大隅雄士さん
2022/00/00 UPDATE
大隅雄士さん
1期生(2020年卒)
兵庫教育大学出身
茗溪学園中学校高等学校(中学2年アカデミアクラス担任)

決まった答えを与えるより
生徒と一緒に考え、視野を広げたい
 奨学生OBOG会の幹事でもある大隅雄士さん。私立中高一貫校で寮のハウスマスターを経て、今年度からは担任や国語科教員としても教壇に立っています。私立校の先進的な取り組みや、国際社会でリーダーとなる人材を育成する教育プログラムに触れ、生徒とともに大隅さん自身もワクワクしながら学んでいます。
- 夏の交流会はお疲れさまでした。あらためて近況報告から、お願いします。
 2020年4月より、茗溪学園中学校高等学校に勤務しています。2年間の寮ハウスマスターを経て、今年度より中学2年生のアカデミアクラスの担任と、国語科教員(国際生の高1、高2の国語)、寮学習支援e-Dorm Lab主任などを担当しています。
 茗溪学園は、学力偏重の中等教育批判に応える教育実験校として、筑波大学・東京教育大学の同窓会・茗溪会によって1979年に創立された学校です。生徒数約1500名、教職員170名という大規模な私立校で、2017年には国際バカロレア(IB)認定校にもなっています。
 私が担任をしているアカデミアクラス(ACクラス)は2021年度にできたばかりで、現在は中学1年生・2年生がいます。2年生はMG(茗溪ジェネラル)クラスが4クラスあり、昨年からアカデミアクラスが2クラスできて、1学年6クラス編成です。
 アカデミアクラスでは、自律的・自発的に自ら学び、未知の場面や問題に対してもたじろがずに試行錯誤する学びを重視しています。日常の授業において知識を与え、試験でそれを答えるという形ではなくて自ら試行錯誤することを通して、知的な体力をつけることができるように取り組んでいます。授業のカリキュラム自体も担当の教員が作成し、例えば中学2年生だからこの教科書を使ってというのではなく、生徒が試行錯誤しがいのある課題や教材を課しています。教員が一方的に教えるというのではなく、考えるためのヒントやサポートを与えることで生徒自身が能動的に学習していく、そういう方向性でやっているクラスです。月に1回リーダープログラムがあって、そこでコミュニケーションスキルやストレスマネジメントの方法なども学びます。
大隅雄士さん
アカデミアクラスの授業風景。テーマは「ストレスマネジメント」。「アカデミアクラスでは『知』を武器に生きる若者を育成することを目的に多様な学びを展開しています。私も生徒の一人です」(大隅さん)
- 生徒のようすと、教員の関わりを教えてください。
 アカデミアクラスに入学してくる生徒は、いわゆる特進クラスのように試験で高得点者を選抜したクラスではなく、「なぜ?」を突き詰めて考えたいという知的好奇心が強い生徒が多いです。国籍は日本人ですが、1人ひとりの成育環境はとても多様です。海外で育って、小学校までインターナショナルスクールへ通っていた子も多いです。
 男女共学で1クラスに40人の生徒がいますが、みんな活発です。普通に読書として辞書を読む子もいますし、休憩時間にカントとか古典の本を読んでいる子もいます。ふつうの学校では、子どもが1人でいるのはあまりいいイメージがないと思うんですが、アカデミアクラスは全然そうじゃない。自分の好きなことを突き詰める姿勢を大事にしているので、孤独もいい意味で当たり前です。もちろんグループワークではディスカッションが多いので、そのときはしっかり意見を出し合いますが、休み時間は個々にしたいように過ごして、自分のやりたい勉強がある人はしていたらいい、というような感じです。
 もともと多様なバックグラウンドをもつ生徒が集まる学校とわかっていて入学しているので、生徒たちも価値観の違いや多様性に対するレジリエンスは高いです。それでもやっぱりクラスでまとまって何かを作り上げる活動でディスカッションをしていると、対立というか、「いや、俺はそう思わない」「お前の言っていることは違う」とズバッという子も珍しくないので、感情的になる子どもらしい一面もありますが、その場合も生徒同士で解決ができるようにしています。
 生徒同士が対立したときの教員の役割は、状況を整理することです。例えば、どんな劇をするのかの問題提起から始まったはずなのに、議論が進んでくると白熱して、初めの問題提起から外れてしまうことがあります。そうなると生徒自身も混乱してイライラして、言い争いになることもあるので、「今何の話をしていて、この時間で何を決めるんだっけ」と一緒に整理すると、それだけで生徒は自分の間違いに気づいて、ほとんど解決していきます。教員がしているのは、ファシリテーターのような役割だけです。
 5月に中2生は文化祭で劇を作るんです。その劇は、台本もなければ決まった作品も何も全く決まってない状態で「はい、じゃあ1か月後に劇をやってください」と課題を出します。生徒たちが自分で脚本を考えて、主役などの配役から大道具係まで全部決めます。そのゼロスタートで完成に向かってやっていくというときは、やっぱり生徒同士の言い合いや衝突は結構見られました。でも、今はそれをやり通して成功したことで、生徒たちも「人の意見を聞くのは大事だよね」と理解していると感じますね。
- 担任のほかに、寮での学習支援もされていますね。
 寮生は200人ぐらいいますが、平日に塾に通うことが難しいので、寮の中での学習支援を提供しています。最近は塾もオンラインでも受講できるようになりましたが、勉強が苦手な子の場合、対面でないとそもそも勉強の意欲がもてない生徒がいるので、夜間に学校の施設に集まってチューターたちが指導をしています。
 もとも寮の学習支援はあったのですが、2年前にコロナ禍で1回ストップしてしまいました。それを僕が受け継いでe-Dorm Labという名前をつけ、もう一度しっかりとした組織でやっていこうということになりました。僕はそのとき寮のハウスマスターとして働いていたので、寮生にとってはリアルに集まって勉強できる環境は非常に重要だと実感していたので、「ぜひ携わらせてください」と学校にお願いをしました。
 それは生徒のためでもありますけど、僕自身も、生徒に学ぶ機会と選択肢をたくさん与えたいという気持ちがありました。学習支援では40名のチューターが在籍していて、筑波大や早稲田、上智、東京大学といった多彩な学生が来てくれますが、そうしたいろいろな人から刺激を受ける環境、いろいろな人と生徒が関わる環境を作りたいと常々思っていたので、僕のやりたいことと生徒が必要とすることがマッチしたという感じで、今も楽しく続けさせてもらっています。
大隅雄士さん
(左上)新設されたトレーニング棟。「生徒はもちろん、教職員もいつでも利用できます」(左下)寮学習支援e-Dorm Lab「社会人連携講座」。寮生と社会との接続機会をつくる講座を月1回実施。(右)茗溪寮は帰国生や留学生がたくさん暮らす国際寮で、写真は受験勉強真っ只中の高3生たち。「目標に向かってベストを尽くせ!」
- 保護者との関わりや、職員同士の関係は?
 保護者は、保護者面談以外で関わることは少ないのですが、相手の話を聞くことを大切にしています。基本的には、ほとんどの保護者が学校の教育に快く理解を示してくださっているので、厳しいご意見やご要望という感じのお話はあまりないです。そういうご意見をいただいたときは、感謝の気持ちを持つようにしたいと思っています。
 職員同士の関係では、「ありがとうございます」「すみません」は必ず伝えるようにしています。それから、「なんでもやります! でも、わからないことは教えてください!」という姿勢を前面に出しています。僕は小テストの点数入力や出席管理など、事務作業は苦手です。一応もちろん自分で作業するんですけど、「あの、これで合っています?」と確認はお願いします。そうしなければ失敗する可能性が高いので(笑)。
 奨学生OBOG会でも、何か面白そうなことがあれば僕が最初にキャッチしにいって、あとは「一人じゃできないから、一緒にやろう」とまわりの方に助けてもらっていますが、茗溪でも同じような感じかもしれません。わからないことは「すいません、わかりません」「助けてください」と。お手上げですみたいな感じで、相手が怒る気もなくなるぐらい下手からいきます。「先生がお得意ですよね。その代わりに先生ができないことを僕がやるんで、任してください!」みたいな。それを狙ってやっているわけではないんですけど、なんかもう身についている感じです(笑)。
大隅雄士さん
国語科の先生方との会議にて。「大変お世話になっている大好きな先生方です。末永くお世話になります(笑)」
- 教員として、やりがいを感じる瞬間は?
 過去に授業を担当していた生徒や担任をしている生徒から、廊下など教室外の場所ですれ違ったときに、挨拶をしてもらえるのはうれしいですね。僕も、自分の高校時代の部活の先生とは今も交流をさせてもらっているので、生徒たちとも卒業後にも続く関係でありたいなと思っています。
 それから最近の例だと、僕が過去に寮の学習支援で行った現代文の授業がよかった、といってくれる生徒がいます。問題文を読んでそのテーマについて考えるという授業で、そのときの内容は「自分にとっての幸せとは何か」だったんです。生徒たちは、それまでは現代文で読む文章は点数に直結するもの、受験のために使うものという認識でいたようですが、僕の授業で現代文の文章を読んで自分の幸せについて考えたことが、とても思い出に残っていると話してくれます。
 実は今、建築士になりたいといって建築系の学部を受験している生徒がいます。彼が高校1年生の初めの頃にその「自分にとっての幸せ」を考える授業をしたのですが、彼もその授業をよく覚えてくれていて、なぜ建築士になりたいのかという大学への志望理由書にも、「自分にとっての幸せは、建築を通して人を幸せにすることだとあらためて思うようになった」と書いていて、それはすごくよかったなと思っています。
- 今後に取り組みたいことはありますか。
 国際バカロレア(IB)の教員として専門性を高めたいと思っています。僕はもともと、教員が答えをあらかじめもっていて、教員が事前に準備したノートを生徒にまとめさせるだけ、教科書の内容をどう教えるかといった勉強はあまり好きではないんです。それは優秀な教員がオンライン授業をすれば済んでしまう。それはちょっと違うと思っていました。
 「今の社会やこれからの世界でどんなことが起きて、どう向き合えば解決できるのか。そのためにどんな力が必要になるのか」を考えたリアルタイムの授業がしたい。生意気ですね。
 2年前にIBの授業を見せてもらい、まったく学びが違うことに驚きました。生徒に養わせたい学習者像として「探究する人」「心を開く人」「信念をもつ人」といった10の学習者像があり、その大きな目標を目指して教員は授業計画を組み立てます。要するに、最初に最も重要なゴールを決めてから、問いを作って、教材を選ぶ。また生徒が持っているアイデアを根拠を持って説明ができれば評価がつく。そういう教育がすごく面白いと思って、今は授業見学やティーチングアシスタントみたいなかたちで勉強させてもらっています。
 8月1日にも、IB教員になるためのワークショップを受けさせてもらいましたし、茗溪の先生方が参加している勉強会に参加させてもらったりしています。茗溪はそういう教員の学びもすごく後押ししてくれる雰囲気があふれていて、本当に学びに最適です。
 それから、担任をしているアカデミアクラスの探究の授業を通して、生徒の学びの機会と選択肢を広げたいとも思っています。探究の授業では、今年の中2は1年間を通して「笑い」をテーマに研究しています。よしもと新喜劇を見に行って「笑いとはどういうときに起こるのか」などをディスカッションしたりします。今は、世界のどの文化でも笑いが起こるためにはどういうバックグラウンドや知識が必要なのか、を突き詰めていっているところです。最終的には、来年の3月にタイの姉妹校で、英語で笑いについてのプレゼンをするという目標があります。僕も楽しみながら、一緒に学んでいます。
- 気分転換の方法と、OBOGへのメッセージをお願いします。
 気分転換は、毎朝40分くらいのウォーキングです。最近、運動不足なので、意識して体を動かすようにしています。あとは飲みに行くこと。最近コロナ禍でなかなか大人数では行けないので決まった人と行くことが多いですね。奨学生の仲間とも、学期終わりなどに会って飲んでいます。最近引っ越しをしたので、家具を見に行くのも楽しいです。
 OBOGの皆さんには「みなさんが働きたい!と思う職場環境や条件はどのようなものですか?」と質問してみたいです。最近の近況報告会でも、やっぱり「教員って大変」「10年後は先生をしてないかも」とか、そういうネガティブな声は少なくありませんでした。僕自身はほぼ100%ポジティブな気持ちで働いていますが、それは今の職場環境がすごく影響していると思います。
 僕のところは先ほどの話のように、生徒も先生も積極的にチャレンジできる環境がありますし、あとコアタイム制で8時半から15時までは学校にいなければなりませんが、それ以外はどこで仕事をしてもいいというスタイルです。僕は火曜日と水曜日は11時出勤で、そこでも時間のゆとりが生まれますが、そういう話をしても公立の先生方は「あり得ない」という反応です。けれども、いずれは自分たちが働きやすい職場を作っていく立場になっていくと思うので、今のうちから、どういう環境ならば教員が気持ちよく持続的に働けるのかを考えていくことも大切かなと思います。
 今はどこの学校でもあまり働き過ぎないようにとなっていますが、働きたい人は日をまたごうともどんどん働けばいいし、働きたくない人はその範囲でやればいい。若手は、働きたくないといってもそれを実行するのは難しいかもしれませんが、将来的に自分たちが望む働き方をできるように、今から考えていければと思います。
大隅雄士さん
学校からすぐ近くの学園西大通りが毎日の散歩コース。「どの季節でも癒しを与えてくれる大好きな風景です」
茗溪学園寮紹介ショートムービー
https://youtu.be/msIDJWh1G54

(2022年8月30日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
多様な人材大活躍。毎度大隅劇場
「大隅さんが動くとき、『協力しなきゃ』『助けなきゃ』時に『心配だから』と協力する人が沢山現れて存分に輝くのである。」
 この取材記事の最初にある大隅さんの写真。まるで赤ん坊か2歳児のような、人懐こくて、無垢で嘘偽りのない笑顔。
 社会には、赤ちゃんは絶対に大事に扱わなきゃいけない不文律がある。
 その笑顔のおかげか、彼が企画をやるときも司会進行をやるときも必ず優れた人材が付いてきて、見事なサポートを存分にみせるのだ。彼もいい持ち味を発揮しており、どっかしらプランにヌケがあるのもまた可愛げと受け止められているようだ。「大隅さん抜けていたから私がやっておきましたよ。もう(^^♪」などと年下の女性からカバーされているシーンもたまに見られる。
 この取材で驚いたことは、はじめての担任と言いつつ、国語科教員や寮の学習支援など、多岐にわたる仕事を同時進行で動かしていること、偉ぶることなく、笑顔と等身大のコミュニケーションをとって、生徒をはじめ様々な関係者の持つ力を引き出そうという姿勢が貫かれていることである。
 常に人に囲まれ、大切にすることが自分の欠点も美点にしてくれるということを彼はよくわかっているのだと思う。これは優れた管理職はたまた経営者にも通ずる力だ。
 是非大切に続けてほしい。
そこで、皆さんに質問です
 皆さんの人を動かす心得や方法を教えてください。
 「やれといったらやるのだ!」の強制力は過去の遺物と化してしまい教員の皆さんは、子どもや生徒、同僚や上司、地域の関係者と多様な関係のもとで動いていますから、振り回され続けたらすぐ過労になってしまいますね。「自分ができないから手伝ってほしい」というお願いもあるでしょうし様々な心構えや方法を是非シェアしてほしいと思います。
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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