水小瀬あおいさん
2023/01/19 UPDATE
水小瀬あおいさん
3期生(2021年卒)
広島大学出身
広島県特別支援学校(小学部2年担任)

子どもに「伝わったか」を推し量り、
丁寧な関わりを心がけています
 3期生の水小瀬あおいさんは、広島県の特別支援学校に勤務して2年目になります。1年目に比べれば慣れてきたとはいえ、慌ただしい日々が続いているようです。言葉を選んでインタビューに応じながら、今感じている迷いや自分自身の課題についても率直に語ってくれました。一歩ずつ着実に、自分のペースで歩んでいる水小瀬さんです。
- お元気でしたか。近況から教えてください。
 令和3年4月から広島県の特別支援学校に勤務しています。本校は聴覚障がい、知的障がいという2つの障がい部門を有する特別支援学校で、幼児から高校生までの子ども186名、教職員133名が通っています。学校行事は障がい部門を超えて合同で行い、共に学ぶ環境があります。近くに工業高校や大学等がたくさん隣接している地域で、学校のまわりでいろいろな制服の生徒や学生を見かけます。
 私は現在、知的障がいのクラスの児童をみています。昨年は小学部1年生の副担任で、今年は小学部2年生の正担任をしています。クラスは6人学級で教員が2人。私より経験年数の長い先生が副担任でついてくださっています。
 実際に教員として働いてみた印象は、いろいろな業務があってめまぐるしく、あっという間に何時間も過ぎていく印象です。児童対応以外の学校の業務もありますし、授業作りも頑張ればどこまでも深められるというか、こだわればこだわる箇所はいっぱいあるので、いつも「これで大丈夫だったのかな」と思いながら過ごしています。都度、副担任の先生と相談しながら、私が「こんな授業をしようと思っています」と伝えると「それならこういうやり方があるよ」と教えてくださるので、今のクラスの子どもに合わせたやり方を考えながら授業や活動を行っています。
水小瀬あおいさん
勤務校の外観。「ここで登下校のバスが発着するほか、児童と授業を行うこともあります」(水小瀬さん)
- 児童との関わりでは、どのようなことを意識している?
 知的障がいがあり、「察する」ことが苦手な子が多いので、正直にというかストレートに伝えるように意識をしています。そのときの気持ちや感情を「今のは○○さんも嬉しくなかったと思うよ、私も嬉しくないよ」とか「今は怒っているよ」と伝えたりします。
 あと言葉だけでは伝わらない子も多いので、ジェスチャーや手話のようなしぐさをつけて伝えたりもします。たとえば移動教室のときは、並ぶ順番や手を繋ぐ相手が決まっているので、そのときは「手をつないで一緒に歩く」サインとして、自分の左右の手を握り合う形にして見せるなど、言葉だけで終わらないようにしています。「見てわかる」というか、少しでも子どもの記憶に残りやすいようにと思ってやっています。また低学年の子どもたちなので、他の子に危害が加わるようなことや絶対にしてはいけないこと、学校での生活のルールはしっかり伝えるようにしています。
 一方、授業で遊びの指導がありますが、その時間はしっかり遊んで、子どもたちに混ざって楽しく活動しています。授業で行う遊びには、リズムで音を鳴らしたり歌で遊んだりする音楽遊びや、的当てなどの運動遊び、トランポリンなどを使った体の感覚遊びに近い遊びも行っています。
 私には障がいのある弟がいて、子どもの頃から接してきた経験があります。もちろん全く同じ人はいないのですが、思うようにならなくて、気持ちが落ち着かない子がいると「今はちょっとイライラしているんだな」「これが嫌だったみたいだから、もう少ししたら落ち着けるかな」と子どもの状況を想像して、見通しをもちやすいとは思います。一見、普通に言葉のやり取りができる子どもでも、気持ちの面やコミュニケーション面で身勝手さや困難があったりしますが、そういう特有の難しさも、きょうだいとの関わりがあったから想像ができる面はありますね。
水小瀬あおいさん
遊具のある広々とした中庭。「午後の時間に児童とたくさん遊びます。私の気に入っている場所の一つです」
- 1年目と2年目で、子どもとの関係づくりで変化はあった?
 1年目は本当に目の前のことに精一杯だったので、子どもたちと正担任の先生のやり取りを見ながら、同じようにやり方を真似して関わっていました。
 今年2年目になって1年間の流れを経験して、ほんの少しだけ余裕ができました。子どもたちは昨年からの持ち上がりの学年なので、昨年度にみていた子は引き続き、関係性を維持していこうと考えました。今年初めて担当する子どもたちは、最初はどういう子なのかじっくり観察して、どれくらい大人とやり取りができるのかといったコミュニケーションの第一歩から始まった気がします。どうすればこの子に伝わるのか、学習は今何がどのぐらいわかっているのか、そういう子どもの実態把握をしっかりしようと思いました。
 知的障がいのある子は、その子に伝わった通りにしか動けない子が多いです。私の伝え方が悪くてうまく伝わらなかったら、伝わらないままやってしまうことがあるので、「この伝え方で本当に合っているかな」というのは今でもよく思います。その子によって「伝わっただろう」という表情と「これは伝わってないな」というときの表情があるので、伝わっていないと思ったら、言い方を変えたりジェスチャーをつけたりしています。
 算数や国語もそうなんですけど、私の伝え方が悪くて誤ったやり方・方法でそのまま定着してしまうと学習が進まないですし、せっかく子どもが覚えたことを後から外すのもまた大変です。今のこの低学年の時期に基礎をしっかり固めて、今後に伸びていくために、第一段階を丁寧にやっていきたいなという思いがあります。
 授業の雰囲気としては、もちろん教科や授業内容にもよりますが、「ワイワイ楽しく」を目指しています。クラスの子どもの中にも賑やかに盛り上げてくれる子もいるので、一緒に楽しく学べればと思っています。私自身は、声や表情のメリハリをつけるのが少し苦手なところがあって、私は楽しくしているつもりでも、うまくできていないときもあるようなので「ワイワイを目指している」というところです(笑)。
水小瀬あおいさん
授業で児童と一緒に作った作品。秋の空をイメージしてスタンプ遊びをしたり、トンボを作ったりしたそう。
- 同僚の先生や、保護者との関わりは?
 まわりの先生方は、私より経験年数が多い先生ばかりです。授業のことや教員の業務など、わからないことがあれば、すぐに聞ける先生がたくさんいて、すごくありがたい環境だと思っています。私は困ったことがあると「ちょっと聞いてもいいですか」とすぐに聞いてしまうタイプですが、話しかけやすい優しい先生が多いです。学年には、私のクラスの子を昨年にもっていた先生もいるので、特にクラス替え直後の4・5月は、「こんなことがあったんですよ」「これができたんです!」と、子どもたちのよい話も困った話も、たくさん共有していました。ただ以前は2つの障がい部門で合同の授業もあったようですが、今はコロナ禍でそれが難しくなっているので、教職員間の関わりも少し制限されているところはあるようです。
 保護者との関わりは、連絡帳や電話が中心になります。地域が広くバス通学してくる子ばかりなので、毎日の送迎で直接顔を合わせることは少ないですが、連絡帳では「今日はこんなことができました」「これが上手でした」と、お母さんお父さんにも聞いてほしいなという話を書くことが多いです。
 電話や面談で直接保護者とお話するのも、昨年よりは抵抗感が減りました。1年目は、私は年齢も若いし結婚をしていないので、生まれたときからずっとその子を見てきているお母さんたちとどう関わればいいのかと、戸惑いました。今は家庭であった話を聞きながら、学校でできた事実を伝えたりすればいいんだとわかり、少し慣れてきました。
 私は自分の家庭で弟をみていましたが、私はきょうだいの立場であって親の立場ではないですし、子どもの実態も違うので「わかります」という雰囲気を前面に出すことはないです。お母さんたちが「前に比べて今の方が頑張れることが増えてきて」というお話をされていると、やっぱり昔からの成育歴があり、その子なりの成長があって今の姿があるんだなと考えて、保護者の気持ちを受け止めるようにしています。
- 教員としてやりがいを感じるのは、どんなとき?
 児童のできることが増えたり、そのことについて保護者と共有できたりしたときには、児童の成長にプラスになることができてよかったなと思います。
 たとえば国語や算数は個別課題を設定していて、単純ですがひらがなの学習をしている子が読める字・書ける字が増えたときは、今後につながってよかったなと思います。ひらがなを学んでいる子は、字を覚えた後に普段の生活の中で文字が読めると「読めた、よっしゃ!」と喜んでくれるので「よかったねー」と私も嬉しくなります。ひらがなが読める・書けることがその子にとって嬉しいことになっていて、勉強も頑張ってくれています。
 あとは今年の5月に運動会があって、途中まで手をつなぎながら走っていき、最後は手をはなして子どもが自分でゴールまで行くことができたことも、印象に残っています。保護者もとても喜んでおられて、頑張っているところを見てもらえて嬉しかったですね。行事の時期はクラスの練習のほか、学年での練習もたくさんあり、手をはなして一人で走る練習もかなり繰り返しました。その子はもともと走るのが好きな子で、練習から頑張っていましたし、一人で走れたことが自信になったと思います。運動会の写真に写っていた表情はとても素敵な笑顔でした。
- 悩んでいること、今後に取り組みたいことは?
 実態が多様な児童に対して、同じ授業の中でそれぞれの実態に応じた目標や手立てを考えるのが難しいなと思っています。言葉でやり取りもできる子もいれば、その前段階の子もいます。個人差がすごく大きいのに同じ授業をしなければいけないので、どこを目標にするか、いつも悩みます。ただ単に真ん中あたりの子に合わせると、そこまでいくのが難しい子もいる一方、簡単にそれができてしまう子も出てきます。言葉かけや提示の仕方などもイラストや写真があったほうがいい子もいれば、そうでない子もいるので、どの授業においても難しいなと思います。
 それと、子どもが「自分で考える場面」を作るのもなかなかできていないです。私が一つひとつ「こうしましょう」と指示するのではなく、「こう言われたから、じゃあ次はこうかな」と次のステップを考えたり、その子がその時間で目指すことに進んでいけることが大事だと思っています。それは大学の勉強などでも聞いていてわかっているのですが、実際に限られた授業時間内でそれをするとなると、やっぱり難しいなと思うことが多いですね。
 それから今後に意識したいのは、授業で声や表情のメリハリを付けること。これは先ほども少しお話したことですが、昨年度の校内の初任者研修のときに、私自身の課題として教えていただいたことでもあります。授業ではふだん話しているときより声をワントーン高く、明るくしたり、もう少し表現を大きくしたりするイメージで取り組んでいます。
 あとは他の先生方の授業や実践などからいろいろな手立てや方法を知って、自分の引き出しを増やしたいとも思っています。子どものへのアプローチの仕方もそうですし、授業の中身も、他のクラスの授業などを拝見すると、いろいろな方法があるんだなと感じます。多くの方法を知っていれば、これから先もそのときの子どもの実態に合わせて「あのやり方があったな」と手立てを考えていけます。今年は2年目の研修が広島県内であり、他の学校の先生方のお話を聞けるので楽しみです。
- 最後に休日の過ごし方、メッセージをお願いします。
 私はちょっと要領が悪いところがあって、ときどき土日に仕事を持ち帰ったりすることもありますが、休めるときはできる限り休むようにしています。
 休みの日はゴロゴロしていることもありますし、ドライブでちょっと出かけるのも好きです。今はコロナの状況によって遠出は難しいですが、広島県内にも結構いろんな名所があります。夏は海の近くに行ったりしますし、高原のほうには花がきれいな名所があるので、そこに友人と出かけたりしてリフレッシュしています。
 最後に、奨学生やOBOGのみなさんには、他の奨学生の方とのつながりを大切にしてほしいと思います。私は3期生で、コロナ禍であまり同期の方と対面交流はできませんでしたし、今も直接会うことはあまりないです。でも今回インタビューの依頼をいただいて、同じ元奨学生の先生方が全国各地で頑張っておられる様子を拝見できました。県内だけではなく、いろんな地域の先生のことを知ることができる機会なので、今後もこういうつながりを大切にしていきたいなと思います。
水小瀬あおいさん
水小瀬あおいさん
休日はドライブに出かけたりするのも好きという水小瀬さん。「勤務地の呉市は海上自衛隊が有名で、停泊中の潜水艦を見に行ったときの写真(下)と、広島県内にコスモスを見に行ったときの写真です(上)」

(2022年10月26日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
相手を、自分を見つめ抜く
「うまくいった指導も、子どもの様子をしっかりみて反省点を割り出す。自分のことも内省して点検を怠らない。」
 名コーチには神の眼を持つ人がいるそうだ。その眼は、自分の働きかけが相手にとって本当に意欲が沸くものかを見抜き、自分がどういう意識なのか、心から意欲的になっているかを同時に感知する。その習慣化によって、自分の働きかける力が的を射た最大の効果を相手にもたらすものになるのだそうだ。
 水小瀬さんには似たような印象を覚える。多様性を意識し、ある子にうまくいった指導が別の子に効果的とは限らないという考え方を持っているし、さらにうまくいったその子にとってさえもっと良い働きかけがあったのではと考えて、子どもへの働きかけを工夫する。
 そして、さらに取材を通して感じたことは、水子瀬さんが自分の得意、苦手はもちろんのこと、自分の心理状態をもよく見ていることだ。
 時に言葉や行動に窮することも出ているようだが、若いうちから弁舌爽やかな人が増える一方、自分の今をしっかり見つめ、相手への効果をそれぞれに苦心して考えて、その結果を言葉にしている人は希少価値つまり類まれな存在である。
 相手のこと、自分のことを見つめ抜こうとする今の姿勢を続けることで、素晴らしい眼をもった先生となってほしい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
ご自身の体験の中で、ある子ども・生徒へ上手くいった働きかけや
コミュニケーションが、別の子ども・生徒では上手くいかなかったという
ケースとそれにともなう反省点や創意工夫の経験
ありましたら是非お書きください。
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募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
編集後記中の記入フォームはこちらより入って
1.お読みになった感想をお書きください。
2.彼らにメッセージをお送りください。
3.編集後記の皆さんへの問いかけになるべくお応えください。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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