普久原怜音さん
2023/03/09 UPDATE
普久原怜音さん
1期生(2021年卒)
関西学院大学出身
大阪府貝塚市小学校(3年担任)

難しいことをいかにおもしろく伝えるか。
「一日一笑い」が目標です!
 自分の担任クラスの教室から、インタビューに応じてくれた普久原怜音さん。財団のイベントでもいつも明るいムードメーカーの普久原さんですが、小学校教諭として今年度に初めて担任をもち、大好きな子どもたちと全力で向き合っていこうというエネルギーが画面越しにもビシビシと伝わってきました。
- 平日夜のお疲れのところ、ありがとうございます。近況を教えてください。
 2022年4月から大阪府貝塚市の小学校に勤務し、3年生の担任をしています。講師経験を入れると2年目ですが、講師のときは少人数担当で授業を主にしていたので、担任は初めてです。3年生の子どもたちはめちゃめちゃかわいくて、毎日楽しいですね。初めて担任をもつ子どもたちだし、この子たちのためにしてあげたいという思いが強いので、それで仕事が増えて帰りは遅くなるんですけど、子どものためなので苦にならないです。
 勤務している学校は6年生のみ4クラス、その他の学年は3クラスです。全児童640名ほど、教員数50名という規模です。
 だんじり祭りも地域に存在していて、小中学生が高校生とか上の世代の荒っぽい行動に影響を受けることもあってとても心配です。高学年になるにつれて先生のことを信頼しなくなる(先生のことを好きな子があまりいない)傾向があるので、たくさん子どものことを思うことで子どもたちを変えていきたいと思っています。
 今日も校庭で遊んでいた3年生がブランコを指さして「6年生が2人乗りをしている」と伝えてきました。そこで僕が「降りなさい」と強く言っても反発して聞かないと思うんです。だから「3年生も見ているから、降りてほしいんやけどな」「いい見本になってほしい」と言ったら降りてくれたんで、それでいいと思うんです。子どもの中には、おうちであまり愛情をもらっていないとか、難しい背景があることも多いです。でも間違っていることは間違っていると言わないとその子たちは気づかない。正しいことを教えながら寄り添ってあげる大人がいないといけないと思います。
普久原怜音さん
担任をしている教室からの風景。「毎日この朝日を浴びて、子どもたちを迎えています」(普久原さん)
- クラスの子どもとも関係づくりは、どのように?
 子どもとの関係づくりの前に僕は、クラスでの規律を初めから厳しくしています。
・授業中席を立つとき(ゴミを捨てる、鉛筆をけずるなど)手を上げる(勝手に立たない)
・あいさつはしっかり
・話すときと聞くときのメリハリをつける
・発表している人に対して必ず反応する「同じ」「なるほど!」
・朗読は本を立てて読む
 これらのことが土台となって授業や安心安全な学級経営が成り立つと思います。
 関係づくりということでは、子どもとは外で全力で遊ぶようにしています。昼休みか授業の間の20分休憩のどちらかは、できるだけ外に出て遊んでいます。ほとんどは鬼ごっこですが、僕が外に出ると子どもたちも外に出ることが多く、去年まで外に出ていなかった子も来るので、遊びながら子ども同士がもっとぶつかり合い、互いに繋がってくれたらいいなと思います。
 あと「一日一笑い」を何よりも大事にしています。僕は、子どもが学校をおもしろいと思ったら来てくれると思うんです。僕は大阪人というのもあって結構テンション高いし、盛り上げ隊長みたいな感じなんで、授業中ももうどこで笑かすかと思っていて(笑)。そういうのはいらないという先生もいますけど、僕は授業が楽しくなかったら受けたくないし、学校生活のなかで何か一日に一つでも「あの授業のここの部分、先生おもろかったな」と思って帰ってほしいと思っています。だから子ども一人ひとりが笑ったかどうか毎日見ていて、どんな子も笑える場を作れるように意識しています。
 例えば3年生の社会の授業の導入で、子どもたちにいろいろな仕事の例を出させていて芸能人、美容師といった仕事の中でデリバリーというのが上がって「デリバリーって知っている?」と声をかけたら知らない子も多かったので、出前館のCMの歌を全力で歌って踊り、みんなを爆笑させました。国語の時間では、自分の好きな一文を選んで「ドボン」をしてゲーム感覚で学習しました。他にも言い方一つでおもしろくなったりするので、表情や伝え方も意識しています。参観や懇談では保護者から「子どもが毎日授業楽しいって言ってます」「先生大好きなんです」「学校楽しいって子どもが言うようになりました」とおっしゃってくれます。
普久原怜音さん
昨秋に開催された学校の音楽会での一枚。普久原さんの得意のピアノで、子どもたちの演奏を盛り上げます。
- それでは、保護者や職員間の関係はどのように?
 保護者は「おもしろい先生」と言ってくださる方が多いので、そう言ってもらえるのが僕のやりがいです。それと懇談も、大好きな子どもの話をおうちの人と話せる機会なので僕は好きです。でも、めっちゃ話が長くなっちゃうんですけど(笑)。
 あと、子どもが良いことをしていたりステキだなと思ったことがあったりしたら、保護者に電話をして報告をすることもあります。「こんなことですいません、電話して」「僕は嬉しかったんで、おうちでほめてあげてください」と言ったら、次の日に子どもから「先生、電話ありがとう」と言われました。保護者が子どもに僕の言葉を伝えてくれれば、それで子どもとも繋がれると思うので。
 職員同士の関係でいうと、今の学年は担任が3人で中堅の女性の先生が2人と僕です。学年で交換授業を実施して、自分のクラス以外の学年の子どもの様子を把握し、共有しています。また何かあったときの子どもへの対応・保護者対応は一人で進めるのではなく、必ず学年で相談して対応しています。僕は初任だし担任も初めてなので、何かあったときに「クラス全体で共有したほうがいいんじゃないか」とか、「個別でこうやって聞いていこうと思うんですが、いけますかね」と確認しています。必要なら授業中でもリアルタイムで「話していいですか」と声をかけられる関係なので、ありがたいなと思います。
- 教員をしていて、やりがいを感じる瞬間は?
 やっぱり子どもの笑顔が見られたとき、子どもの成長や変化が見られたとき、子どもならではの考えが出たときには子どもってかわいいなと思うと同時に、やりがいを感じますね。僕は特に道徳の授業が一番好きで、「そんな考え方するんや」「こう考えるんや、子どもって」というのが楽しいです。
 先週は校外学習でみかん採りがあり、小さいみかんなので「27個食ったー」「めっちゃおいしい!」と言いながらアピールしてきました。その子どもたちの様子、表情がとにかくかわいいのでiPadや携帯でたくさん写真を撮って、学級通信を作ったりしました。
 子どもの成長ということでは、なかなか点数を取れない男の子がいて、放課後に残って一緒に勉強しているんです。その子は本当に勉強がしんどいのですが、一緒に残って勉強しているうちに高得点も取れるようになってきました。他にも、僕は漢字ドリルと計算ドリルは直しを徹底しています。直しのある子はホワイトボードに名前を書いて、手直しして提出したら自分で消すというのをやっていて。それでやり直しがいっぱいだった子も、直しのない日が2日続いたりするようになり、その子自身の成長が感じられ、良かったなと思いました。去年の担任の先生に伝えたら「去年はそんなことなかったのに、すごいな」と驚いていました。
 僕は漢字の指導とかもめっちゃ厳しいんです。何回も何回もやり直して「もう1回書いて、次に間違ったら10回書いてな」って。たまに子どもが「だるい」とか「面倒くさい」というと「誰が間違ったん?」「先生も直しなんてしたくない、最初からちゃんと書いてきてほしいんやけど」って言っています。だから、ただおもしろい先生というだけでなく、切り替えはきちんとして締めるとこるは締めるという感じです。
- 苦労していることは、ありますか?
 ちょっと気になる子の児童Aがいます。Aはやることがとにかく遅く、連絡帳を出すのも遅くて帰りの会で書いていたり。それでまわりに「A、遅いって」と言われることが多く、イライラするんだけど「うるせえ」としか返せない。Aは自分にもイライラするんです。机の中に物が入らなかったり、鉛筆が落ちたりすると「なんで落ちるん」「なんで入れへんの」と興奮してワーッとなってしまったりすることも。さらに人に鼻くそをつけたり、女の子を追っかけ回したりして、相手は嫌がるんですがその気持ちがわからないんです。
 そこで僕は最初、Aだけ遅く、やっていないことを強く言ってしまっていたんです。「何でやってない」「今、何する時間?」と言っていたら、1学期の終わり頃に子どもがそれを真似して「A、やれよ」「おっそ」とか言うようになってしまって。僕はそのときに「やってしまった。僕の指導の仕方が悪かったな」と反省しました。
 それで、みんなの前で指摘するのではなく、Aを小声で呼んで「もうちょっと早くできてくれたら先生嬉しいな」「いつぐらいやったらできる?」と言うように変えました。それと最近はAが何を言いたかったのかを言語化させるようにしています。「うるさいじゃなくて、なんて言いたかったの」と聞いて、「そっとしておいてほしかったの、1回でいいって思ったの、言ってほしくなかったの、どれなの」と問いかけて、正しく気持ちを表現できるように促しているので、これは3学期に向けて続けていきたいです。
 今はA専用のスタンプラリーを作って、今週は5日間連続、昼休憩までに宿題も全て出せたらスタンプを押す、というのもやっています。「スタンプが5日間そろったから今日はシールあげるわ」と言ったら、「やったー!」と喜んでいました。
- それでは今後の課題、取り組んでいきたいことは?
 子どもによって得意や苦手ってあると思うんです。Aのように用意するのが苦手な子もいるし、授業中にどうしても眠くなってしまう子もいる。それぞれ得意不得意があって当然だと思います。でも僕はこれまで苦手な子(たとえば弱者とする)を、早く用意できる得意な子(強者)に合わせろという指導をしていたと思うんですね。簡単に言うと「みんなもやっているんだから、おまえもこっちに合わせろよ」という言い方をしていたんです。
 最近も授業の中で、端の列の女の子がいつも小さい声なんです。それで「反対側の子、今の声で聞こえるか?もう一回言って」というやり取りをしていて、それを見た指導教諭に「うまく声を出しにくい子に対して、ちゃんと発言できる子たちに合わせろという指導をしている」と指摘されたんです。僕は「うわ、またやってしまった」と思って。
 弱者を強者に合わせるのではなくて、苦手な子に対して「手伝ってあげようか」「大丈夫?」という声かけをしたら、苦手なことを強制せずにすむし、みんなも得意や苦手があるよねという話ができます。声の小さい子の発言のとき、実は他の子がうるさかったんです。だから、まわりに「今あの子の声がこの状態で聞けると思う?」「みんなで静かにして聞いてあげようや」と声かけして、苦手な子に対して得意な子が合わせられるような環境を作りたいと思っています。
 あとは、ほめ言葉のバリエーションを増やしたいです。僕は語彙力が少ないので、「すげえな」「ようできてるな」といった言葉は出るけれど、やっぱり指導教諭に言われたのは、低学年だから「すごい」で喜ぶけれど、高学年になると「何がすごいか、何が良かったのか」まで伝えてあげないといけないと教わりました。
 特にこれから増やしたいのが「あなたのおかげで、こんなに変わったよ」「こうしてくれたから良くなってきたよ、ありがとう」という具体的な行動をほめていくこと。先ほどの声が小さい子のケースなら、ただ単に「静かにしてくれてありがとう」だけじゃなく、「あなたが静かにしてくれたおかげでみんなが聞けたし、しっかり授業も集中できたよ、ありがとう」と行動をほめていきたいです。僕は授業や板書には自信があるのですが、今後はそういうほめ方をもっと勉強していきたいなと思います。
普久原怜音さん
(上)普久原さんの誕生日にクラスの子どもたちがサプライズで歌をプレゼントしたそう。「みんなの笑顔がかわいい!」(下)黒板は子どもたちが書いたお祝いメッセージでいっぱいに。「良い思い出になりました」
- 気分転換の方法等について、教えてください。
 気分転換は、やっぱりピアノです。ピアノは幼稚園から18年くらいやっていて、今も習っています。一人暮らし始めたときに40~50万ぐらいの電子ピアノを買ったので、気分がのったときに弾いています。ジャンルはクラシックがメインです。でも楽譜があればどんな曲でも弾けます。絶対音感はないんですけど、でも何回か弾いたら手が覚えちゃうので。
 あとは、学年の先生たちと行事ごとに打ち上げをしたり、定期的にご飯を食べに行ったりします。よく一緒にゲームをしているのは大学の友人ですが、友人たちも大阪の別の市や大分県で教師をやっているので、教員仲間だからこそ言えること、しんどいことも話せるので助かります。あとは近くのカフェに行ったり、旅行に行ったりもします。最近の例では友人と夏休みに石垣島に行って、「来年は韓国行こうや」と話しています。
 最後に奨学生やOBOGに伝えたいことは、「教員になって、これは人には負けへんぞ」という武器を持つことです。やっぱり自分の強みはこれでやっていこうというものを持っていないと、ふとしたときに「全然あかんな自分、向いてないんかな」ってなると思うんです。僕はいかに難しいこともわかりやすくおもしろく授業をするかに重きを置いて学級経営しているし、そういう軸がなかったらきついなと思います。自分自身が楽しく働くためにも、そういうものを持っておくといいと思っています。
普久原怜音さん
休日の過ごし方もアクティブな普久原さん。「夏休みは大学時代の友人と石垣島でバカンスしてきました」

(2022年10月28日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
全力で、小まめ、繊細、大笑い。
(自分の隅々まで気づいてくれて、嬉しさと喜びを沸かす人を、子どもは愛して止まない。)
 取材後5分、ひょっとしてこの人は凄く生真面目なのではと驚き、15分くらいでその話が実はすごく重みのある中身をもっていることがわかり、ワクワクしてきた。そして、子どもに全力で向き合うあまりの失敗に即反省する彼の言葉と仕草に、彼が大切にしている今日の「ひと笑い」が沸き起こった。
 普久原さんは、小まめに子どもと接する中で、ひとりひとりの長所も苦手も、抱える問題も察知する。先輩方の温かい指導も得て、ネガティブな物言いや上から目線の言葉は努めて使わなくしている。それは子どもの成長は、嬉しさと喜びの発動によってもたらされるという熱い信念があるからだろう。だから彼は繊細な感性を使い、子どもの気持ちの変化を捉えた「やる気起こしのことば」を贈る。きっとそれが子どもは嬉しくてたまらなくなるのだと思う。
 溜りにたまった嬉しい気持ちが子どものお腹から沸き起こって爆発する大笑いのエンディング。こんなことが一日一回保証されている授業があったら、どんな子どもだって学校を好きになるだろう。
 普久原さんは音楽の才が豊かなひとである。音楽を奏でる人は、言葉のコミュニケーションにおいても、その感性の抑揚を豊かに使うのだと改めて思わされた。
 これからもきめ細やかな音のある言葉を奏で続けて、ラストは大笑いの拍手で終わる授業を続けてほしい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
人間の個性の中心にあるものは
そのひと特有のリズム・スピード・タイミングだそうです。
皆さん、自分のヤル気を起こす音やリズム、スピードを
10分くらい書き出してみましょう。
そして気づきをお寄せください。
記入フォームはこちら >
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の記入フォームはこちらより入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
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