいこと、休日の気分転換法などを教えてください。
 将来的には、知的障がいのある児童生徒の進路指導に携わりたいです。
 実は、私は中学生のときに知的障がいのある人と仲良くしていて、その子は中学卒業後に特別支援学校の高等部に進学したんですね。それがこの分野に私が興味を持つきっかけになりました。その後、私の母が一般企業で特別支援学校卒の生徒さんに対応する活動をしていて、知的障がいの支援学校の文化祭に行く機会がありました。そこで生徒の作った木工やお菓子を販売する作業販売というものを見て、私もこういう生徒の将来の仕事に直結するようなことを教えてみたいなと思っていたんです。それで今は小学部ですが、将来的には高等部に行って作業学習といわれる椅子づくりやお菓子づくりなど、職業につながる指導をしてみたいと思っています。
 休日はドライブなど、出かけることでリフレッシュしています。温泉に行ったり、甘いものが好きなので甘いものを食べに出かけたりとか。埼玉県内も温泉は結構いっぱいあって秩父市とかが有名です。あとは大学が近かった八王子市とか青梅市、奥多摩のほうも好きですね。
 奨学生OBOGに聞きたいことでは、先輩方の苦悩やそれを乗り越えるための気持ちの切り替え方をお聞きしたいです。私自身メンタルがかなり弱いところがあるので、仕事がうまくいかないとすぐに落ち込んだり、帰り道も本当に沈んだ顔をしながら帰ることが多いんです。そういう場合に、校門を出たら仕事以外のものに気持ちを向けるとか、何かうまい切り替え方があれば教えてほしいです。皆さんと交流する機会があれば、いろいろとお話したいですね。
山嵜芽加汰さん
休日には愛車でドライブをするのが趣味。「温泉や自然豊かなところに出かけるのが好きですね」(山嵜さん)

(2022年11月24日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
何より「真摯」
(個性それぞれに真摯に向き合い、人を好きになる気持ちを丹念に育み、成長に導く)
 山嵜さんはお話の中で活きた言葉を贈ってくれた。「子どもと生きた関係を築くために」
 「その子の好きから入って信頼を捉え、人を好きになることを覚えてもらう」そのために
 「日々地道にトライ&エラーを積み重ねている」のだ。素朴で、少々照れた感じの笑顔で語るその言葉が心に沁みた。それは声の大きさ、姿勢、態度の工夫に始まり、教材のつくり込みにも貫かれている。そのひたむきさはまさに真摯。
 彼は多弁でなない。自称引っ込み思案と語るくらいである。しかしそれだけに彼の子どもを思う大きくて広い気持ちを込め、創意工夫を重ねた言葉は伝わるのだろう。真摯さは障がいをもつ子どもにとって最も大事な信頼の要件なのではないだろうか。
 山嵜さんのお話にある「ダウン症の男の子」や「ひっこんでしまう子」が彼を好きでたまらない気持ちを贈るシーンは、まさにそれを証明しているのだと思う。
 マネジメントの神様といわれるピーター・ドラッガーさんは「リーダーに必要な資質は『真摯さ』である。とくに人事(ひとのこと)に関わる決定の唯一絶対の条件である」と説く。
 きっとトライ&エラーの中から様々な学びを得て、気が付いたら高度な知見や技術に至っている。そんな風に山嵜さんは成長していくのだろう。
 今を大切に、丹念に頑張り続けて欲しいと心から思う。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
皆さんは真摯さを持った人材と思います。
ただ、いつどのようなことに対して真摯になるのかは
個人差があるのではないでしょうか?
そして、真面目で熱心という辞書の説明を超えた意味をもつ言葉とも言えます。
これも個人差がありますね。
皆さんが「真摯になるとき」皆さんにとっての「真摯の意味」
書いて送ってください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
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2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
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