柳沢将洋
2022/06/30 UPDATE
柳沢将洋さん
1期生(2020年卒)
埼玉大学出身
新潟県公立中学校(2年生担任)
新任の赴任先では、国語科教員は一人。
「自分でやるしかない」と奮闘する日々
 奨学生OBOGの間でも、近況をぜひ聞きたいという声が多かった柳沢将洋さん。実家のある新潟県に勤務してからの数年間は、コロナ禍や学習指導要領の改訂などが重なり、まさに息をつく暇もないほど濃厚な時間だったようです。
- お久しぶりです、お元気そうですね。教員としての近況を教えてください。
 2020年4月に新潟県の公立中学校に配属になり、中学1年生から3年生までの国語を教えています。私は実家が新潟県長岡市にあり、ちょうど新潟の真ん中なので、どこに配属になっても大丈夫だろうとタカをくくっていたら、豪雪地帯の山奥に配属されました。
 新潟県の場合、採用後6年間は“県”が配属先を決めることになっています。最初の3年が県庁所在地から遠い人は次の3年が近くになり、最初の3年が近い人は4~6年目に遠くになるシステムです。最初に遠いところに配属された私も今年が3年目になり、今の学校は最後の1年になります。
 山奥の豪雪地帯の小さい学校なので、各教科の教員は一人ずつしか配属がなく、国語の授業はすべて自分一人で行っています。たまたま就職した年がコロナの1年目で、4月末から5月かけて2週間ほど一斉休校で子どもたちがいない期間があったので、その時間に一人でカリキュラムを考えていました。
 就職していきなりテストも3学年分作らなくてはいけなくて、見本もないし、聞く人もいないし……というところが、かなり大変ではありました。仲のいいOBOG達に大変なんだよと言ってみたら、なーにいっちゃってんだよと軽くあしらわれて信じてくれなかったのです(笑)。
- 担任も持っているのですよね? 部活動などは?
 はい、担任も持っています。1年目は副任というかたちで、1年間学級経営について勉強させていただき、昨年、初担任がいきなり中学3年生で生徒たちを卒業させ、3年目の今年は中学2年生を担任しています。小さな学校で生徒数は少なく、昨年送り出した3年生は7人で、今担任をもっている2年生は、最近では一番多くて16人。1クラス30人も40人もいる学校とは、かなり環境が違うと思います。
 部活動は、昨年は野球部の顧問でしたが、人数がいないために今年は廃部になりました。
 今年は新しく創設された「アウトドア部」の顧問をしています。おそらく全国初だと思いますが、地域にあるキャンプ場の管理者に外部指導者に入ってもらい、バスで片道15分ぐらいのキャンプ場に行き、テントの設営をしたりカヌーに乗ったり、夏休みは実際にキャンプしたり……という部活を地域と一体となって進めています。
 教員がついての活動は平日だけで、土日は地域の人や外部指導者がみるかたちです。昨年度は野球部だったので、土日も大会や練習試合でつぶれていましたが。
柳沢将洋
顧問を務める「アウトドア部」で活動するキャンプ場。白い残雪に新緑が映える風景は、この地域ならでは。
- 職場や、生徒・保護者との人間関係はどのような感じですか?
 教員どうしは、基本的に先生という職業は教えるのが好きな人たちが多いので、うまくバカなふりをしながらいろいろ聞き出しているというか(笑)、「ちょっと教えてくださいよ」みたいな感じでいくと教えてくれます。クセのある人はいますけど、悪い人はいないのかな。自分も一回り上の40代の先輩にも物怖じしないですし、先輩のほうも遠慮なく同世代みたいな感じで扱ってくれていますね。
 今の学校のある地域は田舎なので、生徒たちも世間一般の中学生よりは、本当に田舎の「いい子たち」という雰囲気です。保護者もいわゆる旧時代的な感じというか、先生を尊重してくれる雰囲気が珍しく残っています。
- 地域の人や保護者とうまくやっていくコツ、心構えはありますか?
 2年間勤めて感じたのは教員側に自覚がなくても、地域の人は教員を色眼鏡で見ているというか、学校の中は別の世界という認識が強いです。たまたま私と街中で出会っても、「先生、ありがとうございます」みたいな。いやいや、そうじゃなくて……というところから私は始めています。もちろん教員として伝えられないこともあるし、守秘義務もあるけれど、最初は同じ人間同士というか、「そもそも私のほうが年齢も10も20も下ですよ」ということを伝えるのは大事にしていますね。
 「私は教員です」と上に立つような態度をとっても、今は保護者同士のネットワークが強いので「○○先生、私の家には強く出ているけど、誰々さんがこう聞いたらたじろいでいた」みたいな情報がすぐに回ってしまう。それよりは自分の人間味を出して、「新採用でわからないことはあります」「ご迷惑をかけると思いますが」と初めから言ったほうがいい。良くも悪くも教員という色眼鏡で見られるので、そこへ飛び込んでいくときに自分は経験も何もないのに、教員という色眼鏡だけを借りてしまうと中身のない偶像になってしまうというか。同じ教員でも、人によってはプライドもあるだろうし個性の違いもあるので、それぞれ匙加減は違うと思いますが。
- それでは、教員としてやりがいを感じるときは?
 まだ2年しか務めていないので何ともいえませんが、毎日やりがいを感じるわけではないです。正直これだけ働いているのに、一般企業に勤めていると自分の倍くらい給与をもらっている人もいて、いいなと思ったりもします(笑)。
 ただ、目に見えて生徒の成長が感じられたときとか、地域の方から「先生が顧問で良かったよ」と声をかけてもらったりとか、ふとしたときに喜びが急に来て、それがかなり大きい原動力になるというのはあります。
 生徒の成長を感じた例としては、昨年担任した3人きょうだいの真ん中の子がいました。きょうだいの上の子が高校に進学したものの無気力で通わなくなり、ずっと家でゲームをしている。下の子もそれに引っ張られて不登校になり、真ん中の子が「私も不登校になりかけたけど先生が言う通り、ちょっと頑張ってみようかなと思う」と言って高校受験をし、今も高校に元気に通い、新しい友達もできたと聞いたときに、良かったなと感じました。
 ここは田舎の学校で、地域も家族も友達もみんな家族みたいな感じで、生徒たちもここが世界のすべてと思っているんです。私が大学の友達や奨学生の同期の人の話をすると、子どもたちは、最初は本当に純粋無垢な顔で「それ冗談ですよね?」と言っていました。まるで漫画の中の話みたいな。1クラスに子どもが30人もいて、という世界を想像できないところからのスタートでした。でも、今ある世界しか見たことがない以上、それがすべてだと思うのは仕方ないと夏頃になってやっと気づいて、そこから卒業した先輩の高校生活の話を実際に聞かせてもらったり、他の学校の授業の様子を見せてあげたり、もっと外の世界があるということを事実として見せることを意識しました。高校に行けば、ここにある世界だけじゃなくてもっと広い世界がある。将来的に地元に帰るとしても、1回出てみるのもアリかもしれない、それなら高校に行っておいたほうがいいですよね、みたいな。その子にとって高校進学が正解だったかどうかは5年10年経ってみないとわからないですが、少なくとも今元気に高校に通っているという話を聞いて、自分の指導が実を結んだかなと、喜びに近い感覚ではありますね。
- 反対に、教員として直面した困難や苦労などは?
 私の場合、採用1年目が中学の学習指導要領の最後の年で、2年目が改訂1年目にあたったので、国語の教科書の内容もすべて変わってしまって。「せっかく1年目に教材研究した文章がないじゃないか!」というのはありましたね。今回の改訂では成績評価も変わり、国語では以前は5観点だったものが3観点になり、そこも大変でした。
 財団の奨学生は国語を専門にする人も多いですが、学習指導要領は10年に1回改訂になり、他の科目と違って国語は10年に一度教科書の内容自体が変わってしまうので、そこはちょっと苦労するところかなと思います。
 ICTも、昨年の夏前ぐらいからGIGAスクール構想が進んで、タブレットが一人1台入ってきました。高度な専門知識を求められるのがタブレット関係だと思いますが、現状はそれに特化した教員はいないので一般の教員がやるしかなく、間違いなく負担にはなっていると思います。
 ただ「すごいな」と思ったのが、田舎の学校でタブレットなんて使えないだろうと思っていたら、大人よりも子どものほうが使える。それは有難いです。またペンを持ってノートに書いてというのが苦手な生徒でも、タブレットならでききるところがあるので、授業をする身としては選択肢が広がって有難いです。ただ管理面を含めると大変なことは確かで、一長一短あるかなと。
 あと意外に盲点だったのが、生徒の個人情報の管理です。特に年度末の成績処理や要録関係、家庭連絡票を書いたりとか総合の所見を書いたりなどが、どうしても学校の職員室だけでは終わらず、家でやりたいと思うときがあったのですが、データは完全に持ち出せないようになっていることを改めて認識しました。
 特に私のような若手は、職員室で仕事をしていると自分の仕事が終わる前にどんどんいろんな仕事を振られてしまう。土日に落ち着いて自分の時間でやりたい、でも個人情報は学校でしか扱えないというところは、多くの若手教員が直面するところかなと思います。
柳沢将洋さん
国語の授業風景。生徒数が少ない分、一人ひとりの理解度をふまえた指導ができます。
- 大変な状況を乗り越える秘訣は? 人に相談したりはする?
 私自身は「やるしかない」って思ってやっていました。教員の場合、日中関わるのは子どもたちなので、子どもに救われる面はあります。一般企業に勤めたら、自分より年上の気難しい先輩や上司を相手に毎日頑張っている人もいる中で、教員は子どもと関わるのが仕事のメインになるので、そこで救われている。昼間エネルギーを充電して、子どもが帰った後はもうやるしかないという感じです。
 あと、これは私のキャラクターかもしれないですけど、同期などの仲間に相談するというよりは、しょうもないバカな話をしていることのほうが多かったですね。私が相談を持ちかけても、悩みとして受け止めてもらえないですし(笑)。
 でも、大学の友達とか奨学生の同期と話していても、自分の仕事で悩んでいることを共有して一緒に解決策を探してもらうというよりは、悩みをしょうもないことと一緒に打ち明けながら、そのときぐらいは楽しい話をして、どこかで頑張っている同期がいると思ってもらえたらいい。勤務先などの条件はみんなそれぞれ違って、悩みの内容も違う。ただみんな、全国各地で苦しんでいることには変わりはないので、「みんな苦しんでいるね、でも頑張ろうか」みたいになったほうが、個人的にはいい時間だったかなと思います。
- 現役の奨学生に伝えたいこと、OBOGに聞きたいことをお願いします。
 人に何かを伝えられるほど立派な奨学生ではなかったんですが、新卒で教員になった人は何も知らないと先輩も地域の人もわかっているので、それを素直に受け止める謙虚さというか、そこにプライドは持たないほうがいい。「ゼロからのスタートなんです」というのを認める謙虚さと、初めてのことばかりでとにかく業務に追われる日々を駆け抜けるエネルギー、バイタリティみたいなものは、持っていたほうがいいかもしれないです。  あとは、絶対にここだけは譲れないというところ、新卒だろうが30代、40代だろうが関係なく、先輩に言われても「ここだけは譲れないんだ」というところを持ってないと、いいように利用されてしまう。
 私も1年目から、40代の先輩教員に意見をしたことがあります。これは“柳沢調べ”なんですけど、子どもは若い先生が好きです。年も近いし感覚も近いから、子どもが求めていることを一番受け止めてあげられるのは若い教員の強みだと思います。あるとき、40代の先輩から「おれが若いときは違った。どうせ、あいつらはこういうことを求めているんだ」みたいのを押し付けられたときに、「そうじゃない。あなたが若い頃の子どもはそうだったかもしれないけど、目の前にいる子たちはそういうことを望んでいないですよ」と。当然「経験もないくせに何を言っている」と言われるんですけど、子どもの姿は事実として見えているので、それは譲っちゃいけない。なので、謙虚なところと譲れないところ、相反するものを持っておくといいのではないかと思います。
 同じ卒業生のOBOGには、休日にどんなことをしているのか、聞いてみたいですね。私自身は、基本的に土日に仕事はしないようにしています。頑張って金曜までに終わらせて、土日はサッカーやバスケットを見に行ったり、全然違うことをして、新たな気持ちで月曜を迎えるようにしています。スポーツ観戦は、採用同期の教員の妻とも一緒に行きます。私の趣味に無理に付き合わせてしまっている感じですが(笑)。

(2022年5月10日の取材をもとに事務局が編集しました。)
柳沢将洋さん
休日はスポーツ観戦で気分転換(写真はアルビレックス新潟)。月曜から元気に教壇に立つためにメリハリは重要。
編 集 後 記
俯瞰して見れば、火もまた涼し
「常に集団を丸ごと捉え、その中の個々の相手、そして自分も俯瞰して見つめている」
 柳沢さんは、初めてもった担任が中3、3学年面倒みて、1年で指導要綱変わって、部活の顧問もやって、地域活動との連係も引き受けて、結婚相手も見つけて、と変化に満ちた教師の仕事を、一人親方でやり抜いてきた。しかし、それを語る彼は満面に近い笑顔をして涼しい。彼の話は「集団や相手はこう思うから(けど)自分はこう話す」という特徴がある。きっと高い視座から自分を含めた人間関係を見つめているので、適度な対応とコミュニケーションが取れてしまうのだろう。だから自分の大変さについても適度な感じ方をするのである。
 奨学生時代の彼は、最高の弄られキャラであったと記憶している。弄られてもそれを楽しんでいるようだった。そのころから俯瞰力があったのだと気づかされた取材だった。
そこで、とくに教職にある皆さんに質問
 皆さんの持っている「大変だ」「こんなのできない」とか「こんなにできない」と思ったようなお仕事上の出来事・エピソードを送ってください。そしてできればどうやって解決したかも添えてください。どんなことでも結構です。
柳沢さんの質問にも答えてくださいね
募集中
学びをより広く
深いものにするために
取材を受けてくれたOBOG教員たちは、一生懸命自己開示してくれています。
1.彼らに感想やメッセージを送ってください
2.記事中の彼らの質問になるべく答えてください
3.編集後記の「皆さんへの質問」に、なるべく答えてください
メールにて、hakuho-f-obog@ddcontact.jp (教職育成奨学金ネットワーク事務局)までお送りください。
皆さんからいただいた感想やエール、質問への応答は、多様な知見のストックとなります。
「1期生 小学校教員○年目」という紹介にて、追って掲載いたします。
このコンテンツは、奨学生のOBOG限定です(現役奨学生や関係者向けには別途編集したものを後日提供予定)。
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