鵜澤潮里さん
2022/10/27 UPDATE
鵜澤潮里さん
1期生(2020年卒)
淑徳大学出身
千葉県立特別支援学校(中学部1年担任)

その子に合った手立てを考えて、
教材や課題を自作することも
 奨学生時代から、ボランティアや現場での実践に積極的に取り組んでいた鵜澤潮里さん。現在は特別支援学校の講師として3年目を迎えています。障がいの状態や個性が一人ひとり異なる生徒に対し、それぞれに合った支援を考えるのが楽しいと語り、子どもたちの笑顔や成長が鵜澤さんの喜びになっているようです。
- お久しぶりです。近況報告から、教えてください。
 2020年に千葉県の特別支援学校に常勤講師として勤務し、今の勤務先が3校目になります。今の学校は児童・生徒数が約150名、教員110名くらいの大規模校で、私は知的障がいの学級の中学部1年生の担任をしています。担任するクラスは生徒が8人で、私を含めた先生が3人でみています。
 クラスの生徒はいろいろな子がいます。学級でメダカやカブトムシを飼っていて、生き物が大好きな生徒は「先生、先生」といつもそばに来てお話をしてくれます。私も小さい頃からいろいろな生き物を飼っていて、カブトムシも好きなので、そんな話をしていると「先生とは話が合うから好き」みたいに言われたり(笑)。言葉をあまり出せない子もいますが、「絵本を読んで」とジェスチャーで伝えてくるので「じゃあ読もうか」と受け止めて、一緒に読んだりしています。その子はもともとあまり意思表示をしない子だったので、そうして気持ちを伝えてくれるのは嬉しいですね。
 なかには聴覚障がいがあって補聴器をつけている子もいます。ちょっと独特なしゃべり方をするので、私以外の担任の先生方は、その子の話をなかなか聞き取れないことも多いのですが、私はこれまでに似たような話し方をする子どもとも関わってきたので、なんとなく前後の流れを考えて「この話をしたいのかな」と推測して受け止めています。すると子どもも「わかってもらえた!」という感じでニコニコして、よく私のそばで過ごしています。個性が強いクラスですが、みんなが一斉に私のところに集まってしまうこともあって、ワチャワチャと楽しくやらせてもらっています。
- 子どもの思いをキャッチする感受性は、どのように培った?
 私の弟は自閉症です。ごにょごにょという感じの、早口で伝えたい気持ちが出すぎてしまうような話し方をする子で、それをずっと聞いていて「今アニメを見ていたからこの話をしているのかな」と前後の流れから予測したり、表情やしぐさで理解しようとしたりしてきました。弟が通っていた特別支援学校の文化祭でも、他の生徒さんやお母さん方と接することも多かったので、障がいのある子が何を言いたいのか、どうしたいのかを汲み取る感覚は、そういう生活で自然に身についた感じです。
 私は、そもそも弟がいたからこそ「特別支援学校の先生になりたい」という夢を持つようになりました。障がい児と関わる中で、もっと専門的に関わってみたいと思ったのが理由の一つです。それと、弟の学校の先生の中で家庭訪問をしてくださった方がいます。そのときに弟本人や保護者の母親だけでなく、きょうだいである私にも「大丈夫ですか」と声をかけてくださって、それがすごく「いいな」と印象に残りました。私も本人だけじゃなく、周りの人にも気を配れる先生になりたいなと思ったのがきっかけですね。
 ただ最近は、生徒との距離感も難しいなと思うこともあります。特別支援学校の先生は家族の次にいちばん長く関わる存在で、ちょっと仲良くなると距離がどうしても近くなりすぎてしまう。実は私のクラスは子どもが8人全員男の子なんです。先生も私以外の2人は男性で、女性は私一人です。生徒はちょうど思春期真っ盛りの年齢なので、冗談ぶって「先生と僕は赤い糸なんだよ」と言う子もいたので、「それはどうかな、違うかな~?」とちょっとかわしつつ(笑)、距離をとるようにしています。他の男性の先生にも相談をして、困ったときには助けていただきながら仕事をしています。
- 保護者との関係や、職員同士の関係は?
 保護者は、協力的なご家庭が多いです。クラスの半分くらいは保護者の送迎なので毎朝おうちでの様子を聞いたり「悩みはありますか」とお聞きしたりして、会話を大切にしています。あと、保護者からの質問でわからないことはその場で答えずに、主任や他の先生に確認しますと伝え、曖昧な答えはしないように気をつけています。
 子どももそうですが、保護者も含めて私は人と話すのが好きですね。何か不安そうな顔をしていると、大丈夫かなと思ってすぐに声かけたりもします。この前も大きな駅で、視覚障がいの白杖を持った方がずっと同じ場所で迷っている様子だったので、「こんにちは、何かお困りですか」と声をかけました。相手の方がホッとしたのか、ニコッと笑顔になって、それを見た瞬間、声をかけてよかったなと思いました。人と話すことで自分の世界が広がるというか、いろいろな考えを持っている方がいるのが楽しいです。前までは会話をするときも、何か話さなきゃ、でも自信がないし……という感じでしたが、話をして相手のことを知ることができると思ったら、話すのが好きになりました。
 勤務校の先生方ともいろいろなお話をします。私のクラスには自分で豆からコーヒーを挽いて振舞ってくれる先生がいらっしゃって、放課後子どもたちが帰った後に、担任3人で一緒にコーヒーを飲みながらお話しています。その日に子どものことで気になったことなども「今日こういうことがあって私はこう思いましたが、先生はどう思われますか」と、すぐに相談ができます。先生方のほうからも「何でもいいから、少しのことでもいいから話して」といってくださるので、とても話しやすい環境ですね。
- やりがいを感じるのは、どのようなとき?
 やっぱり生徒が「楽しい」と笑顔を見せてくれるときです。最初に話したカブトムシが好きな子は、入学式の日から目をキラキラ輝かせて「僕ね、カブトムシが好きなんだ」と話してくれて、私とほとんど毎日カブトムシの話をしながら「先生と話すの、楽しい」と笑ってくれるので、すごくよかったなという印象です。
 カブトムシの成虫のいない季節は幼虫を育てたり、図鑑や動画を見たりしていますが、学習を頑張ったら動画を見ることができるという形にしているので、その子は学習をとても頑張っています。ただ好きなことをするだけでなく、それが勉強の意欲になるようにと他の先生方と話し合ってこういうルールを決めました。学習を頑張った分、余計に好きなことをする時間が楽しいんだと思います。
 それから、自作の教材や課題づくりもしています。ひらがなを書けない子のために、ひらがなの文字の形にくりぬいた厚紙の台紙を作り、それをホワイトボードに貼って、マーカーでなぞって台紙をとると字が書けている――そういう教材を作ったりしています。
 年度初めに、子ども一人ひとりの支援計画を作り、1年間でこういう活動をさせたいと目標を立てるんですが、そのためにこの子には何が合っているかなと、手立てを考えるのが私は好きなんです。他の先生方にもこういうやり方はどうですかと確認をして、問題がなければ作るようにしています。「50まで数えられるようにする」という目標がある子には、ただカウントするだけだと楽しくないし、カードをめくるような操作はその子には難しいかもしれないと考え、じゃあフェルトボール移動させたらいいのではと思いついて、100均で買えるフェルトボールをカゴに入れながら、数を数える課題を作りました。
 蝶結びをできない子には、ダンボールを少し細めに切って裏にブルーとピンクの2種類の紐をつけて、どちら側の紐をどう操作すれば蝶結びができるのか、わかるものを作りました。そうしたら最初は全くできなかった子が、前期が終わる頃には1人でできるようになっていました。少しずつ「ここまでできるようになったね」と褒めながら、「次は難しいよ、できるかな」というと、「やる!」と喜んでやってくれたので、作ってよかったなと思います。この前は、周りの先生方に「鵜澤先生は課題を作っているときが、いちばん目がキラキラしているね」って言われました(笑)。
鵜澤潮里さん
鵜澤さんが自作した教材・課題の一例。(上)「職業体験の一環で、チラシでゴミ箱を折る際の手順表です。子どもが触ってわかるようになっています」(鵜澤さん)(左下)蝶結びの練習用の課題。左右の紐の色が違うのがポイント。(右下)厚紙にラミネートをし、ひらがなの形にくりぬいた文字練習の教材。
- 働き始めて、苦労されたことは。
 初めて勤務した学校で2学期の終わり頃、うつ病が悪化して休んだことがあります。私はもともと大学時代からうつ病があったのですが、そのことを他の先生方に言えず、ある日布団から起き上がれないとか、車を運転していても泣いてしまうような状態になり、それで1週間くらい休みをいただきました。そうしたら、次に出勤したときに周りの先生方が「お話を聞くよ、つらかったね」と言ってくださって、「これなら最初から言えばよかったな」と思いました。
 私はどうしても特別支援学校の先生になりたかったので、「病気なら、仕事を辞めて治したほうがいいのでは」と言われたら嫌だなと考えてしまって言えなかったんです。でも言えた瞬間、本当に心が軽くなりました。おかげさまで、うつ病も今は安定しています。
 今から思うと、最初に就職した学校は、妊娠されている先生の補助として年度途中に入ったので、すでに他の先生との関係ができているクラスに後から入る引け目もありました。また悩みを抱えている生徒がいて、その子の話を聞いているうちに余計に気分が沈んでしまったのもあります。共感しすぎてしまい、自分のことのように受け取めてしまって……。今は、生徒の悩みを聞きつつ、自分自身とは分けて距離を置いて考えるということが、だんだんできるようになってきました。でも「鵜澤先生は生徒の思いを汲み取ることができるから、知的障がいで会話ができる子どもたちだけでなく、発話がない重度の子どもたちに関わるのもいいかもね」と言ってくださる先生もいます。私も機会があれば、そういう重度の子どもたちにも関わってみたいなと思っています。
- これから取り組みたいことは?
 私はまだ講師なので、まずは教員採用試験に合格してより深く子どもに関わりたいです。やはり責任のある判断をできるのは正規の教員になりますから。
 教採は毎年受けていて、今年も面接だけですが、受けに行きます。今、私は特別臨時的任用講師といって1校に1人しかいない講師で、その場合、1次は免除で2次試験の面接だけで済みます。
 昨年も同じように面接でダメだったので、今年こそはと思っています。面接では、どれだけ子どもと関われる先生なのかということや、人間性を見られると思っています。昨年は講師として子どもと関わってきた経験をあまり話せなかったので、今年は経験を交えながら話してこようと思っています。勤務先の学校でも、管理職の先生が面接練習をしてくださっています。
 今年の教採に合格すれば、来年度は今の勤務校で初任者になるようです。実は、今の勤務先は弟が通っていた特別支援学校なので、恩返しをしている気持ちで働いています。弟が在籍していた頃から私も毎年文化祭に行っていて、先生方の中には弟や私の家族を知っている方がまだ残っていらして声をかけてくださるので、すごく有難いご縁だなと思って勤務しています。
鵜澤潮里さん
鵜澤さんが愛用しているウクレレと大正琴。「趣味としても演奏しますし、音楽の時間にも使っています」
- プライベートの過ごし方、奨学生に伝えたいことを教えてください。
 気分転換は、カラオケに行ったり、家でウクレレやカリンバを弾いたりしています。カリンバというのは、指ではじいてオルゴールみたいな音を出す楽器です。自分でYouTubeの動画を見ていて「音が素敵だな、やりたいな」と思って始めました。
 カリンバはドレミの音階が1つずつの鍵盤に対応しているので、YouTube を見て、楽譜を買って、それを見れば案外弾けるんだなと思ってやっているところです。まだ全然うまく弾けなくて、人前で披露できるところにはいっていませんが。
 ウクレレも、動画を見て自分で覚えました。私は音楽の授業のメインティーチャーをやらせてもらっているので、音楽の時間にウクレレを活用しています。授業の最後に「鑑賞タイム」といって動画をかけながらウクレレを弾いたり、子どもたちのそばに行って「こんな音だよ」と聞かせて授業をしたりしています。
 カラオケは1人カラオケに行きます。これまでコロナの関係でずっと難しかったのですが、今度、コロナの状況が落ち着いたら職場の先生方と「一緒にカラオケに行きましょう」と話をしています。
 最後に、奨学生・OBOGには「夢を諦めず追い続けてほしい」と伝えたいと思います。私自身、財団の奨学金を受けたことで教員を目指すことができたので、どんな状況でも諦めないでほしいなと思います。私みたいに、うつ病などの病気を抱えている人でも、教員は何年たっても挑戦ができるので、すぐに教採に受からなくても、そこで諦めないで夢を追い続けてほしいです。私も一緒に頑張ります。
鵜澤潮里さん
音楽の時間に使っているという自作の楽譜。「音階ごとに色分けをしています。このような楽譜をいつも作成して、子どもたちと合奏を楽しんでいます」

(2022年8月24日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
五感すべてで、共に感じる
「言葉の聴こえ方、トーン、仕草から触感まで、すぐに相手の気持ちに共感し、信頼される」
 取材を通して、正直驚きの連続だった。ひとことでいうと共感する力が桁外れなところだ。我々は軽い気持ちで共感を口にするが、多くのそれは同調や同感のことだ。共感とは、相手が感じたことを同じ質量で感じ取ることであり、鍛錬を要する力なのだ。
 例えば、鵜澤さんは初めて会った視覚障がいの方に声をかけ、付き添ったと話しているが、「手の倫理」という本にもあるように、視覚障がいの方は見ず知らずの相手の声かけと手の触れ方から、すぐに信頼に足るかを判断してその身を委ねる。きっと鵜澤さんの声のかけ方の波長や雰囲気そして手を通して伝わる共感性が、その人とぴったり合ったものなのだろう。瞬時に相手の気持ちを体全体で受けとめられるのが凄い。
 そして圧巻は沢山の教材である。障がいのある生徒さんひとりひとりの成長の課題をもとに、その子が動作ごとに何をどのように感じ、何に困り何を嬉しく思うのかを感じ取っているからこそできる造作だと思う。
 趣味や仲間との対話によるリラクセーションを織り込みながら、この卓越した力を発展させて欲しい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
この取材記事にも登場する沢山の教材
みなさんも教材など色々つくっていると思います。
「私がつくったオリジナル教材」是非ご紹介ください。
鵜澤さんにも色々質問してみましょう
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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