中山優香さん
2022/10/18 UPDATE
中山優香さん
3期生(2021年卒)
上越教育大学出身
長野県公立小学校(2年担任)
失敗を恐れず、あきらめずで
子どもたちに必要なことを伝えたい
 3期生で、OBOG会の活動にも積極的な中山優香さん。公立小の教員として子どもとのやり取りを話す姿はとても楽しそうで、充実した学校生活を送っていることが伺えます。一方で、教員2年目でありながら新たに『子どもの性教育』を学校で始めるなど、着々と我が道を進もうとする姿が印象的でした。
- 夏の交流会はお疲れさまでした。あらためて近況報告をお願いします。
 長野県の公立小学校に勤務して、2年目になります。勤務している学校は各学年3~4クラスある大規模校で、児童数が650人ほど、教員数が約50人です。昨年度、1年生の担任をして、持ち上がりで今年は2年生の担任をしています。昨年は初任で本当に大変でしたが、今年は子どもも保護者もよく知っているので、やりやすいかなと思います。
 地域としては会社勤めの家庭もあれば、果物などの農家も多い環境です。ベテランの先生方の話によると、他の地域に比べて不登校の児童が多いといわれています。何か特別な理由があるようには見受けられませんが、2年生くらいでそういう兆候が出ている児童が少しいて、3年生から上の学年になると傾向がはっきりしてくる印象です。
中山優香さん
中山さんが勤務する小学校は、校庭のまわりをぐるりと桜の木が囲んでいて「学校桜」でも有名。4月には満開の桜が新入生を迎えてくれます。
- 子どもとのコミュニケーションはどのように?
 子どもとはコミュニケーションをたくさんとるように意識しています。2年生なので、子どもから「土日にこういうことやったんだよね」「昨日習い事でこういうことをした」という、聞いて欲しいという感じのコミュニケーションが多いですね。子どもは先生に報告しただけで嬉しいようで、私から何か質問する前にスーッとどこかへ行っちゃう、みたいなことも多いですけれど(笑)。
 昨年は会話でのコミュニケーションだけでしたが、今年は子どもたちが日記を上手く書けるようになってきたので、日記を通じてのコミュニケーションにシフトしてきています。日記は土日の宿題として「書きたい人は書いておいで」という形にして、それぞれが自分のタイミングで書いてくれます。その内容が話をするきっかけにもなりますし、教室で「○○さんはこういうことしたみたいだよ」「書き方がとっても良くて」と紹介すると、みんなの日記の書き方が充実してきて、どの子も結構しっかり書けるようになってきました。
 最近は私と話すより、子どもたち同士でコミュニケーションをとる機会が増えていて、私は見守るだけになってきています。ちょうど子どもたちが成長してきて、先生が一番ではなく友達が一番になりつつあるときで、2年生だと子ども同士では言葉が足りず伝わらないときもあるので、そこを私がうまく繋いで、コミュニケーションの仲立ちをしつつ引きで見つつ、というようなスタンスでやっています。
- 保護者や職員との距離感は、どうしている?
 保護者とのコミュニケーションで学校から言われているのは、「顔から上の怪我をしたときにはすぐに連絡をしてください」ということだけです。基本的には担任の裁量に任されているので、私は必要最低限のコミュニケーションに留めています。
 実は昨年の6月頃、初めての行事の音楽会で必要な持ち物が揃っていない家庭があり、一軒ずつお電話したんです。ほとんどは「すみません、見落としていました」ということでしたが、一軒だけすごく激怒されてしまって……。「こんなことでなんで電話するんですか」と怒られました。それで「家庭に連絡しても困る場合もあるんだな」とわかったので、保護者とは適度な距離感を意識しています。
 もちろん、必要なときには私からも積極的に関わります。昨年の7月頃に不登校のようになってしまった児童がいて、2学期からお母さんが付き添いで学校に来られていました。最初は私に余裕がなく、保護者とほとんどお話もできませんでしたが、私が意識してお母さんと話すようにしたら距離が縮まり、子どもも学校に来られるようになりました。それぞれの家庭にとってのよい距離感があると思うので、それを保っていきたいです。
 同僚の先生との関係では、どの先生と一緒にお仕事をすることになっても大丈夫なように、全員の先生方とコミュニケーションをとるように意識しています。
 でも、職員室にいるときにも若い先生方と盛り上がって会話が切れなくなってしまうことが多々あって、そういうところをベテランの先生方たちはあまりよく思われないようです。人を介して注意されたりもするので、結構本気で怒っているなと……(苦笑)。私自身はこういう人間なので、受け入れてもらうしかないかなと考えていますが、年上の先生方とのコミュニケーションは難しいと思うことがあります。
- 教員として、やりがいを感じる瞬間は?
 子どもに「学校が楽しい」と言われるときですね。先日も夏休み前に、自分を励ます意味でも「あと3日だからね」「あと2日だね」と、もうすぐ夏休みだから頑張ろうと声をかけて過ごしていて、いよいよ最終日に私から「1学期にこういうことを頑張ったよね。2学期も楽しみだよ」と話したときに、子どもたちから「今日で学校、終わりたくないです」「明日からまた来たいです」と言われ、そんなに楽しんでくれたかと感激しました。何人もの子どもからそういう言葉が聞かれたのが、すごく嬉しかったです。「でも、先生も休みをほしいから、みんなも休もうよ」と話したんですが(笑)。
 昨年も、ちょうど夏休み前にある保護者が「配布された夏休み帳の答えが2冊入っていたのでお届けに行きます」と学校に来てくださったんですけど、そのお母さんと話をしていて「さっき家で、子どもが大泣きしていたんです」と言われて。最終日に何かあったのかな、私が知らないところで何か嫌なことでも言われたのかなと思っていたら、「どうしたのと聞いたら、学校が終わりたくないっていって大泣きしているんですよね」って。本当に昨年はいっぱいいっぱいの状態で1学期が終わったので、その中でも楽しんでもらえたんだというのがすごく嬉しくて。教員になってよかったなって心から思います。
 あと、「子どもたちにやりたい取り組みが生まれたとき」というのもあります。
 今年の1学期の終業式の日に、2学期に「先生にこういうことをしてほしい」とか「クラスでこういうことをやりたい」と思うことがあったら書いてねと、書いてもらったんです。そうしたら「こういう係があれば、先生も楽になるしみんなも楽しいと思う」とか「授業のときにすぐに課題が終わってやることなくなるから、もっとプリントが欲しい」とか「もっとダンスを踊りたいから、踊れる曲をやりたい」とかいろいろと出てきていました。
 そういう子どもたちのエネルギーに触れると、「このやる気を止めるわけにはいかない!」と私も燃えてきて、そこに私も応えたい、この子たちはこうすれば喜んでくれるかなとか、どうすればもっと楽しめるかなと考えるときに、ものすごくやりがいを感じます。
 うちの学校は3年生に進級するときにクラス替えがあるので、2年生の3月までに、何か自分たちでできた、自分たちでやり遂げたという経験ができるといいなと思っています。
中山優香さん
「運動会に向けた表現運動の練習の場面です。帰りの会でもたくさん踊っています」(中山さん)
- 苦労していることや悩みは?
 仕事量の多さはありますね。正直、担任でなくてもできる仕事もすべて担任がやらなければいけないのが苦しいです。図工で描いた絵を教室に貼るという作業も、意外にたいへんで。30何枚の絵を「曲がってないかな」とバランスを見ながら、ポチポチ画鋲を張っていくのがしんどいというか……。あと名簿の整理や、提出書類が何枚も何種類もあってそれを名簿順に並べ替えたりするのもそうです。一つひとつは小さいことでも積み重なると本当に終わらないというか、大変だなと思うところがあります。
 あと、地域の教育コミュニティがあって、教科ごとに地域の教員が集まる研究会にも参加を求められたりします。参加する教員自体も減っていて、ますます一人の負担が重くなるという悪循環になっています。
 それから、「語彙力の低さ」も課題です。昨年1年生の担任をしていたときに実感したのは、大人が使う言葉では本当に子どもたちには伝わらないこと。いろんなことを言い換えて、伝わらなかったらまた言い換えて、というのを繰り返していましたが、それでも言い換える言葉が全然出てこないことがよくありました。国語の授業しかり算数の授業しかりで、本当に説明が全然うまくいかない。今は2年目になって少しは子どもに伝わる言葉を選べるようになってきていますが、それでも言い換える語彙がもう少しあったほうがいいなとは感じます。
中山優香さん
山岳県である長野県は自然豊かな環境。「校庭から見える景色です。森の先に天龍川が広がっています」
- 今後に取り組んでいきたいことは??
 今後に取り組みたいのは、学生時代から重視していた性教育です。今年の6月頃に校長先生に「2年生への性教育を、1年を通して全10回ぐらいでやりたい」と相談をしました。最初は反対されたのですが、「やっているクラスとそうでないクラスがあると、学年で不満が出たりするので、学年全体で取り組むのであればやってもいい」と言っていただいて、他の先生にも「仕事を増やしてしまいますが、こういうことをやりたいです」と話をさせてもらい、一応学年で取り組むところまではこぎ着けました。
 学校としては今までこういう取り組みは例がなく、保健の先生にも話をしたら「よいのでは」ということで、まずは2年生を対象に絵本を使って行いました。1学期は水泳があったので、水泳学習の前にプライベートゾーンの話を勉強も兼ねてやってみたところです。
 でも、使用した絵本が20年前に描かれた絵本で、社会や家庭の状況、地域の人との関係などが今の時代とは違っていて、絵本と私たちが伝えたいことがちょっとずれていたのでは、と後で他の先生からご指摘をいただきました。教材選びがちょっと足りなかったのかなとは思いますが、伝えることやめてしまったら、子どもたちがこれから苦労すると思うので、失敗を恐れず、あきらめずでやっていこうと思っています。
- 性教育の話を聞いて、子どもたちの反応はどうでしたか?
 その絵本は昨年も読んだことがある本だったので、知っているという感じで聞いていて、その後に文部科学省が出しているプライベートゾーンの説明のパワーポイントを使って、プライベートゾーンは自分のはいいけれど、人のは見ても触ってもいけないんだよと話をすると、結構興味をもって聞いていました。ただその次の日に水泳の授業が始まり、男女で分かれて着替えをしていて、好奇心からか「先生、誰々が着替えを覗いていました」という報告も受けました。子どもたちはわかっているのかわかっていないのか判断がつかないところもありますが、話は真剣に聞いてくれているので、何かが伝わっていればいいな、いつか思い出してくれたらいいなと思って伝えています。
 昨年うちの学校で、5年生の女の子がクラスの男の子に体を触らせてほしいと言われ、断れずに触らせてしまった事件があり、大きな生徒指導事案になりました。そういうことが身近に起きていることもありますし、子どもたちが性の情報に身近に触れられるようになっているので、早い段階から性教育をして抵抗なく大人になっていってほしい、恥ずかしいから触れないとかではなく、知るべきことは知るべきときにきちんと知ったほうがいいと思います。私が関わる子どもは絶対に性被害に遭ってほしくないし、加害者にもなってほしくない。それはポリシーとして思っているので、学年が変わっても取り組みを続けていきたいなと考えています。
- 気分転換の方法と、OBOG・財団へのメッセージをお願いします。
 気分転換は大声で歌うことです。教室で放課後に爆音で音楽をかけて、それに合わせて歌っています。廊下を通りかかる先生に「中山先生の教室はスキー場なんだね」と言われたりしますが、直接注意はされていないので多分大丈夫だと思います(笑)。
 あとは友達に会うこと。緊急事態宣言などがないときは、県外にも行って友達に会っていました。うちの大学は卒業生の90%ぐらいが教員なので、他県の様子を聞いたり、担当学年が同じ人に何をしているとか話をしたりして、一緒に発散しています。
 私は大学のときはいろいろなサークル入ってたくさん辞めたタイプなんですが、唯一4年間続いたのが器械体操でした。最初は単純にトランポリンをやってみたいと思って入りましたが、教採にもマットがあるよと聞いて、将来にも役立つかなと思ってやっているうちに結構はまりました。学校では昨年来のコロナ禍でマット運動ができていませんが、これからたくさんやりたいです。
 奨学生のOBOGには、授業準備の工夫術などを聞きたいです。私は3期生で、コロナ禍で直接会う機会がなかなかありませんでしたが、今後機会があればぜひ交流したいです。また財団には、研修などの学びの機会を作ってほしいです。ガチガチの教育界の中の研修より、社会の中での教育のような広い視野の研修を受けられれば有難いです。
中山優香さん
ゴールデンウィークには大学時代の友人に久しぶりに会ったそう。「安曇野の国立公園に行って菜の花畑やチューリップを眺めて楽しみました」

(2022年8月22日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
信念を持ち、しなやかな歩みを
「信念を込めた行動は、様々な経験と反省を吸収し、人間味溢れた柔軟なものに発展する」
 「断っても、ダメだと言っても翌日またやってきて、如何にこの企画が今大事かを語って帰るのだ。文句をつけたポイントはちゃんと訂正している。骨子は全く変わっていない。
 思い起こしてみれば初回は初々しく、真面目にかたい口調で説明をしていたが、徐々に可愛げが物腰の前面に出ている。断られたのに、何故こんなに明るいのだろう?徐々に来るのが楽しみになる。最後は虜になって全部提案を飲んでしまう。」
 取材からイメージした中山さんの姿は、記憶の中にある凄腕の営業、企画マンのそれだった。
 信じこみをストレートにアイデア、計画、実行に移しかえて行くエネルギーが凄い。そして授業などのアウトプットが底抜けに明るい。子どもたちは、おなかの底から楽しくて惹きつけけられる以外ないだろう。
 そして、中山さんは思ったことをそのまま表現する一方、それでうまく行かなかった場合や、相手の反応をしっかりと受け止めて次回の行動を修正している。きっとここが周りの人々が彼女を認めるポイントなのだろう。
 そのうち「しなやかに生きている」といわれるようになるのではないかと思う。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
 中山さんが魂を込めて学校を説得した「子どもの性教育」授業ですが昨今の世相や事件から考えてもとても大事な教育であると思います。
 皆さまの中でこのテーマで行っている活動がありましたら是非ご紹介ください。また、この領域で感じている悩みや問題点、講座の要望がありましたらお送りください。
 最近、とくに取材対象者の方へのエール、感動のメッセージや感想を数名分送ってくださる方が多くなっています。文面から判断して取材対象者に「OOさんからです」として送るようにしております。温かい交流にしてまいりましょう。
中山さんにも色々質問してみましょう
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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