佐藤あいりさん
2022/09/30 UPDATE
佐藤あいりさん
1期生(2021年卒)
横浜国立大学出身
横浜市公立小学校(音楽専科)
「いつ誰が輝くかわからない」のが、
音楽専科の指導の楽しみです。
 佐藤あいりさんは、公立小学校の音楽専科の教員として奮闘中。初任で、3~6年生のすべての音楽の授業を担当することに初めはプレッシャーを感じたといいますが、佐藤さんの音楽愛あふれる指導により、児童もそれぞれの個性を表現しているようです。音楽の指導法や子どもたちの様子について、実に楽しそうに語ってくれました。
- 今日はありがとうございます。近況報告をお願いします。
 卒業後に横浜市公立小学校に勤務し、今年で2年目になります。勤務校は今年創立60周年で、児童数は1学年100人くらい、全校で600人ぐらいになります。
 私は音楽専科の教員として、3~6年の全クラスと個別支援学級の指導をしています。1学年3クラス×4学年と個別支援学級をもっているので、授業数は結構多いと思います。
 私の場合、大学でも音楽が専門で、音楽を教えるのがとても好きなので、採用時に「音楽専科を希望する」に丸をつけて、希望通りになれたのはとても嬉しかったです。
 校内で音楽専科の教員は、私一人です。最初に赴任したとき、前の音楽専科の先生がとてもできる方だったと聞いて、「私は初任だけど、この学校の音楽を一人で全部作らなきゃいけない。自分がもし手を抜いたら、この学校の音楽が終わっちゃうかも」とプレッシャーに感じました。でも、子どもたちが本当に明るくて素直だったので、授業が始まってからは不安に思うことはそれほどなかったです。あと横浜市は初任者研修で指導教官が付いてくださるのですが、その方が運よく音楽に長けた方だったので、一緒に授業案を練っていただきました。
佐藤あいりさん
採光のいい明るい音楽室。「窓がスケルトンで向かいが職員室なので、先生方や移動教室の児童が廊下を通りながら見ていきます」(佐藤さん)
- 児童との関わりは、どのように?
 子どもたちに対しては、誠実であることを意識しています。例えば、私が間違えたことは「ここの部分を間違えたから、もう1回やらせて」と、はぐらかさずに伝えます。
 それから指導教官の先生が、子どもたちに「1人でやってみたい人」と声をかけ、やりたい子が立って歌ったり、リコーダーを吹いたりする場面を作っておられたんです。それが本当に素晴らしいと思って、私も実践しました。4月頃はそれほど手が上がりませんでしたが、5月6月頃になると、「やりたい」という子が多くなり、「ちょっと待ってね」というくらい、どんどん前に出てくるようになりました。自分の歌や演奏を人に聞いてもらい、「すごく素敵だったよ」と声をかけてもらうと、気持ちが前向きになるんだなあと感じます。もちろん本当に素敵なときもあるし、あともうちょっとだなというときもありますが、前に出てきて自分で発表する――まずそこが素敵だなって思います。
 音楽というと得意・不得意が分かれるイメージがあるかもしれませなんが、歌、リコーダー、鑑賞、音楽作りという領域があり、例えばリコーダーが難しい子は歌ができたりするし、逆も然りです。どちらも苦手だけど音楽を聴くのは好き、という子もいる。いつもは落ち着かずに離席してしまう子も、鑑賞の授業ではしっかり聴いて、手を挙げて発言する姿が見られたりもします。音楽の授業は「いつ誰が輝くかわからないところが楽しみだな」と思いながらやっています。
 歌の指導でも、綺麗な声(頭声)を出すために、アニメのミッキーマウスの声色を真似して「はーい、ぼくミッキー」と声を出し、そこから歌に繋げていくような指導法があるのですが、「ミッキーになれる人?」というと、だいたい元気な男の子たちが「はい!はい!僕いける!」と頑張ってくれます(笑)。
佐藤あいりさん
昨年度の3年生の合奏でのパート(木琴)指導風景。「みんなが好きなミッキーマウスマーチを演奏しました」
- 楽しそうですね。逆に、指導で難しいところは?
 学年の3クラスで、音楽の授業内容の質をすべて同じには保てないことです。絶対に1回目のクラスより3回目の方がいいものになってしまう。すると1回目のクラスに対して本当に申し訳ないな、もっとこうできればよかったなと思うことがよくあります。
 それから音楽的な学力をもとに学級編制をすることはないので、新学期にクラスが始まって1回目の歌やリコーダーを聴くまでは、どんなクラスかわからない。「このクラスは音楽を好きな子が多いな」というときもあれば、「このクラスは恥ずかしがりの子が多くて発表が難しいな」というクラスもあります。難しいのは、雰囲気的に「出るのは恥ずかしい」とまわりの顔色を見てしまうとか、遠慮して自分を出せないような場合です。そういうときは悩みながら、試行錯誤ですね。
 個別支援学級の指導でも迷うことはあります。個別支援学級は1~6年生まで全学年になるので、どこを基準にして授業を作るか、最初は戸惑いました。でも低学年の子も理解できて楽しい音楽でなければと思い、2年生の少し上ぐらいのイメージで授業を作っているところです。小学校全体で音楽科では「生涯音楽を愛好する心情を育てる」というねらいもありますから、個別支援学級は音遊びやリズム遊びのような楽しむ要素も多くしています。授業の組立ても45分間同じことをするのではなく、15分ぐらいずつに区切ったほうが、学習の切り替えもうまくでき、低学年の子も集中できますね。
- 他の先生がたとの関係づくりは?
 私は音楽専科なので、音楽室での子どもたちの様子を担任に共有するようにしています。
 本当に少しずつの関わりになってしまうのですが、4月の初めなら、新3年生で私が思う気になる子と、担任の先生が気になる子が同じかどうかは、確かめるようにしています。万一私の見落としで、支援を受けるべき子がもれていることがないよう気をつけています。
 また各担任との日々の共有としては、他の教科ではあまり輝けないような子でも、音楽の授業の中で輝いていたところがあれば「今日○○さんがとっても活躍してくれました」と話をします。そうすると皆さん、すごく喜んでくださいます。失礼な話かもしれませんが、担任から見て褒めるところを探すのが難しいような子もいて、「これで面談のときに保護者に話をできる」と感謝されたことも。
 例えば算数や国語の漢字などは、やっぱり積み重ねが本当に大事で、3年生になると徐々に差ができてしまいます。もちろん音楽も積み重ねはあるのですが、音楽なら私が担当する3年生からでも結構、仕切り直しができます。何か一つの歌がその子に合わなくても、別の新しい歌で好きなものが出てきたら、それに惹きつけられて意欲が出て、他の教科も含めて伸びてきた、という例もあります。
- 好きな曲に触れると、子どもはどう変わる?
 そうですね。子どもが好きな曲に出会って楽しんでいるときは、曲が始まると同時に聴き入っている感じを見て取れます。曲に合わせての拍打ちも弾んでいるとか、柔らかい感じとか、本当に曲を捉えたものになっています。
 ほかにも例えば歌だったら、子どもが本当に歌う気満々でいるから、歌っているときの体の入り方が違います。リコーダーでも普通に直立して毅然として吹くのではなくて、ちょっと体が揺れている、音楽に乗っている感じが見て取れます。そうして次の授業を楽しみにしている様子や、何かができるようになった達成感で満足げな表情が見られたときには、やっぱり教員としてやりがいを感じます。
 リコーダーの授業などは、教科書の曲を好きになれる子もいれば、もう少し身近な曲の方が好きな子もいるので、タイミングを見て、例えば名探偵コナンやエヴァンゲリオン、くまのプーさんなどの最初の何小節かの楽譜を作り、少しでもいいからその曲を吹けたという体験をさせてあげたいなと思っています。
 この間も、体の大きくなった6年生の男の子が、何か嫌なことでもあったのか、不機嫌そうに音楽室に入っていて、ダンダンと大きな音を立てて椅子に座ったかと思ったら、くまのプーさんを吹いていました(笑)。好きな曲に触れることで、荒れていた気持ちが落ち着いてくるのかも。私自身もそうです。朝に学校に行くのが嫌だなーという気分で、学校に着いて出退勤のカードを押してもまだ目が覚めていないようなときも、1時間目が始まって子どもたちの歌を聴いていると、テンション上がってくるんですよね(笑)。
佐藤あいりさん
「リコーダーの授業で机間指導をする佐藤さん。指づかいが不安そうな児童を見て回り、支援をします。
- 就職してから、苦労したことは?
 就職してからずっとコロナ禍で、1年目の一時期は近距離での演奏禁止といった制限はありましたが、リコーダーや鍵盤ハーモニカ、歌、鑑賞、音楽作りと、とりあえずまんべんなく授業はできました。もちろん、マスクの弊害はあります。歌うときも口が見えないからどんな形をしているのかわからないし、マスクをつけていると顎が押さえられて口を開けづらいというのもあります。歌うときも全員ではなく半分ずつ、1・3・5列の子が立って歌い、次に2・4・6列という感じでやったりもしました。
 それから、1年目の前期の成績評価には苦しみました。うちの学校は前期・後期の2期制で、9月の頭に前期の音楽専科の成績を出さなければならず、一気に4学年の400人ぐらいの評価をつけることになりました。そのときは年度が始まって4~7月の実質4か月くらいしか授業をしておらず、まだ児童の名前と顔が全部一致しているかどうか……というときだったので、名簿と照らし合わせたりしてなんとか成績をつけました。
- これからやりたいこと、課題はありますか?
 児童指導の力をつけていきたいです。音楽専科の場合、子どもとの関わりはほぼ授業の中だけになります。うちの学校は45分授業で、1時間と2時間目の間に休憩時間がありません。さらに音楽は移動教室でもあるので、子どもたちが授業の終わりに「先生」と話しかけてきてくれますが、こちらは次の授業もあるし、この子たちも行かせなきゃいけないしで、「そうなんだー」と返事をしながら一緒に追い出していく感じになります。そういう関わりだけだと、やっぱりちょっと切ないなと思うところはあります。
 私の同期に2学年の担任がいますが、その先生は子どもたちにもわかりやすく、それでいて子どもが自分の非を認められるような上手な叱り方をします。私としては音楽の授業でそこまで叱ることはないので、同期のそういう姿を見たとき、こういう児童指導の力は、専科ではあまり身につけられないかも、と思ってしまいました。
 でも2年目になって、少しずつ音楽の授業以外にも補助に入ることも増えたので、上手に叱れるようになりたいです。グダグダせずに、短くわかりやすく叱ることができたら、授業の流れももっと良くなるもしれない。最近、やんちゃな子が多い学年はずっと叱ってばかりで大変なんですが、そのときも自分の伝え方がうまくいくと、やっぱり子どもたちも素直に動けるんですよね。ここはピシッと叱る、でもここは許容してそのまま流れていったほうが楽しめていいかなという、その塩梅が難しいですね。
佐藤あいりさん
インタビュー中も身ぶり手ぶりを交えたり、豊かな表情で話をする佐藤さん。言葉だけでなく、さまざまな表現方法で音楽の指導をしている様子が伝わってきます。
- 趣味、気分転換の方法などを教えてください。
 就職して1年目の夏からドラムを習い始め、ストレス発散しています。私の得意な楽器はピアノですが、音楽室にドラムがあって、音楽専科なのにドラムを叩けないのはなんか嫌だなと思って、始めたのがきっかけです。習ってみて、もうすごく楽しくて(笑)。叩くというのは今までやったことのない行為だからかわかりませんが、シンバルを叩くときの爽快感はMAXで、すごくストレス解消になります。平日の勤務後に、疲れたな、行きたくないなと思いながら向かうのですが、やるととにかく楽しい。帰りの電車でも、いつもなら絶対に真っ先に空いた席を探すのに、「立ったままでもいいや♪」みたいにご機嫌でいられます。ストレス発散法としては、結構おすすめだなと思います。
 私は小さい頃から、ストレスが溜まって自分がおかしくなるときは、音楽をやっていないときなんです。なんかイライラがたまっていて、よく考えてみたら最近ピアノを弾いていなかったな、というような。だから私にとって音楽は欠かせないもので、ドラムもそうですし、今後も何か新しい楽器に挑戦していきたいですね。
 音楽以外の気分転換では、友達や家族と話すのは好きです。土日はきちんと休めますが、土曜日は外に出て遊んで、日曜日に少し家でゆったりすることが多いです。
 奨学生時代に仲良くさせてもらっていた仲間は遠方に就職したりして、なかなか会えていませんが、また機会があれば対面で会っていっぱい話をしたい。うまくいった授業案などを共有し、自分が担当する教科・学年以外にも視野を広げていければ嬉しいです。
佐藤あいりさん
1年前に始めた習い事のドラム演奏。月2回通っています。「叩くと気分がすっきりして、ストレス解消に最適」

(2022年7月14日の取材をもとに事務局が編集しました。)
編 集 後 記
個性の音色をひきだし紡ぐ
「どの音、どのリズムが、その子の個性に一番なのかを体感し、紡いでいく授業」
 取材を通して、音楽と子どもの話をするたびに、佐藤さんはその大人しそうで控えめそうな雰囲気から一気に転じ、何種類もの楽曲がバックで演奏されているかのようなノリを見せ、顔の表情はもちろんのこと、ボディランゲージも使って、ときに歌を口ずさむのである。
 佐藤さん曰く「音楽の授業は、いつ誰が輝くかわからない」
 よくお話を聴いていると、彼女は、頭は勿論のこと、センスと体感性で、子ども一人一人に相応しい音楽を感じ取って、歌ってもらったり奏でてもらったりしている。子どもの唯一無二の個性が輝く場を創っているのだ。更に個性の表現が全体の調和となるよう、子どもたちを導いている。いや、導くというより子どもたちが佐藤さんと化しているというほうが相応しいかもしれない。是非参加して血沸き肉躍らせたい。
 佐藤さんは言葉にも音色がある。子どもたちは言葉の意味よりも、込められた優しさや温もり、爽やかさや楽しさなどの情緒に強く反応する。そこに芯を持っている今に自信を持って進んでいってほしい。
そこで、とくに教職にある皆さんにお願い
皆さんは、子ども生徒と「たわいもない話」や「雑談」を良くしますか?
あるいは一緒に歌など歌いますか?
良くする人は、なぜ良くするのか?
しない人は、なぜしないのか?
お送りください
佐藤さんにも色々質問してみましょう
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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