藤田昇平さん
2022/12/20 UPDATE
藤田昇平さん
1期生(2020年卒)
東京学芸大学出身
東京都葛飾区小学校(3年担任)

子どもたちが「自分でつかみ取る」
ための環境を提供したい
 大学時代は体育会サッカー部のセンターバックとして活躍していたという藤田昇平さん。全体を俯瞰しながら、個々の子どもにもしっかりと目配りをする視線の細やかさは、部活での経験が生かされているようです。得意の体育科をはじめ、子どもたちが自ら学んでいけるようにと研究している指導法等について語ってくれました。
- お久しぶりです。近況報告をお願いします。
 令和2年4月採用で、葛飾区立小学校に勤務しています。現在3年生の担任です。教員になって1年目が1年生、2年目が4年生、今年3年目に1年目にもった学年をもう1回見ています。1年生のときには右も左もわからなかった子どもたちが、3年生になって「だいぶ大きくなったなあ」と感慨深いですね。大学時代はずっとサッカー部で活動していたので、上級生のクラブ活動の時間ではサッカークラブの担当もしています。
 勤務校は児童数約550人、教員数30名くらいの規模で、担任している3年生は3クラスあります。葛飾区というのは都内でも下町というイメージが強いと思いますが、子どもたちは本当にいい子で、下町という地域だから特にやんちゃで大変といったことはありません。本校は挨拶を教育重点目標としていて、4月から2学期の最後まで、4年生以上の子どもたちが交代で朝、校門に立って挨拶をして出迎えてくれます。
藤田昇平さん
大学では東京学芸大学蹴球部に所属。サッカーを通して学んだことが学級運営や生徒指導にも役立っているそう。
- 3年生の児童とは、どのような関係づくりを?
 まずは自分自身が気分屋にならないことと、多方面で基準をしっかり伝えることを意識しています。気分屋にならないというのは、「先生、今日はイライラしているな」とか「今日は機嫌がいいね」と思われたら、僕は負けだと思っています。「先生はいつもそう言っているよね、やらなきゃな」と思ってもらえるようにしたい。多方面での基準というのは、子どもに対して「ここは思う存分楽しんでいいよ」と伝える場面もありますし、逆に「ダメだよ」と伝えるときもあって、それぞれの基準がしっかりぶれないようにと意識しています。大学生のときは部活もやっていて、疲れたりすると気分にムラが出てしまうこともありましたが、教員になって、それはダメだなと強く意識するようになりましたね。
 それと僕は、授業や教室の環境で子どもと関係を作りたいという気持ちがあります。その一環として、クラスの25人の児童と交換ノートをやっています。テーマに沿って1週間に2回書いて提出してもらい、僕からもコメントを返します。テーマは「今はまっていること」「最近あった面白いこと」など、子どもにとって書くことが苦にならない、楽しめるものをテーマにしています。
 みんな結構、面白いことを書いてくれますよ。余ったところは何を書いてもいいことにしているので、質問コーナーにしてみたり、絵が得意な子は絵を描いたり、しりとりを申し込んできたり(笑)、個性が出ます。最初に交換ノートを始めるときの約束で、漢字も誤字脱字も一切直さないし、ポジティブなことしか返さないから何を書いてもいいよと伝えているので、こちらからは「なるほど、いいね」「面白いね」「素敵だね」「先生もそう思うよ」「やってみたいな」とか、シンプルでポジティブなフィードバックを返します。
 この交換ノートを始めた背景には、自分なりの二つの思いがあります。一つ目は、子どもには仲間との関わりを大切にしてほしいのですが、仲間と関わる前に大人と一対一で関われる子どもができてから、仲間同士の関わりが生まれると思っているので、まずは教師と子どもの一対一の関係作りを意識しています。そして二つ目は、子どもに「学校は勉強だけじゃない」「勉強ができなくても、学校には居場所がある」と伝えたいというのがあります。クラスに何人か、気力もなくただ学校へ来てぼーっと過ごして帰るという感じの子もいるので、そういう子とコミュニケーショをとりながら、刺激を与えようという狙いもあります。「先生、交換ノートにこんなこと書いていたよ(笑)」みたいな感じで。
 学校生活に意欲をもてない子への配慮などは、部活で培った経験が大きいかもしれません。サッカー部では1年から4年まで100名ぐらい部員がいたので、特に下級生に目を配ったり、ちょっと笑えるコミュニケーションを取ったりといったことは結構得意でした。「ちょっと元気がないな」「挨拶の声に張りがないな」と、小さな変化にもよく気が付くほうかもしれないです。人間観察が好きなんだと思います。
藤田昇平さん
担任しているクラスの児童25人と週2回、やり取りしているという交換ノート。
- 保護者や同僚との関係づくりは?
 保護者に対しては「開かれた教室」を目指しています。子どもがその日にしたこと、おもに良いこと・良い行動があったときはそれをパパッとカードに書いて、子どもに渡しています。些細なことでも「落ちていたゴミを拾ってゴミ箱に捨ててくれました」などと簡単に書いて「必ずおうちの人に見せるんだよ」と伝えて渡します。学校でこんなことをしているんだなと知ってもらうと、やはり保護者も安心されると思うので。それと学期に1回保護者会があるので、独自に作ったアンケートを配布して、そこで日頃の学級のことや子どもの困りごとなどを何でも記入してもらって意見を求めています。
 実は昨年、教員2年目のときには僕もちょっととんがっていて(笑)、結構いろいろなことがありました。当時、保護者から「子どもが家でこんなことを言っています」という話はマイナスなことしか聞かなかったんです。それで今年は、子どもが家に帰って学校のおみやげ話をできるように、ちょっと笑いを入れるとか、「今日こんなことがあったよ」と話せる活動を1日に1~2個入れるように意識するようになりました。
 職員間の関係では、事前の相談と事後の報告を欠かさないようにしています。今年は学年の先生方は年も近くて相談もしやすいですし、ざっくばらんに報告ができるので良好な関係を築けています。もちろんその他の先生方も、年齢にかかわらずコミュニケーションを取りやすい学校で、ありがたいなと思っています。
- 教員として、やりがいを感じるときは?
 授業で子どもが変わったときには、やっぱりやりがいを感じますね。昨年、漢字学習が苦手で意欲もないと引き継ぎのあった児童がいたのですが、僕が本で知ったやり方を取り入れ、漢字の学習を大きく変えてみました。従来の漢字の進め方は、先生が前で一文字ずつ書いて一緒に学んでいく方法が主流だと思いますが、僕のやり方は、まず学習の仕方を最初に丁寧に教えます。空書きをする、書き順を声を出しながら読むといったやり方を丁寧に教えたうえで、あとは一人ひとりが自由なペースで進めるというものです。
 その方法で学習したところ、その児童は漢字が苦手だったのが180度変わって、テストで100点を取ったりするようになりました。自分のペースで進めるというやり方がその子には合ったのかなと思います。「今からやるからね」と学習を強制されるだけで拒否感が出てしまい、頭に入らなくなる敏感な子どももいますから。子ども本人も「漢字が好きになった」と喜んでいましたし、おうちの方にも「先生のおかげで好きになった」と言われたときは、僕の力ではないのですが、その学習法に挑戦してよかったなと思いました。
 これは漢字の学習だけに限りませんが、僕は子どもに「自分でつかみ取ってほしい」「自分で進める力をつけてほしい」という思いがあります。もちろんそばで見守っていて、必要なときにはアドバイスしたり、聞かれたことには答えたりしながら、子どもがやりたくなるような環境を整える。それを大事にしています。もともと子ども自身が持っているものがあると思うので。
藤田昇平さん
教壇に立つ藤田さん。子どものもつ力を引き出す指導法を研究し、教科の授業にも取り入れています。
- 苦労していることや、悩みを克服したことは?
 苦労ということでは「同じ教育を平等に」という考え方があります。これは公立なので当たり前といえば当たり前かもしれませんが、たとえば自分は体育科の研究を進めたい気持ちがあり、教員にもそれぞれ得意不得意があると思いますが、それを学年なら学年で合わせなければいけないという風潮があります。その風潮を無視して突っ走ったのが2年目ですね(笑)。自分がやりたい研究をするために子どもと授業を作ってやったのが2年目ですが、まわりからは冷たい目で見られていたかもしれない。今は僕もちょっと大人になって、周りの人とも折衝しながら、その一方で担任も得意な分野・好きな分野があるのは当たり前だから、担任の個性を活かせるような教育をしていけばいいのではという気持ちもあり、うまく両方の折り合いをつけながらやっている感じです。
 それから働き方の面でも悩みがあったのですが、今はだいぶそれを克服して、早く家に帰ってうちのことをしたりできるようになりました。3年目になって見通しが持てるようになり、早めに進められるようになったのも一因ですし、また仕事の段取りで、先に管理職に確認をとって進めるようにしたのも大きいです。何かを自分でやった後に上司や管理職に見せて直されるというのが、僕にとってはいちばん無駄な時間なので、最初に管理職に「こう考えています」という方向性を相談して、「こうしたほうがいいよ」とフィードバックを受けてから、それに沿ったものを持っていけば効率的にできます。
 3年目になって仕事の量は増えているのですが、やり直しをするような無駄な時間は明らかに減ったかなと思います。長時間労働で疲れて不機嫌な先生と、よく休んで朝に元気な笑顔で学校に来る先生とでは、子どもにとっての違いは明白なので、そう考えると仕事もある程度この辺でいいかなと、いい意味で割り切ることもあります。
藤田昇平さん
体育の授業の一コマ。ティーボールという種目で、得点を取らせないように作戦を立てています。
- 今後、取り組んでいきたいことは?
 自分の好きな分野である体育科の研究を進めていきたいです。大人は体力をつけてほしい、こういう技を身につけてほしいといった目的で体育の授業をしがちですが、子どもは体力を高めたくて運動するのではなく、単純に楽しいから運動をしていると思います。それを念頭に置いて、体育でいかに「楽しい」をデザインできるかに興味があります。
 例えば学校のサッカーの授業なら、クラブチームでサッカーをしているような子から、まったくサッカーをしたことがない子まで、いろいろな子どもがいます。そこで苦手な子も楽しめるようなルールを作って試合をしたりして、心から「楽しい」を味わえるような授業にしたいと思って研究をしています。
 苦手な子が楽しむ方法はいろいろありますが、たとえばボールを使った運動なら、ボールの空気を抜いてベコンベコンにしてもいいし、ボールでなく新聞紙を丸めたものでも蹴ってゴールに入れればサッカーになります。球体を思い切り蹴ってみたい、蹴ったらゴールに入ってうれしい、そういうものが苦手な子も楽しく参加できるデザインだと僕は思っています。
 これは先ほどの漢字の学習の話ともつながりますが、初めから先生が「はい、ドリブルの練習をして」「シュートの練習をして」と言うのではなく、最初に思いっきりボールを蹴るのが楽しい、たまたま蹴ったらパスがつながってそれが得点になってうれしいといった「楽しい」があって、もっともっと上手くなりたいという気持ちが出てきたときに、パスやシュートやドリブルの練習に移行すればいいわけです。だからまずは「楽しい」をしっかり経験させて、あとは必要に応じて自分からつかみに行こうね、そのサポートしはするよ、という気持ちです。
 今後はこの体育科の研究をさらにブラッシュアップし、サッカーだけではなく、もっといろいろな運動でも同じようなことが言えるように、体育教育を手がける民間企業の研修などにも参加しています。まだぼんやりとした考えですが、将来的には大学院へ行ったり、今とは違う形でも研究をしてみたいなという思いもあります。
藤田昇平さん
体育が苦手だった児童が書いた交換ノート。「できるようになった喜びや自分で考えたことを書いてくれていて、僕もうれしくなりました」(藤田さん)
- 気分転換にしていること、OBOGへのメッセージをお願いします。
 休みの日は大学時代の仲間とサッカーをしたり、サウナに行ったり、サッカー観戦をしたりという感じです。サッカーチームでは、月に1回は試合に出ています。サウナは大好きで週に1回は通っています。あと観戦では、鹿島アントラーズにはまっているので、毎週末試合がある日は車で都内から鹿島まで行って、仲間たちと応援をしています。
 奨学生同期の人たちにはOBOGレポートなどを拝見させてもらって、やっぱりとても刺激を受けています。OBOGで教員をやっていない人もいますが、その人たちもそれぞれに活躍しているようなので誇らしいなと思います。今後も情報を交換しながら、各地で一緒に頑張っていけたらいいなと思っています。
藤田昇平さん
休日によく行くという鹿島アントラーズの試合風景。仲間と全力で応援するのが、良いリフレッシュに。

(2022年9月21日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
楽しめること即ち成長の礎
「子どもそれぞれの“楽しい”を感知し、全員にそれを叶える指導の場を授業とする。」
 10年ほど前、ある企業の役員から聞いた話。離職率が高いのが悩みのその企業、なぜかオジサン構成比70%の企画営業部門だけ人が辞めない。オマケに好業績。その理由を探ると「みんな声をかけてくれるし、褒めてくれるから嬉しい。職場も仕事も楽しい。自分の居場所と思えるから。」とのこと。そしてその部門長は「適材適所」をモットーとしていたそうである。この話を思い出した。
 藤田さんは「子どもは一人ひとり違う個性を持つように、同じことに対して楽しみ方も違うのだ。」という本質的理念に基づき、苦手な子も含めて全員が心から楽しめるように競技のルールさえ変えてしまう。この考えと行動が如何に素晴らしいかは、前掲のオジサン部門の例が証明している。
 しかし、容易なことではない。何故なら子ども全員それぞれの喜びと楽しい気持ちを感知しなければ出来ないからだ。これはひとりひとりと頻繁に対話し、気持ちを汲み取ることなしには叶えられない。
 「成長とは出来ないことが出来るようになること。」とは誰もが認めるだろう。しかしその前にヤル気、ヤル気の前に「好き」。「好き」なのは「楽しいから」。このことに気づき実行している大人は意外と少ないものである。
 長いサッカー人生で身に着けた洞察力と教員としての経験で生み出した藤田さんの指導は、時間軸の中で、より心から思い切り成長して行く子どもを沢山生み出して行くと思う。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
 藤田さんのお話しは皆さんにとっても凄くストレートでわかりやすい内容であったと思います。
 皆さんの体得した或いは目指している子どもに「授業を好きにさせてしまう」接し方や指導、書き出して整理すると良いと思います。
 出来ることなら事務局にも教えてください。
 藤田さんへの感想や質問もどうぞお送りください。
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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