桑野怜奈さん
2023/01/31 UPDATE
桑野怜奈さん
1期生(2021年卒)
立命館大学教職大学院出身
神奈川県立高校(1年担任)

「授業が楽しい」という生徒の
言葉に励まされています
 OBOG会でも中心的な存在であり、夏の交流会のOBOGプログラムでも司会を務めてくれた桑野怜奈さん。現在は神奈川県の公立高校に国語科教員として勤務しています。一見、授業も他の業務もテキパキこなしていそうなイメージの桑野さんですが、初任時の苦労話も含めて、教員2年目の今の思いを率直に話してくれました。
- 夏の交流会はお疲れさまでした。あらためて近況から、お願いします。
 昨年度、神奈川県教員として採用されて今年度で2年目です。勤務先は神奈川県の公立高校で、教科は国語です。今年度から人生初の担任を経験しています。担任のクラスは高校1年生で、生徒は30人。全校の生徒数は800人程度ですが、学校全体の男女比が女子7、男子3ぐらいで女の子が多く、とてもガッツのある感じです。
 授業は、1年生は新カリキュラムの「現代の国語」「言語文化」、それと旧カリキュラムの2、3年次相当の「現代文A」を受け持っています。勤務先は単位制高校なので、現代文Aのクラスの中にも2年生と3年生が一緒にいます。理系科目では1年生から3年生までが同じ基礎科目を取っている授業もあったりします。
 通常の学年制の学校と単位制高校では、そもそも時間割が違います。学年制だと1年1組はこの時間割というのが決まっていると思いますが、単位制高校は一人ひとり全部時間割が違うので、そこはかなり大きい違いかなと。あとは必履修科目といって、絶対に取らなければいけない科目と、自由に選択できる科目があります。卒業要件に必要な必履修科目をちゃんと組み込んでいるかどうか、生徒の時間割のチェックをするのも担任の業務です。履修の確認はとても大切なので、担任と教務で二重チェックしています。
- 生徒とのコミュケーションはどのようにしている?
 授業で受けもつ生徒も、担任している生徒も「学校に楽しく来られるように」というのを目標にしています。授業では、単位制で混合クラスなので、生徒はお互い知らない人と毎回授業を組むことになるので、お互いを知るためにもグループで交流させています。グループワークをやらせて、私は一つひとつの班に声をかけたり、一緒に入って生徒の様子を聞いたりしています。教員の関わりとしては、誰かが困っていたら「それってこういうこと?」と尋ねたり、「もうちょっと詳しく教えて」と質問する力をつけさせることを意識しています。全体として、人とのコミュニケーションが好きな生徒が多いので、人の話は聞けるのですが、ただ共感して終わってしまうことが多いので、お互いに質問したりしてもう一歩深掘りする力をつけようね、と話しています。グループの場ではなかなか話せない生徒に対しては、授業終わりに個別にちょっと話を聞いたりもします。
 あとは、生徒が安心して話せる雰囲気や環境を大事にしています。私と一緒に着任された方で教育委員会から戻られた先生がいて、その先生が初任研の研修のグランドルールとして、「ここは安心安全なシェルターで、自分のことを安心して出していい場だよ」と必ず説明をされていました。だから私も生徒に対して、自分の素直な思いを出していいんだよという姿勢を示せるように心がけています。
桑野怜奈さん
毎週1回のロングホームルームの際に生徒に書かせている「先生、あのね」という三行日記の用紙。「もともとは関西でよく行われているもののようです」(桑野さん)
- 授業を楽しくするコツというのはある?
 私が初任のときの指導教員が、生徒同士が交流したくなるような質問をワークシートに混ぜ込むのが、とても上手な方でした。国語でも授業では、教科書の問いに対して答える活動が中心になりがちですが、それを指導教員の先生は、自分の生活に結びつけて「自分だったらどうだろう」とか、「周りの人が何を書いたのかな」と気になるような質問を上手にされていました。私もそれは面白いなと思って、授業に関する質問と、その教材に関係して生徒が自分のことを話せるような質問を入れるようにしています。
 授業の進め方も、起伏をつけるようにしています。実は昨年度は初任で、授業をするだけでいっぱいいっぱいで、生徒から「雑談をしてくれ」とコメントが入りました(笑)。私としては雰囲気柔らかく、雑談っぽい要素も入れているつもりだったんですけど、生徒からしたら、詰め詰めな感じだったみたいで。2年目になって少し余裕が出てきて、雑談的なことも入れられるようになってきました。たとえば、古文では京都の題材があるので、自分が撮った京都の写真を見せたりとか。うちの学校は90分授業なのですが、最近になってようやく授業のペース配分がつかめるようになりましたね。
 それと、夏の交流会のOBOGのグループワークの司会でもやりましたが、授業でグループワークをするときは毎回アイスブレイクを入れます。何か順番を決めるようなときは、抽象的な質問を投げたり、あとは見た目で「服装がいちばん夏っぽい人から時計回り」とか、手相の生命線の長さとか、生徒同士がコミュニケーションを取りたくなるようなネタを振っています。夏場は授業中の水分補給はOKなので、「水分補給のついでに、水筒が一番大きい人から」とか。ネタ集めのために、ネットでめちゃくちゃ検索しています(笑)。
- 保護者や職員同士での関わりは?
 保護者とは、こまめに連絡を取っています。単位制の学校で履修が厳しく、欠席が増えると報告をしないければいけないので、そのときに電話で生徒の様子を聞いたり、普段休まない子が休んだときには電話連絡をして体調を確認したりします。あとは、生徒と保護者が話せる機会を作ろうと思っているので、夏休みに「1日だけでいいから絵日記を描いてきて」と課題を出して、保護者にもコメントをつけてもらいました。
 教員同士の関係では、私は担任が初めてなので、副担任や学年主任の先生とはできるだけお話するようにしています。欠席の通知は各担任の先生にしないといけないので、そのときに自分から生徒の情報を聞いたり、伝えたりします。うちの学校は、担任クラスの生徒でも週1回のホームルームでしか会えないんです。授業をもっていなければ情報が圧倒的に不足するので、自分から情報を取りに行かなければいけない、というのはありますね。
 私は保護者や先輩教員と話すときも、特に緊張はしないほうです。人見知りをしないので、誰とでも話せるほうだと思います。昔から人前に立つのが好きなタイプで、生徒会や児童会も積極的にやってきました。人前に立つのも抵抗はなく、「どうしてそんなに緊張しないの」とたまに聞かれますが、私も緊張しない理由はわからないです(笑)。人前で話すときは、自分が言っていることを自分でも聞きながら話すように意識していると、あまり緊張しない気がします。あと発表や面接などはちゃんと準備をします。もともとおっちょこちょいで、よくテンパったりはするので、ちゃんと俯瞰して自分を見られるようにということは意識します。予想外の事態に対応するのは、意外と苦手ですね。
- 教員として、やりがいを感じるときは?
 自分の授業を「楽しい」と生徒が言ってくれるときです。前期が終わり、生徒にアンケートを書かせたところ、たくさんの生徒から「授業が楽しい」とコメントがあってとても励みになりました。具体的には、「現代の国語」で自分の将来の夢を調べてその職業を人事担当者になりきって紹介する、という授業をしました。生徒は自分の将来の夢の職業になりきって発表し、それに対して友達から、Googleのスプレッドシートで無記名のコメントをもらったりしました。それは「働くことの意味」という題名の教材で、筆者の考えている働く意味はこのようなことだけれど、自分にとって働くとは何かとか、なぜ働かなきゃいけないのかと生徒に自問自答させて、職業紹介をしながら、自分にとっての働くことの意味を紹介してね、という2本柱でやりました。
 生徒が発表した職業には、結構ユニークなものもありましたね。航空管制官とか日本語教師とか。亡くなったおばあちゃんが将来の夢を叶えて欲しいと言っていて、自分は今その夢を追っていると発表した子もいて、私も聞きながら泣きそうになりました。そういう深い話をしてもいいという空気感ができたのが、よかったなと思います。
 私はキャリア教育にも興味があって、生徒に働くことの意味を考えさせると、お金とかやりがいといった答えが出てくるんですが、「そもそもなんでお金って必要なの」「やりがいってそもそも何で大事なの」と個別に質問していくと、生徒たちも「え、お金って大事じゃないの?」みたいになって、そういう時間は本当に楽しいです。
桑野怜奈さん
今年度から「一人一台端末」が実施されており、自分自身もICT教育を意識しているという桑野さん。画面は「現代の国語」で「働くことの意味」という教材を使った際のもの。
- 苦労していることや悩みは?
 失敗はたくさんあります。昨年は「何がわからないのかがわからない」ような状況でパニックになったことも。今年度は2年目で学校には慣れてきたものの、まだわからないことが多く、担任としてホームルームで連絡事項を伝えたりしますが、自分でもよくわかっていなくて連絡事項を伝え間違え、生徒を振り回してしまったこともあります。それは大いに反省だなと思っています。
 あとは校務分掌で、自分が担当している業務がうまく回らず、他のことにも影響してしまうことがあります。私が校務分掌でやっているのは「研究開発」です。学校説明会と授業改善、総合的な探究の時間がメインで、私は授業改善と総合的な探究の時間を担当しています。そこで難しいなと思うのは「ここまでが自分の仕事で、ここは人に頼もう」という線引きが全然わからないこと。「それは他の人に頼んだらいいでしょう」と言われたり、逆に「いや、それは自分でやらなきゃ駄目でしょ」と言われることもあったりして、自分なりの線引きと、他の人にとっての仕事の振り分けがまだよくわかっていないですね。
 校務分掌は昨年も同じ担当でしたが、今年もやっぱり大変ですね。単純にいって業務量が多いです。授業は教壇に立つのは自分しかいないからいいですけれど、校務分掌のほうは教員同士で協力して仕事をやっていくところが難しいなと思います。多くの教員の悩みは授業よりも、部活か分掌かなと思います(笑)。
桑野怜奈さん
「私の担当教科の国語科準備室が校舎9階にあるので、日が沈むと横浜のきれいな夜景が見えます」
- 今後に取り組んでいきたいことは?
 今後の課題は、やはりホームルーム経営です。だんだんと生徒と私がお互いに慣れてきているのですが、私が担任としてまだまだということを生徒もわかっていて、私がやってほしいことに対して生徒が「それは違うと思います」と言うこともあり、距離感がつかめない子もいます。私は生徒を責めているわけではないけれども、生徒はそういうふうに受け取ってしまって、私と距離を置きたいと思う子もいるようで、やっぱり距離感の詰め方が難しいなと思います。幸い、保護者とはどのご家庭とも良好な関係を築けているので、おうちの方とも協力しながら、ホームルーム経営をしていこうかなと思っています。
 あと、うちの学校は3年間担任が変わらないのでも特徴で、今後は進路指導にも関わっていきます。生徒たちの進路はほとんどが4年制大学です。私立と国公立、両方ありますが、私立大学がメインになってきます。難関大学への受験だけに熱心という学校ではなく、生徒がそれぞれに個性を伸ばし、希望の進路に進めるように支援するのが中心です。進路指導も含めて、保護者にも協力してもらいながら、ゆっくり時間をかけて、高校生という多感な年頃の生徒たちに向き合っていければと思います。
- 気分転換の方法と、OBOGへのメッセージをお願いします。
 休みの日はひたすら寝ています。いちばんのストレス発散が寝ることなので、平日も睡眠はしっかりとるように心がけています。趣味は特にないのですが、ここ数年のマイブームとしては、ゲームやUFOキャッチャーにハマっていて、今は部屋がぬいぐるみですごいことになっています(笑)。
 OBOGとしては、私は財団の奨学生になったことで、非常にたくさんの学びと出会いがありました。社会人になっても「タテとヨコのつながり」があるのは非常にありがたいなと感じています。私は福岡出身で大学は関西にいて、それから就職で関東に来てもやっぱりまだつながりがあります。いろんな地域でつながりができたところが奨学生OBOGならではの強みだなと思っています。財団のイベントで勉強させていただくときも、中高の国語科だけでなく、小学校や特別支援の教員もいて、違う観点で教育を見直せるのはすごいことだなと思います。
 今後の希望としては、新型コロナ感染症が落ち着いたら、純粋なご飯会をできたら楽しいだろうなと思います。フランクに話せる機会と、ちゃんと勉強するための機会と、どっちもできるようになったらいいですね。そのメリハリがあるのも奨学生やOBOGの特徴だと思うので、いろいろな形で楽しく交流ができたらと思っています。
桑野怜奈さん
文化祭のクラスの展示物のところで記念撮影。「フォトスポットとして生徒たちが段ボールで作りました」

(2022年9月28日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
何よりずっと自然体
「気がついたら、すっと入ってきて滑らかにトーク。ふと気づくとセンターに位置している」
 高校時の同窓生で、ファッション誌の女性編集長と一緒に仕事をしたときのこと。変わらず気取りなく自然体。語る中身は凄くもっとも。そもそもの目的は何かを滑らかな口調で話す。一方、わからないことは「まさかそんなことも知らないの?」というようなことも軽く年下に聞いてしまう。ときに「よくもまあそこまで・・」と反論する。しかしなぜか皆さんにこやかに応対している。そして彼女のファンなのだ。
 「世の中にはなあ、爺さんから赤ん坊、子犬まで『この人は傷つけてはならぬ』と思ってしまう人が存在するのだよ。」母校の先生は彼女を評してそう語ったものだ。
 私には桑野さんもその1人のような気がするのである。
1)奨学生の催しにて 立ち姿が自然体。すっと現れると皆心地よい表情になる。
2)外連味なし よりよく思われたいといった背伸びや打算がない。素のままありのまま。
3)本気だ!! 本心からそう思って聞いている。 心の底と意見が同じくらい。
4)一生懸命である。一生懸命ゆえの行動であると、子どもにも見て取れる
5)失敗したこと出来ないこと悩んでいることを、滑らかにシェアしてくれる。
 要するに自然体を貫いているのだ。なるほど件の女性編集長と重なるわけである。
 きっと大切な存在と思う人を多く得るはずだ。取材の中で、多感な時期の生徒が距離を置くというようなケースが語られたがきっと桑野さんの「素のままの一生懸命さ」で乗り越えると思う。
 これからも自然体で頑張って欲しい。輝いてほしい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
 桑野さんをして悩ませる、高校生という多感な時期中学生から高校生は変化のレベルもスピードも凄いですよね。
 もちろん小学生時代もいろんな変化と対応があると思います。
 傷つけてしまった、怒らせてしまったなどの失敗談でもこういう風に修復したという乗りこえや成功体験などあると思います。
 皆さんのこういう体験、送っていただけませんか?
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の記入フォームはこちらより入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
コピーや転送、対象外の人の閲覧は、厳禁とします。